杏の秘密 その6
「あっちの方にさ、おいしいピザ屋があるんだけど」
山原が店のある方向を向きながら呟く。
「……時間は大丈夫なのか?杏のことで僕に見せたいことがあって呼び出したんだろ?」
「……まだ行っても早いし、お腹すいちゃったし……」
なんだか様子がおかしくなってきた山原を僕は直視しないまま、それでもまだ言いよどむ。
「じゃあ、食べてから行くか?」
僕はため息まじりにそう言うと、山原がぱっと顔を明るくさせた。
僕は疑問を抱えながらも山原と歩いて五分ほどのピザ屋に向かう。
店に入りマルゲリータとビスマルクを注文する。
日曜の昼ということもあり、店内はなかなか賑やかだった。
「で、ピザが来るまでになにか説明はあるのかな?」
僕は向かいに座ってまだメニューをしげしげと眺めている山原に問う。
「……せんせー、杏ってさ絶対泊まっていかないでしょ」
メニューから目を離さず、山原が静かに言う。
「………」
「あれって私のせいなんだよね」
パタンとメニューを閉じた山原が僕を見て微笑んだ。
「山原のせい?」
「そうだよ。せんせー、私のせいで杏、泊まっていかないの。私が夜に徘徊するから」
「……徘徊って……どっか遊びに行ってるのか?」
すぐに想像するのは山原が仲間と遊び回っている光景だった。
「違う。ただ徘徊するんだ」
「………」
「夜になると呼ばれてるような気がして、皆が寝た後、こっそり家を出る。私の家のまわりはなんもないから、ただ夜の中を歩く。自転車の時もあるけどね」
ざわついて、明るい店内に山原の淡々と語る声だけがなぜか暗い。
「でも、だいぶ前に杏にばれちゃってさ」
「止められたのか?」
「ついてくるんだ。毎回、毎回」
「………」
「私に話しかけることもなく、ちょっと後ろをずっとついてくる」
「どのくらいの時間、徘徊するんだ?」
「……夜明けまで」
「え……」
「夜が明けるまで」




