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フェイク・リアルム  作者: 大園らくむ
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第二十九話

 翌日、早速マンドレイクの幹部が屋敷に召集された。そして、かすみの存在、記憶の損失、統治政府の奇行を伝えた。すると郎一郎が意外な発言をした。

「こんな感じに記憶の事実が明らかになるとは思ってなかったなぁ。僕は薄々感じてたんだ。だけど確証がなかった。僕の中には記憶の断片みたいなものがたくさん残ってるんだ。例えばこのマンドレイク結成時の記憶。みんなの頭の中には別の改ざんされた記憶があるはずだ。例えば、リーゼントと須藤くんは元々の知り合い。クレナイはデミゴッド社員で川津氏に引き抜かれた。でもそれは偽りの記憶。本当は、去年の夏に凛太くんの呼びかけで集まったダチュラプレイヤー。リーゼントと須藤くんは初対面同士。もちろん、僕もみんなと会ったことはなかった。ただ、さらわれた友達を助けるために奮起していた凛太くんにみんなが惹かれ、マンドレイク結成に至った」

 郎一郎の発言に、一同驚きを隠せないようで、皆口を開けたまま話を聞いている。

「マジかよ、それって何かの病気なのか? 薬とか飲まねーといけねぇのか? おれ、粉薬が飲めねぇーんだよなぁ」

 正人のスカスカの脳みそでは、郎一郎が言ったことを理解できなかったようだ。

「病気の可能性はないから安心しなよ。病気だったとしたら一月三十一日に零時を回ったタイミングで記憶を失うなんてありえない。それに、ここは曖昧なんだけど、去年の夏の戦いで、僕は左手首を失ったはずなんだ。思い込みなのかもしれないんだけどね。でも、今の僕の左手はちゃんとここにある。これは一体どういうことなんだろうか?」

 郎一郎は自分の左手を不思議そうに見つめながらそう言った。

「ということは、時間が巻き戻ったということか?」

 クレナイが腕を組み、真剣な面持ちで訊いた。

「それはありえません。私は記憶を失わない。今年になって、彼が私のアドレス帳から消えたときにその可能性を疑いました。でも、衛生時計は正常通りに西暦が変更されてました」

 かすみはクレナイの仮説の可能性を否定した。

「そうだな。時間が巻き戻ったってんなら、今こうやってマンドレイクとしてここに集まっているわけがない。マンドレイクという組織を組み立てる作業をもう一度やらないといけなくなる。ということは、マンドレイクという組織がすでに今年の世界にアップロードされたということなのか?」

 リーゼントが言った通り、そういうことになるのだろう。しかし何をどうすればそんなことが可能なのか。全人口の記憶を書き換えることがどうすれば可能になるのか。

「そういえばなんだけど、去年の夏のマンドレイク結成に至った最初の戦いの後、統治代表がトイローズを撲滅すると宣言したんだ。でもそれ以降、政府は表立った動きを見せなかった。わざわざ会見まで開いたのに、具体的な政策も法の改正もなにもなかったと思う。そして僕たちはそれからもずっとトイローズと戦い続けたはず。おそらく政府側が動くより僕たちが動く方が効率がいいって考えたのかもしれない」

 郎一郎の発言を聞いて、おれはとんでもない仮説にたどり着いた。

「まさか、そのためにマンドレイクの存在が今年にアップロードされたことか。ということは、おれたちの記憶を操っているのは統治代表ティナムイール・ウォル?」

「さすがは凛太くん。察しが早いね。下手人が統治代表だとすれば、記憶の改ざんの方法もなんとなく見えてくる気がするんだ。全人口に無償でBIMを提供した人物だしね」

「しかし、BIMにはそんな機能はないはずだ。開発部に聞いても否定すると思うがな」

 クレナイの発言により、おれの中に新たな仮説がふと浮かんだ。

「いや、可能だ。実際におれたちの記憶は操作されている。ということはデミゴッド製のBIMの隠れた機能についての記憶を操作することだってわけはない。そう考えれば統治政府がかすみを狙っていることにも納得がいく。きっと記憶の操作ができないということは、かすみのBIMがエラーを起こし遠隔での操作ができない。だからBIMを無理やり交換させようとした。そう考えれば全ての辻褄が合う。きっと郎一郎の左手の件は思い込みだよ。いろんなことをはっきり覚えているのに、そこだけが曖昧ってことは、何かの記憶と混合してるんだ」

「そうだと……いいんだけど……まぁ、てなわけで、僕たちはどう動けばいいのかな?」

 少し納得がいかないような表情を見せたが、すぐにいつもの柔らかな表情に戻り、リーゼントに指示を仰いだ。

「記憶のことはおれからメンバーに発表する。まぁ、年が明ける直前にメモかなんかしてポケットに入れときゃ記憶がなくなっても思い出せるだろう。そしてかすみさんの護衛についてだが、基本的にはそのっ、なんだ? 彼氏である凛太が直接つけ。かすみさんのBIMにナリフィケーサーをインストールし、もしもの緊急事態におれたち幹部に直接緊急連絡ができるようにする。外出は極力避け、外出時には護衛の申請をするように。腕っ節のいいやつを十名程度派遣する。本来の任務要請が入り、トイローズと戦わなければならないときには護衛班としての十名をこの屋敷に配備する。それでどうだろうか? ボスっ」

 リーゼントは片眉をあげ、おれを見下ろしながら男らしい表情で笑った。政府の連中がこの屋敷内に入ってくることはないだろう。川津家は統治政府に莫大な資金提供をしている。うちと対立はしたくないはずだ。

「うん。それでいこう。みんな、すまないがかすみを守るために協力してくれ。今日はこれで以上だ」

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