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時はしばらく遡り
「う、ん~、あ?」
目が覚めたときに目に入ったのは馬車の屋根だった
「起きたか!よく寝てたな」
「おはようございます。調子はどうですか?」
声を掛けてきたのは隆二と仁美だった
そうか……俺はあいつに負けたんだったな……クソッ
「あれからどれぐらいたったんだ?」
「四時間程だな。相当酷くやられてたんだな、寝てる間もうなされてたぞ」
そんなにたってんのか。はーあ、マジで完敗だったもんな。琴音を連れてかれるなんてマジでついてねーわ
せっかく異世界に来たんだから琴音も仁美も俺の物にしようと思ってたのによ
他にもクラスには狙ってる女子がいたが殺されてしまっては仕方がない
「こっぴどくやられたな、えっと……ゴジョーだっけ?
あいつは別格なんだから負けたからって気にすんなよ」
ギルドマスターが励ましてくれるがスッキリしない。佐藤はそんなに強かったのか?あんな根暗でオタクで気持ち悪い、クラスの雰囲気を壊すだけの不穏分子だったのによ
「ところで、今から行くのは島の調査って聞いてましたけど何があったんですか?」
「あ、それはそろそろ教えてくださいよ。創が起きたら話すって言ってたじゃないですか」
「そうだねー、そろそろ良いかな
これから向かうのは通称砦の島と呼ばれている。その島には昔からある魔物が住み着いていてね、昨日のような大量の魔物なんかはそこを素通り出来ない筈なんだよ」
「え?それなら何であんなに大量な魔物が来たんでしょう?」
隆二が聞き返す。俺も気になっていたのでそれは知りたい
昨日の魔物の数は数百以上いた、あんな量が簡単に移動できないような魔物がいたとしたらかなり強いはずだし
「その砦の主が殺られたか、砦を放棄した位しか理由がないんだよね。だからこそ今回の調査ではその主がどうしているのか確認するのが目的さ」
サリアさんと一緒に乗っている冒険者は知っていたのか落ち着いている
「確認だけですか?」
「いや、まあ、そういえるしーいえないって言うか、何て言ったら良いんだろ?」
「マスター……少しだけ黙っていてください。私が説明しますので」
冒険者さんがアンリエッタさんの変わりに説明してくれる
「皆様、申し遅れました。私はマスター側近冒険者のアサヒと申します。以後お見知りおきを
さて、マスターの変わりに説明させていただきますと、これから向かう砦の島には小型から大型まで多種多様な魔物が住んでいます
今回の依頼は主の確認です。島の主は島の真ん中にいます
つまり、私たちはたくさんの魔物と戦いながら島の中心にたどり着かないといけないのです。
これでお分かり頂けたでしょうか?先程の質問の答えが。
確認だけなのは確かですが場合によっては戦闘もある、と言うことです」
長い説明を終わらせるとすぐに席についた
「出来るだけ君たちには戦わなくても済む様にするけどもしもの時があるからその時はよろしくね」
「はい」「おう」「分かりました」
話を聞くと今乗っているゴーレム馬車でも後二時間はかかる様なので戦う心構えを整えておく
クソッ、さっき完敗したばかりだからか全然戦える気がしねぇー
五条創は今までの人生の中で完全な敗北はなかった。何でもそつなくこなせる性格で勉強、スポーツ全てにおいて平均を余裕で越えれる成績をとってきた
今回の敗北はそんな自信に溢れた心を傷つけるには十分すぎるものだった
「仁美」ボソッ
「なんですか?」
藤城隆二が小声で篠宮仁美に話しかける
「創さ、やっぱりプライドが傷ついたのか?」
「どうでしょうか?いつも以上に考え込んでいるのは確かなようですが、それで少しは収まってくれるかどうかは分かりませんね」
二人は佐藤と五条が戦う時に、ここで負ければ少しは傲慢な考え方が収まるかもしれないと考え、佐藤に勝負をしてもらった
結果的にこてんぱんにされたので最初の目標は達成できたが更正したかどうかはまだわかってない
「さあ君たち、島についたら大変になるから今はゆっくりしてるんだよ。寝てるでもよし、集中力を高めるでもよしだ」
アンリエッタさんは元気なのかテンションが高い
よく見たらサリアさんは寝ているようだった
何で受付の人が来るんだ?Dランクあれば全員ってことか?
