地獄恋愛 その5
しかし、久しぶりに生徒と向き合ったことに、教師という仕事が僕の生きる養分だったことをやっと思い出した。
───僕は、子供たちが生きてゆくことを手伝いたい。
理由が初めて言葉で浮かんだら、もう僕は過去の間違いも、今まで逃げ続け目をそらしていたことも、全てひっくるめて子供たちの為に使うことを決めた。
僕の地獄は子供たちの地獄を突き進む糧になるのだ。
僕のクラスだった生徒たちが、他人を排除するような人生を送っていたとしても、僕はそのことすら今の生徒たちの為に使ってみせる。
わなわなと腹の底から黒い熱が沸いてきた。
聖人君子でいなければならないと、どこかで決めつけていたのかもしれない。
子供たちは進む道で惑うことこそが生きる力になる。
間違えてもそれをきっと糧にできる人になってほしいと、僕はずっと言い続けたい。
そんなうまくいかないことは承知しているし、また性懲りもなく間違えるかもしれないけれど……。
「せんせー、いつもみんなを心配してたこと、塾の生徒全員知ってるよ」
山原が杏に似た花のような笑顔を咲かせた。
「せんせー、ありがとう。好きだよ」
「……」
突然の好きだよに、どう受け取ったらいいのか判断できず僕は固まった。
生徒としてだよな。
「ありがとう」
戸惑いながら、でも、素直に嬉しく思ったことを伝える。
「杏お姉ちゃん、死刑執行しないの?」
山原が挑発するように杏に笑いかける。
一体、どういうことだ?
「ふっ……まーちゃん、告白したくらいじゃ何も始まらないわ。だって、数雪さんには他の女じゃとうていつとまらない私という彼女がいるんだから、まーちゃんが私より数雪さんを笑顔にすることができる?できないでしょ?数雪さんはね、私を見ただけでニヤニヤしたり、デレッとしたしまりのない顔をするの。私が大好きって言ったら目に涙をためて、それは幸せそうな……」
「ストップストップ!」
僕は杏の止まりそうにない話を両手を振って遮る。
顔が熱い!
恥ずかしい!
山原があきれて頬杖をつき、残ったピザに手を伸ばす。
「もう、勘弁してください」
僕が熱い顔を手で覆いながら横目で杏を見る。
「ふふ!」
やっちゃった、というように肩をすくめながら杏が笑った。




