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杏の秘密 その7

どうして?


志望校も決めて自分が機能していると言っていたじゃないか。


どうして、そんな、ありえないことをしているんだ。


「うちって、本当に普通のしあわせーな家族で、じいちゃんばあちゃんと両親、杏にお兄ちゃん、犬と猫まで飼ってる。もめ事なんてめったに起きない」


山原がテーブルの木目を指でなぞりながら、うつむき加減に語る。


「その家の中で、私だけがなんか浮いてて、みんな普通に接してくれてるけどさ、普通に優しいけどさ、私が普通に学校に行けないこと、ピアス開けすぎなこと、金髪なこと、どうして?って思ってるのが分かっちゃうから……思ってなくても、私が一番、そう思ってるから……」


山原の指が水の入ったグラスにぶつかる。


僕もさっき、山原に対してどうして?って思ってしまった。


普通、普通に、普通の子供。


普通の子供でいるために、自分の考えを押し殺して周りと馴染むことを優先するのが普通。


柔らかすぎる若い思考力では、そうしないことの方がつらい。


少し気の強い考えに流され取り込まれる。


正義とか悪とかではなくて、その場で決まってしまう秩序にただ従っているだけなのだ。


独善的な集団の空気に外れた子供は変わり者。はぐれ鳥。


自分達は従ったのにという不満の渦の格好の餌食。


否定したくてたまらない自己形成の必須栄養素。


そこから生まれてしまうアイデンティティーに個性は生殺しだ。


傍観する者も、免れているかもしれないがその光景を見て浮かぶ感情は忘れたふりをしてもいつか自分に問いかけてくる。



───本当はどうしたかった?




僕は、本当は……。


「せんせー、杏は恐がってるんだよ?」


「……何を?」


背中を伝う悪寒をごまかすように僕は無理に口角を上げる。

山原のこの続きの言葉が、どうか日常的であることを願って。


「私が自殺すること」


ザン!と、僕の目にうつるスクリーンが真っ暗になった。

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