朝ごはんも夕ごはんも その7
僕の勝手な誤解もとけ、杏も言いたいことを言えて緊張がとけ、仕切り直して再度スーパーマーケットへ向かう。
さっきまで僕にびびっていた杏は嘘のように天使爛漫な笑顔で商品を選んでゆく。
「数雪さん、数雪さん、これは?好きですか?これは?食べられますか?」
嬉しそうに食材を手にして僕に見せる杏。
僕はそんな杏に付き従いカートを押して頷いた。
僕はすっかり疲れてしまっているようだ。
アパートに着くと杏の存在も忘れて大きなため息をついてしまった。
「ごめ……」
狭い玄関で後ろを振り向くと杏が困ったように微笑んだ。
「数雪さん、ごめんなさい。私、色々知らなくてごめんなさい」
「………」
「私がもっと大人なら、数雪さんをくつろがせられるのに……」
杏が僕の背中に抱き付いた。
僕は買い物袋を足元に置き、身体を杏へ向けて改めて抱きしめた。
あたたかく柔らかい杏の身体は僕にすっぽりと収まってしまい、一瞬、途方に暮れる。
それでも、さっきまでの疲労は不思議と溶けるように消え去った。
ずっとこうしたかったのだと思い知る。
抱きしめられない、触れられないことがストレスになっていたのだ。
杏の言う好きの段階説は真理かもしれない。
今の気持ちはさっきまでの気持ちとまるで別物だ。
杏を乱暴に扱いたい衝動が押さえられない。
でも、そんなことできないし、したくはないから、落ち着くために杏の頭に頬を擦り付け匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
「……数雪さん、私、汗くさいから止めてください」
僕の胸の中で杏がくぐもった声を出す。
「ご、ごめん」
ちょっと変態チックな行為だっただろうかと杏から少し離れる。
でも、杏の汗は出会った時と同じの甘い匂いで、もう歯止めはききそうになかった。
「数雪さん」
杏がふにゃふにゃな隙だらけの表情で僕を腕の中から見上げる。
「……杏」
もう、待てなかった。
「ん……」
押し付けた唇を杏の唇は受け止めてくれる。
最初はぎこちなく、段々、柔らかく。
僕が舌でなぞればふわりと入り口を開いてくれた。
杏の後頭部を左手で支え、右手で身体をもっと寄せる。
熱い唾液を交換すれば、まぶたの裏が赤く弾けてさらに深く杏の口に入り込む。
「か、数雪……さ……」
息継ぎするように杏が僕の名を呼ぶ。
「おいで……」
杏から離れ、僕が先に靴を脱いで中へ上がる。
ぼうっと夢見心地な表情の杏がヒールを脱ぎ後に続いた。
畳に横たわった杏は怖がるどころか、僕を許すように両腕で抱き寄せたのだった。




