朝ごはんも夕ごはんも その8
「数雪さん、おいしい!」
鍋の湯気の向こうで杏が驚きの声をあげる。
「数雪さん、めちゃくちゃ料理が上手ですね……私、どうしましょう……」
お椀の中を見下ろしながら杏が落ち込んだように呟く。
痛い思いをした杏を休ませている間に僕が鍋を作ったのだが、そんなにほめられると思っていなかった。
ただの寄せ鍋で、既製品の出汁は買わず、家にある粉末の出汁と醤油、みりん、酒を調合したつゆとあとは鍋に入れた食材がいい仕事をしている。
「これくらい誰でも作れるよ。ほめすぎだ」
僕は苦笑しながら杏のお椀に煮えた鶏肉や、ねぎなどを入れてやる。
「一緒にキャッキャ言いながら作りたかったのに、悔しい!」
杏は僕を睨みつつ、お椀の中身をふうふうと冷ましながら次々にほおばる。
「また今度だな。今日はしょうがないさ。あんなに……」
後に続ける言葉を僕は豆腐を食べて共に飲み込んだ。
色々と思い出してしまうとせっかくの平常心がまた乱れてしまう。
「数雪さんがあんなにえっちだったとは、私、カルチャーショックでした」
「っ!ぐふっ!」
杏の突然の言葉に、僕の努力は水の泡になる。
「男の人はみんなあんな感じなんですか?女は大変なんですねぇ」
「ゲホ!カハッ!」
杏がニヤニヤとして立ち上がり、むせている僕の横へ来る。
「数雪さん、大好き。夕ごはんも一緒に食べられて私、幸せです……」
僕の膝の上にスルリと腰掛け、杏が抱きつくと、背中を優しく叩いてくれる。
「……カルチャーショックって……」
杏の肩にあごを乗せ、僕はお行儀の悪い彼女をやれやれと抱き返すのだった。
だって、好きが大好きになったことに気付いてしまったら、怒れないじゃん?




