地獄恋愛 その2
「あれ?数雪さん、舞ちゃん、もしかして、デート?数雪さん、浮気は死刑だぞ!」
山原が手に持ったままのピザを取り皿に落として、僕は驚いて少し浮いていた腰がソファーにしりもちをつく。
杏は前髪を触覚のようにくくって薄いパステルカラーのモコモコとしたスウェット上下という格好に、足元は素足に大きめのサンダルを履いていた。
杏の登場に絶望的だった僕の心が、僕の意思とは関係なく急激に浮き上がる。
「おいしそー!食べてもいいですよね?私、お腹、ペコペコで」
杏が僕の隣へ座り、ピザを一切れ持ち上げる。
その手が、寒さのせいか、別の理由なのか、小刻みに震えていた。
山原もそれに気付いて目を伏せる。
「あ、前髪、ちょんまげのままだった、はずかし!」
ピザを咀嚼しながら杏は前髪をくくっていたゴムを外す。
それでも杏はどう見てもパジャマ……家でくつろぐ格好にしか見えない。
テーブルの下でサンダル履きの素足が痛々しい。
僕はそっと靴を脱いで、杏の足先よりはあたたかい自分の足をサンダルの上に乗せた。
杏はわずかに目だけを見開き、山原には気付かれないようピザを食べ続けた。
そして、サンダルを脱いで僕の右足を自分の足でサンドする。
冷たい。
僕の温度が一気に取られる。
「舞。数雪さんのこと勝手に連れ出さないでよ。私の彼氏なんだから。妹でもムカつく」
杏が冗談めかして山原を叱った。
「……ごめん」
めずらしく山原が素直に謝る。
そんなんじゃないことは明白だろうに、わざわざ注意する杏の考えを図りかねた。
「数雪さんも、いくら教え子で可愛い彼女の妹だからって何でも言うこと聞いちゃだめです。私にちゃんとちくっ……相談してください。分かりましたか?」
杏は僕のことは冗談ではなく、はっきりと睨んで注意する。
僕のことは本気で怒っていた。
こわい……。
目が確実に怒っている。
浮いた前髪がさらに迫力を増して……。
しかも、自分で可愛い彼女って言った……。
そして、絶対、ちくってって言おうとしていた。
「これからは気を付けるよ……」
たじたじで僕が言うと、杏は僕の挟んでいる足を自分の足でぎゅっとして、よろしい、と僕専用の笑顔を見せた。
「………」
不意に泣きそうになった。
杏の笑顔に安心してしまったのだ。
どうしてだろう。
胸の奥があたたかい。
杏が隣に居ることが、すごく、頼もしい。
温度をとられた足が、だんだん熱を帯びてくる。
杏がその熱をもとめるようにさらに僕の足に自分の足先を、密着させた。




