もしかしたら、そういうことの全部が、病気の一部
やっと捜し当てた浅葱さんは、真っ青な顔をしていて、泣きそうな様子で、あたしを捕まえて抱き締めた。
通り過ぎる人たちが、何事かと驚いて、あたしたちを振り返っている。
それはそうだ。ここは車が行き交う交差点の真ん中だし、あたしはもう中学生で幼い女の子ってわけじゃない。自分の面倒は、自分でみられる年頃だった。
迷子だったのは、あたしではなく、浅葱さんの方だ。
「ど、どうしたの? 大丈夫だよ。べつになにもなかったし。ほら、危ないから……渡っちゃおうよ」
浅葱さんとはぐれてしまったのは、あたしがお洒落なスポーツ店のショーウインドに見とれていたからだ。シーズンの新作――ウェアやラケットは、とても可愛い物が多くて、つい目を奪われてしまった。
「ほんとうに大丈夫? なにもなかった?」
「あたりまえだよ、ちょっとぼんやりしてただけ。そんなに心配するようなことはないよ」
ときどきだけど、こんなことがある。
浅葱さんは、たぶん、もうすぐパパの奥さんになる筈の人で、そういうことになる前はパパの部下だったんだそうだ。額の後退したおっさんだけど、パパもなかなかやるもんだ。
浅葱さんはいろいろと資格も持っている『意識高い系』で、もちろんプロポーションも完璧な状態をキープしているし、ナチュラルなメイクは芸能人みたいだった。しかも、手がすいている時は、なにかムズカしそうな本を読んでいる。
でも、それってどうなのかなぁ、ってあたしは思う。もしかしたら、そういうことの全部が、病気の一部なんじゃないだろうか?
がんばりすぎる人は、そうしないといられないような、なにか人には言えないような理由を、持っているような気がする。
あたしの考え過ぎならいいんだけど。
「……ごめんなさい。わたし、やっぱり少し変よね」
浅葱さんはすごくしょげてしまった様子なので、あたしはなんだか申し分けがなくて、励ますつもりで浅葱さんの手を取った。
「いこうよ。せっかく来たんだから。甘い物を食べたらきっと気分がよくなるよ」