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フェイク・リアルム  作者: 大園らくむ
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第十九話

 目の前には大柄で散弾銃を構えた色黒サングラスの男。左端の隅にはこれから売られてゆくはずの人質たちが集められている。皆、若い女で、その中に猿轡さるぐつわをはめられたレンの姿があった。

 右端には高価そうなテーブルが置かれており、そこには白髪の黒ずくめの老人と、中国系の服装をした人物、さっきこの部屋に逃げ込んだ二人が腰かけている。

 ナリフィケーサーは本来ゲームのチートプログラム。しかしそれを現実世界で使用することにより、おれが想像していたよりも様々な使い方ができるようだ。

 郎一郎の意図。それは部屋の状況を把握ができたおれはそのことをクレナイに伝え、後衛班とおれたちの連携のとれた作戦を考え出させることだ。

 早速、クレナイに今の状況と部屋の状態を説明した。

「リーゼントの作戦を伝える。後衛班は二手に分かれ、突入班を引き連れその部屋の外に回り、外壁を登り、一つの窓ガラスに石を投げ込む。その音にサングラスの男が注意を向けた瞬間、凛太たちは突入し男の動きを封じる。おれたちは人質側の窓から一斉に突入し、人質の救出を行う。子どもじみた作戦だが、おれたちは武器を持ってない。男の動きを封じても、その老人と中国人には気をつけろよ。作戦開始はガラスの割れる音が合図だ」

 リーゼントの作戦は確かに子どもじみている。しかし、それが故相手の意表をつくことができるかもしれない。音に反応して散弾銃を放ってくれれば、弾切れになる。あのタイプの散弾銃は最大装弾数は二発だ。

「僕を雇ってる組織の構成人数はなんと一人。僕たちは正式に組織に加入してるわけじゃないからね。一人なのに、今や裏組織のデミゴッドですら一目置いている。そんな組織の秘密を知りたくない?」

 郎一郎はまだ適当な話で相手を釣ろうとしているらしく、朗らかな表情を絶やすことなく話しているのだろう。

「確かに。それは気にならなくもないが、お前が言っている話が本当だという根拠もない。それに、雇い主の秘密を惜しげも無く話すような奴は信用できない。もしお前が本当のことを言っているのだとしても、おれはその情報を取引材料にする気はない。つまり、お前が何を話したとしても、お前たちが死ぬ時間が少しだけ伸びるだけさ」

「僕は無類のおしゃべり好きなんだ。最後に有意義な時間を過ごしてからなら、死んでもいいのさ。僕たちの雇い主、それは金髪の小さな少年さ」

 おれは少し驚いている。確かに、このメンバーに倉庫襲撃を促したのはこのおれだ。雇ってはいないが、発起人という意味であればおれがリーダーでもある。でも、おれは彼らに演説をした際、マスクを着用していた。声も違う。なのに、郎一郎はあれがおれだと見抜いてとでも言うのか? 

「ほう、そんなガキごときにお前たちは従ってるってのか? なおさらつまらんな。そんな組織を潰したとて、自慢話にもならない」

「そうだね。でもさ、もしそんな組織にあんたたちが潰されたら、別の意味で自慢話になるんじゃないかなぁ?」

 そう郎一郎が言った瞬間、ガラスが割れる音と共に銃声が響いた。案の定、散弾銃の男は音がした方向を撃ち抜いたようだ。

 おれたちは突入し。郎一郎とともに男の動きを無事封じることができた。他のメンバーはテーブルについている奴らの動きを封じ、右側の窓からはクレナイたちが侵入し、人質にかけられた猿轡や、ロープを解いている。完全にこの部屋はおれたちが制圧した。

「凛太くんっ!」

 そう聞こえたかと思うと、背中に誰かが抱きついた。

「本当にっ、本当に来てくれた。ありがとう。私、ずっと信じてたよ、絶対に凛太くんが助けに来てくれるって。凛太くんが駆けつけてくれるって。だから、怖かった。余計に怖かった。もし助けに来てくれて、凛太くんが私の目の前で死んでしまったらどうしようって、思えば思うほど、怖かった。だったら私はこのまま消えた方がいいんじゃないかって、そんなことも思っちゃった。でも、この人が部屋に入ってきたときに思ったの。凛太くんが助けに来てくれているんだって」

 レンはおれにすがりつきながら郎一郎を指差した。

「だからぁ、ありがとぉ~。無事に生きて助けに来てくれて、ありがとぉ~」

 そう言って、子どものようにおれの背中に顔を擦り付けながら泣いている。

「凛太、良かったな。無事、友達を助け出せて。それだけでおれたちは凛太に付いて来て良かったって思えたさ」

 おれは郎一郎に、どうしておれがXだと思ったのかを訊こうとした瞬間、郎一郎は突然おれを突き飛ばした。と、同時に銃声が轟いた。サングラスの男が床に取り押さえられた状態から腕力だけで救出班を振りほどき、散弾銃を手に取り発砲したようだった。

「この銃は特別仕様でな。装弾数は三発なんだよ、くそガキがっ」

 そう言い放った直後に郎一郎、クレナイを除く全ての奴らからの総攻撃に遭い、大人しくなった。

「凛太、怪我はないか?」

 クレナイにそう訊かれ身体を確認したが、怪我はしていないようだ。しかし、血が周りに飛び散っている。それに郎一郎がうずくまっている。

「郎一郎! 大丈夫か? お前、なんでおれをかばって?」

 苦悶の表情を浮かべる郎一郎のあるべきはずの左手首がなくなっていた。それを見たおれは、激痛に支配されているであろう郎一郎があげるべき悲鳴をあげた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 腕の切れ口からは際限なく血液が溢れ、切断された断面は不規則に脈を打ちながら動いている。そんな絶望的な状況に置かれているはずの郎一郎は、腕を背後に回し、立ち上がって、さっきまでの柔らかな表情で言った。

「気にすることはない。たかが腕の一本や二本、今年が終われば解決するさ。それに、その彼女が言ってたじゃないか。無事に助けにきてくれてありがとうって。せっかくのハッピーエンドをぶち壊したくなかったのさ。それに、凛太はずっと孤独の中で暮らしてきたように見える。僕と一緒でね。大切な人にさえ、本当のことを打ち明けることができず、なんでも自分の力だけで解決しないといけないとばかり思ってきた人間が、初めて素直になり、人に助けを求めた。そんな姿が健気に思えたんだ。だからみんな黙って君の作戦に乗った。危険を冒してまでね」

「と、いうことは、みんなおれがXってわかっていて、協力してくれたってことなのか?」

「あぁ、少なくともこの部屋にいるメンバーはね」

 郎一郎が優しい顔でおれに微笑みかけた。

 部屋を見渡すと、クレナイが無言で頷いた。リーゼントが気恥ずかしそうに笑っている。他のメンバーたちも、おれの正体を見抜いていたようだ。

「残念だったなぁ~、凛太ぁ。とりもち苦労ってもんだな」

 ワイルドなスマイルでそう言った須藤は、完全にレンに気づいてもらえるようアピールをしている。おれは須藤もレンを助けるために駆けつけてくれたことをレンにインプットさせるため、口を開いた。

「それもいうなら、とり越し苦労だろっ! アホ正人っ」

「おぉ、凛太が久しぶりに昔の呼び方でおれを呼んだなぁ」

「アホがついてることに対しては黙認してるのかよっ」

 そう言って、皆が笑った。場が和んだ。

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