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杏の秘密 その1

街を歩けばすっかりクリスマスムードで、早い夕暮れはイルミネーションの格好の舞台だ。


人恋しさを増長する寒さに僕は杏を思い出す。


あれから休みの日は僕のアパートへ杏は足しげく通ってくれて、関係を深めていった。


夕ごはんを一緒に作ったし、身体を重ねることにもぎこちなさが少なくなった。


しかし、杏は決して僕の部屋で朝を迎えない。


終電近い時間になると必ずそわそわとして、僕に帰宅を告げる。


僕は車を持っていないが、それでも家まで送ると申し出る。


少しでも一緒に居たいとかもあるが、夜道は物騒だから。


杏は弟に駅まで来てもらうと言い、結局、送って行けるのは僕の住む街の駅までだった。


無事に帰り着いたら連絡してくれ、と頼みホームで手を振る。


実家暮らしだからしょうがないと思うが、胸の奥を秘密の予感がよぎった。


あんな蕩ける顔で僕を見つめる杏が裏切っているとすれば相当な役者で、それはもう僕の完敗でいいのかもしれない。


そんな慰めとも言い訳ともつかない予防線を積み上げて、休みの日になると壊すことを繰り返していた。


「せんせー、浮かない顔、杏とケンカ?」


授業中、山原舞が僕を呼び質問の合間に小声で言ってくる。


「……」


僕が驚いて顔を上げ何も答えられないでいると、山原は、「ウソでーす」と、また問題に取り掛かるのだった。


そういえば、僕と杏が付き合いだして山原はずいぶんとおとなしかった。


今の学力より上の高校を受験したいと塾長に相談していたのは知っていたので、僕をからかうどころではないのかと思っていた。


杏とのことはできれば黙っていたかったのが本音だ。


正直、長続きする気がしない。


杏の若さはもちろん、僕はすぐに不安になる自分をごまかしここまで進んでしまった幼稚さが嫌だった。


しかし、結婚を視野に入れて関係を決め付けるのは杏に申し訳ないし、何か違う気がする。


……これも言い訳だ。


結局は僕の不安定な覚悟が原因なのだ。


僕なんかが……と。


山原に報告するかしないかよりも、この後ろめたさがいけない。


「山原、夜の授業の前にちょっといいか?」


ちょっとずつでも後ろめたさを潰したくて、山原に報告することを決める。


山原は興味無さげに「はーい」と、返事をした。

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