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彼女と私

彼女と電話とラの音と

作者: 高見 和香

 音叉の響きが好きだ。

 音叉とは楽器の音を合わせる時に、基準となる音を出す道具だ。銀色でU字型をしていて、たたくと“ホー”と鳴る。私が持っているのは440hz、ドレミでいうとラの音が出る音叉だ。

 その音叉の音は完璧な響きで、例えば“朝陽が昇ってくる時の音”というものがあるなら、このラの音がゆらぎなく響いているのだと思う。


 昭和が平成に変わって間もない頃、私は彼女との長電話が習慣になっていたことがある。

 夜、入浴を済ませると、部屋にこもって彼女に電話をかける。最近考えたこと、その日の夕食の内容、読んだ本について、音楽の話、男の子の話、ついさっき見たテレビドラマの話。

 心を通わせる話から、どうでもいい話まであらゆることを話した。

 お互いのボーイフレンドから「電話が通じない」と文句を言われるくらいに、彼女との長電話に夢中になっていたのである。


 彼女は私よりも高い声で話す。音は高いが鋭さはなく丸い声で、音叉の音を思い出させるような声だった。彼女との話の内容が重要だったわけではなく、彼女の声をいつまでも聞いていたかった。


 ある時、私はひどく取り乱して、いつもと違う時間に電話をかけてしまった。

 明け方だったにも関わらず、もちろん眠っていたのにも関わらず、彼女は家族が起き出す前に、受話器を取ってくれた。

 どんな慰めの言葉をくれたのかは、忘れてしまったが彼女の声を聞いているうちに、少しずつ落ち着いてきた。話していると、窓の外が明るくなってきた。


 夜明けだ。

 もうすぐ朝陽が昇る。

「ありがとう」と彼女に言ってから、受話器を置いた。

 完璧なラの音が響く中、私はようやく眠りについた。

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