杏の秘密 その5
日曜日、僕は正午前にN駅へ降り立った。
山原がわざわざ呼び出したわけを色々と想像するも具体的なことは何にも浮かばなかった。
塾で保管している山原舞の書類に目を通し直してみたが、二世帯同居の兼業農家で母親からの聞き取りでは家庭内の問題点は思い当たらない、と記されてあった。
一駅しか違わないのに、緑豊かなN駅周辺の景色に僕は大きく深呼吸をする。
山原はまだ来ていないようだった。
昼間ということもあり、寒さは和らいでいたので外のベンチに腰かけて待つことにする。
昨夜はよく眠れなかった。
想像するのはとっくに諦めたが、知らないことを知るのはやはり緊張する。
それが好きな人のことならなおさらだ。
僕の手におえないことだったらどうしようか。
杏を諦めるのか、と自問自答をして否、と答える。
答えるだけは簡単だが、やはりこの目で見て、それから判断しなければならないのだろう。
杏にどんな事情があるにせよ、全ては僕が自分で決めるのだ。
もう、ごまかしたりしていてはだめなのだ。
杏がどんな人でもこの気持ちは変えられない。
変えたくないんだ。
夜明け前、僕は布団の中でそう決めた。
山原に負けてはいられない。
僕も杏と生きることで機能したいのだ。
「せんせー、来たんだ」
いつの間にか山原が僕の前に立っていた。
「……山原、髪」
トレードマークの山原の金髪が、真っ黒に戻っていた。
「イメチェンだし」
黒髪を耳にかけると、シルバーのピアスがたくさん冬の陽射しを受け、きらめいた。
よけいに迫力が増しているような気もするが、僕は曖昧に頷きつつ立ち上がった。
「家に着くまでに説明はあるのかな?」
しきりに髪を手ぐしで整えている山原に、一応、訪ねてみる。
「……せんせー、お腹すかない?」
山原が僕を見上げて、自分のお腹を両手でおさえた。




