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杏の秘密 その2

夜まで空いている教室で、一応、出入り口を開けたまま山原と対峙する。


「山原、あの、実はな……」


さっそく本題を切り出すと、山原は大きなため息をついた。


「……なんだ、どうした?具合でも悪いか?」


顔色もいつもより白い気がして、調子が悪ければまた後日にしようかと迷いだす。


「せんせーと杏が付き合ってるの、とっくに知ってるし」


僕を見ないまま山原が呟く。


「そ、そうか……あ……お姉さんから聞いてたのか」


「……聞かなくても分かるし」


「……どっかで二人で居るのを見たとか?」


僕の脳裏にはコンビニでの朝食が浮かぶ。


「せんせー、もういいから。そんなこと、どーでも!」


「……怒ってるのか?」


苛立った物言いの山原に僕は戸惑う。

この年頃の女子は怒るとなかなか機嫌が直らない。


「怒ってないし……」


急に語気を弱め目を伏せる山原の気持ちがはかれず、しばしお互い無言の時が過ぎた。


「……ごめんな、先生とお姉さんが付き合ってるなんて、複雑だよな」


思い付く不安要素を言葉にして謝る。


年頃の山原には受け入れがたいに違いない。

嫌悪感さえおぼえているかもしれない。


「……結婚すんの?」


山原がまだ僕を見ずにとても小さな声で言った。


「え、いや……それは……」


僕の気持ちだけでは決められない、と続けようとした瞬間、山原が僕を射抜くように真剣に見つめてきた。


「せんせー、うちに来なよ。杏とのこと本気なら、うちに来て杏のことちゃんと知っときなよ」


目だけが真剣なまま、山原の口角がにぃっと上がる。


「でも、本気じゃないなら早めに別れてあげて」


そのままの表情で山原が続ける。


「……本気だよ」


つい、ムキになって言い返してしまう。


長く続かない、と思いつつも手離し難い存在に杏はとっくになってしまっていたのだ。


「せんせー、本気だって証拠に今度の日曜、うちに来てよね」


「……ああ、杏に…お姉さんと相談して……」


「誰にも!」


山原が僕の言葉を遮る。


「誰にも言わずに、杏にも内緒でこっそりと来て」


「……どういうことだ?挨拶に来いってことじゃないのか?」


「……違う。せんせー、違う。私はせんせーに杏をちゃんと分かってもらいたいの」


「………」


家族にしか分からないことは確かにある。

僕の前の杏はきっとまだ柔かな表層なのだろう。

それをめくってゆけば、やがて固い地層が現れる。


山原はきっとそれを僕に見せたいのだ。


見せて僕に本当に杏を受け入れてもらいたいか、無理ならばさっさと退場してもらいたいのだろう。


まだ十四歳の山原がこんなに言ってくる事情は、察するに重いものだ。


僕は、杏を諦める理由を探しているのかもしれない。


逃げ続けた副作用がそんなことを思い付かせた。


「……せんせー、どうしますか?」


山原が不安を含んだ視線を寄こす。


「………」


僕は無意識に唇を、血の味が滲むほど噛んでいた。

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