気になるが今は体を休めることにする、まだやられたときの影響が残ってるのか胸の辺りがモヤモヤする
そして、二時間後
「ついたよ、みんな起きてくれ」
アンリエッタさんの声で全員が起きる。外を見てみると大きな川があり、向こう岸にはいろんな魔物がいた
ここから見える範囲でも、大きなイモムシ、鼻が四本ある赤っぽい象
奥の方には大きな木があり、その上に翼のはえた何かが飛んでいた
「あそこに行くんですか?私たちでは何のお力にもなれそうにないのですが」
仁美が不安そうな顔をしている
「大丈夫だよ。私もそうだが、アサヒとサリアも相当に強いから」
「ご安心ください、皆様。ある程度の認識阻害魔法を使いますので基本は安全に進めます。貴方達を連れてきたのは今後のためだとご理解ください」
ここにいるメンバーは強いみたいなので安心できる
しかし、五条は納得していなかった。当然である。依頼を受けてここまで来たのになにもしなくて良い宣言
頼られてそれに応えることになれている五条には物足りなく感じてしまう
絶対に活躍してやる!俺はあいつよりも強いはずなんだ!絶対に次は勝つ!そうすれば琴音も僕のもとに帰ってくるはずだ!あんな奴より俺のほうが琴音を大事にしてやれる!
僅に歪んだ考え方になり始めてることに、隆二と仁美は気づかなかった
「さあ、この川から危険地区にはいる。安全に進むが油断はしないでくれよ!」
「「「はい!」」」
「セーフティエリア」
サリアさんが魔法を馬車に使う
「今のは?」
「私より弱い魔物に見つからないようにする魔法です」
それは便利な魔法だな。確かスキル屋があったから帰ったら行ってみるか。でも、サリアさんはどれぐらいの強さなんだろ?弱かったらこの魔法もあんまり意味はないが
「言っただろう?サリアは強いって」
考えを見透かしたかのようなタイミングでアンリエッタさんが言う。ギルドマスターがいるんだからなんとかなるか
「さあ!行こう。アサヒ!頼むよ」
「はい!マスター!
バブルロード!!」
大きな川を跨ぐように泡で出来た道が現れた
おおー、スゲェー本当に泡の道だ!どんなスキルを持ってるんだろ?俺もあんなスキルがあれば負けることなんか無かったのにな
「なら……望…………よう」
ん?
「なあ、今何か言ったか?」
五条にはとても小さくて聞きにくかったが少女のような声が聞こえた。ような気がした
「いや?何もいってないぞ?な!」
「はい。私も何も言ってませんよ?何か聞こえたのですか?」
仁美が警戒するように辺りを見渡しながら聞いてくる
「すまん。俺の勘違いだわ」
気のせいだということにして忘れる
泡の道を渡り、島のなかに入った
「魔物だらけですね」
仁美はあまり虫が得意ではないので虫型の魔物を見るたびに顔をしかめている
「仕方ないさ。でもこっちに来ないのは幸いだったね」
サリアさんの魔法は効果抜群のようで一匹たりともこの馬車に向かってくる魔物はいなかった
「流石サリアさんだぜ、ただの受付嬢さんじゃなかったんだな」
隆二の言う通り本当にすごいと思う。こっちに来てからあまりたってなく、やれないことが多いことは分かっているがやっぱり俺のプライドが許さない
俺は何でもそつなくこなせるんだ。すぐにサリアさん、アサヒさんを越えてマスターを倒せるぐらいの力をつけてやる
「……に…………捧げ…………ない」
まただ、またあの声が聞こえた。なんなんだこの声は?
島に入りしばらくしたら魔物に襲われ始めた。サリアさんより強い魔物のようだ
「やっぱり格下までしか効かない魔法ではここぐらいまでが限界ですね。ここからは戦闘に移ります!アサヒさんそちらはお任せします」
サリアさんの声にアサヒさんは素早く反応し左右に別れて魔物の撃退を始めた
「君たちは二人の戦いをよく見てるが良いよ。君達にとっては良い経験になるはずだからね」
アンリエッタさんは二人に任せっきりで椅子にのんびりと座っている
「勉強させていただきます」
仁美はアサヒさんの隣に行き戦い方を学んでいる
「どうしたんだよ創」
ドカッと隣の席に隆二が座る
「少しな……俺たちはまだ弱すぎるって分かったんだよ。正直言うと俺はやる気になれば何でも出来るって思ってた、でもこの世界じゃ俺より強い人なんか山のようにいて届きそうにないぐらい遠い」
こんなに遠いんだもんな
佐藤もかなり強かった。俺の攻撃を一度も受けずに終わった
そのぐらいの実力をサリアさん、アサヒさんから感じる。恐らく二人以上にアンリエッタさんは強いだろう
実際に正面から襲ってきた高さ四メートル程のマンモスみたいな魔物をレイピアの一突きで消し飛ばしていた
「隆二さ」
「ん?」
「いや……すまん、何でもないわ」
「そうか?無理すんなよな!お前は抱え込むことがあるから気を付けろ」
ハッキリしない俺を元気付けてくれる
だが……俺は早く強くならないと
その気持ちだけがずっと五条の心を支配していた




