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地獄恋愛 その7

「数雪さんのことも、どっかで余白を作ってる。私にあきれて捨てられることになっても、私はまだ若いから次の男……なんて、言うだけでもむなしいこと常に考えてて……」


僕も離れすぎた歳の違いから杏の言う余白をたくさん作ろうとしていたけど、それはすぐに純粋に好きという気持ちじゃなくて、ただの執着心で黒く塗り潰されていた。


「分かるよ、僕もいつ杏に捨てられてもおかしくないって思ってるから」


「捨てません!」


杏が間髪入れずに声をあげた。


「ありがとう、僕も杏に驚かされるけど、あきれても捨てたりしないから」


「嬉しいです、正直にそう思います。今は余白が埋りました」


今は、か。


「舞は、これからどうなるのか誰にも、本人にも分からない未知で、きっと少しのきっかけで立ち直るとか、自殺とか、どっちに転んでもおかしくないような所に居る。それをどうにかしようと躍起になるより、ただ、舞を見離さないこと。それだけしかできないし、続けられないって家族で決めたんです」


杏がむくりと起き上がる。

上布団も一緒に持ち上がり、冷気がぬくもりを奪ってゆく。


「私や家族なりに舞を見続けた結果です。この生き地獄みたいな現状がいつまで続くか誰にも分かりません。それでも私は舞がどんな意味でも旅立つまでその地獄に居続けます」


どんな意味でも旅立つまで。


もちろん、自殺してもいいっていうのは本意ではないのだ。


でも、もし、そうなったとしても、杏やその家族は舞を見離さないということなのだ。

そう決めるのは共倒れを防ぐことになると、一家の誰かが知っているのかもしれない。

その誰かが杏だと、僕はどこかで分かっていた。


「数雪さん、私のこと好きですか?」


薄暗い中、浮かび上がる杏の裸の上半身。

表情は闇が隠して、どんなに目を凝らしても確かめられなくなっていた。

それでも僕は言える。

僕も起き上がり、杏のむきだしの両肩をつかんだ。


「愛してる」


「数雪さん……」


「杏やご家族が決めたこと、僕は理解して認められる」


薄情、と言われることを覚悟で杏は打ち明けてくれたのだろう。


「僕なんかが偉そうに言えたことじゃないけど……」


「そんなことないです!数雪さんに私はそう言ってほしかった、私の捨てられない、大切な地獄を知っていてほしかった」


杏の地獄か……。


地獄を、僕と同じような捉え方をしている杏に密かに感動していた。


杏とは歳も、考え方もずいぶん離れていると思うけれど、不思議と一緒に居られる。


それってやっぱりお互い好き同士だからなのだろうか。


それとも、どこか似ている所があるからだろうか。


その理由は長く付き合っていけば明白になるのだろうか。


ふと、頭に浮かんだイメージは、業火燃えたぎる背景に閻魔や鬼の姿、針山や血の池のほとりで杏が笑いながらブランケットを広げ、微笑む僕とピクニックをし始めた光景だった。


「数雪さん、私もあなたのこと愛してる」


やっと吹き出した温風にあたりながら僕らは抱きしめ合った。


「この子が産まれたら余白なんて言ってられなくなりそうですけどね」


杏が僕の胸の中でボソリと呟く。


「この子って!?」


杏を引き剥がし、僕は慌てて訊く。


「数雪さんと私の子供ですけど?」


とぼけたように杏は答え、てへぺろポーズをした。

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