運命回避の輪廻 その6
パキッと僕の視界が固まる。
静止画のように流れる景色も、もちろん止まった。
現実では電車はホームを行き過ぎて、明るい駅から真っ暗な夜へ進行しているだろう。
でも、僕の目は山原兄の背中にピッタリとくっついた女性だけを見ていた。
あのコンビニで出会った女性に間違いない。
山原兄の背中越しに山原を見て嬉しそうに笑っていた。
僕に見せた笑顔と一緒だった。
可愛らしい笑顔。
僕が否定して忘れて我慢していた笑顔。
僕は窓の外を見続け、気が付くと二駅も降り過ごしていた。
無人駅のホームへ降り立ち、引き返すために反対側へ階段をトボトボと上る。
鉛でも靴に仕込んでいるかのように足が重い。
もう一度、忘れるだけだ。
ああ、忘れろ。
山原兄の彼女とか、そんなの考え込む前に逃げるのだ。
僕に焼き付いた記憶も、日常で冷ましてやればいいだけ。
そうだ。
いつもと一緒だ。
生徒のつらそうな表情から目をそらすことと同じだ。
ガクン、と足が空を踏み、階段の最後の一段を飛ばして僕は通路へ倒れた。
両腕で上半身を支え、頭は無事だったが足首に少し痛みが走る。
「ふっ……」
無性におかしくなり口角が自然にひきつる。
周りに人はいない。
ごぉごぉとホームを吹き抜ける風だけがうるさかった。
ひび割れたコンクリートに僕の息がかかり、砂埃がそこだけ掃かれる。
なんだかあの女性に出会ってから僕はみっともないな。
こんな、どんくさくないはずなのに。
のろのろと手すりにつかまって立ち上がる。
屋根のないホームの階段から見上げた夜空にはもう雨雲は一つもなかった。
その代わり、はるか上空で白く輝く月が僕を照らしているのだった。




