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佐藤(さとう)健吾(けんご)の人生は嘘にまみれていた

過去に何かあったと言うわけではなく、ただなんとなくで嘘をつき続けてきた


彼は小さい頃からしっかりと自我がありあまり子供っぽくなかった

しかしそれでは回りと馴染めずに孤立してしまう


この時彼は初めて自分に嘘をついた


自分は子供なんだから皆と遊ぶのは普通でおかしくない。遊びたくなくてもここでは遊ぶべきなんだ


そう考えてずっと過ごしていた


彼の両親は幼い頃に離婚してしまい母親しかいなかった

なので、保育園に迎えに来るのも皆が帰ったあとになっていた


いつも遅いと先生達すら面倒を見ることがなくなっていく


彼は何かやることを探していたが昼に皆と遊んだものばかりで時間を潰せるものなど無かった


彼はなにもせずにただぼーとする事があった

あまりにも気配を消しすぎるので先生が電気を消してしまうほどにだ


親が迎えに来たときには電気が消えていたので、うちの息子はどうしたのかと聞いている母の声が聞こえていた


先生達はごめんなさいね、と謝罪をしてきたので笑顔を浮かべて許してやる

彼はまた嘘をつく


許してなどいないのだ、職務を放棄していた人達を許さないといけない義理はない

だが彼はそれを表に出さない

無邪気な子供を演じ続ける


その夜は母親に抱かれて寝た

「真っ暗の中怖かったね」と言われたがそんな事思ったことなどない

また彼は嘘をつく

涙を浮かべ「怖かったよ~」と泣きつき母の甘える子供を演じる


小学校に上がってからも嘘をついた。いかなる時でも回りと外れないように合わせる

勉強、性格、食事等々回りに会わせて出来るようになっていくふりをした


そして彼は四年生になる頃には一番目立たない生徒になっていた


彼には特出するものが何もなかったのだ

皆の平均なのだから

成績は悪くはないが彼よりいい人はいっぱいいるし、生活態度も挨拶はでき、友達とたわいもない話をし、部活をしないで帰る


そんな彼はいつしか大勢の中の一人として扱われるようになりさらに目立つことがなくなった


中学卒業までその扱いを受けていた


卒業式で親への感謝の手紙を書かせられたときは嘘の盛り合わせだった


自分を産んでくれたこと

女手一つでここまで立派に育ててくれたこと

いつも優しく見守っていてくれていること

そのすべてに感謝しています。と書いたがそんなこと微塵も感じてなどいなかった


彼は産まれてからほとんど本音を言わずに育ってきたためか性格があやふやだった


好きなもの嫌いなもの嬉しいこと悲しいこと

そのすべてがわからなくなっていた


そんな彼は高校に入学するときに一つの目標を立てた

それはオタクになることだ。それもアニメオタクに


何故アニメオタクなのかと言うと彼の友達にアニメオタクがいてアニメのことなら任せとけと自信を持っていたからだ


何かに本気で取り組めれば何かが変わるかもしれない

そう考えてアニメオタクになることを決意した


それからは早かった

あらゆるアニメを見まくって知識を得た


中学卒業から一ヶ月と少しで彼はアニメオタクと言っても過言ではないぐらいにオタクっぽくなっていた


しかし、まだ彼は自分に嘘をつき続けている

本当はそこまで好きではないが、好きであった方がよりオタクっぽく見えるならそのアニメやキャラを全力で応援し、好きであるかのように振る舞った


そして、そんな彼は今自信が好きだと公言していた異世界に召喚されそうになっていた


高校一年の夏休みが終わり始業式に出たあと、教室に戻って先生が話をしようとしたとたん床にアニメやラノベで見た魔方陣が広がっていた


「今から皆には僕の世界に来てもらうことになったからよろしくねー」

そんなふざけた台詞が頭の中に直接聞こえてきた


回りは騒ぎが起こっていた

教室から出ようとするもの、窓を開けようとするもの外部との連絡を取ろうとするものなど様々な人がいた


それならと、彼も騒ぎ出す

このクラスの中ではほとんどの者が騒ぎ立てている

普通の反応は『騒ぐ』であっているのだ


しかし、騒いだところで事態が好転するわけでもない

彼のクラスは全員が召喚された


「やぁあ。佐藤健吾君」


床の魔方陣が光ったと思ったら次の瞬間一瞬だけフワッとした浮遊感に教われ気づいたら真っ黒な世界にいた

そこには青みがかった髪と赤色と白色の目を持つ少年がいた


「ここは?いったい何処なんだ!?」


彼は一般の人のリアクションをする

内心ではどうでもいいな、と既に興味などない。何処に行ってもやることは同じなんだ

自分に嘘をつき、相手に嘘をつき

嘘に嘘を被せて自分を作っていく作業


「ここは時空の狭間の世界だよ」

「狭間の世界?」

「そう君たちは召喚されたからね、そのまま送っても何も出来ないだろうからここで力を与えてるって訳さ」

「マジですか、なら俺にも力くれんのか」


オタク友達と喋っているときに使っている口調を使って喋る

彼はアニメオタクとして得た知識から異世界物の定番やお約束不足の事態に備えての心構えなんかを得ていたのでこのあとの展開はおおよそ予測できる


「もちろん君にも力をあげるよ」

「マジか、で、どんなチートをつれんだ?

ここはチートの代名詞である強奪とか、鑑定とか戦闘系とかだよな」

「僕は君に力を与えるとは言ったけどそれは新たに僕から送るものではないんだ」

「どういうことっすか?」

「ここの世界でやっていることはもとの世界で培ってきたものをスキルとして具現化させるって作業だよ」


そのあとも長く説明があるが短く纏めると

スキルとは魂に刻まれるものであり、例え神からの贈り物だとしても魂に合わなければ得ることができない

今回召喚されたのは高校の一クラスで全員が何かしらのスキルを得ているようだ

例えば、野球をしていたものなら棒術と投擲術、身体強化

サッカーをしていた者なら蹴技を持っていて、ポジションによっては縮地、鉄壁などを使えるものがいる

スキルにはレベルが0~10まであり数字が大きいほど影響が大きくなる


「さて、そろそろ君にスキルを授けようか」

「おなっしゃす」


少年の体が三メートルほど浮かびこちらに手を向けてきた


「スキルを与えたら君は気を失うだろう。次に目を覚ましたときにスキルを確認してくれ

この世界はスキルを得たものはすぐに出されるようになってるから次起きるのは異世界だね」

「マジかよ、なら今のうちに。いろいろお世話になりました。あなたの事は多分一年ぐらいは忘れません」


オタク友達との会話で使っているフレーズを使う


「うん。僕も忘れないよ。じゃあまたね」


その言葉を最後に辺り一面を青い光が覆った


光が無くなったときには少年の姿しかなかった


「健吾君には幸せになって欲しいな。彼は本当の『心』と言うものを知らないんだから

それにしてもすごいな僕の魔眼は人の本質を見抜くってのにあんなの初めて見たよ」


少年は健吾を見たときに寒気を感じていた

本来なら欲望やその人の心情、どういう人なのかが一目でわかる魔眼に得体の知れない仮面を幾重にも重ねた怪物が見えたのだから


「僕に出来ることはこれぐらいが限界だな

健吾には元の世界は余りにも住みにくすぎたんだな、もっと早くやってあげればよかった

地上にいるあいつにも謝っておかないとな」


少年の姿をした者は徐々に形を変え立派な成人男性の形で固定された


「本当にすまなかった






































我が息子よ」

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