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終電に間に合うなら その4

無性に帰りたくなり服を着てスーパー銭湯を後にした。


終電に乗り、立ったまま電車の窓に映る自分を見ていた。


冴えない中年男。


カッターシャツも髪型も、眼差しも全てくたびれている。


それにくらべて、あの女性は輝いていた。


若さに服までもが光輝いて……そんな人が僕を王子様だって?


コントにもなんねーよ、つって。


思わずせせら笑ってしまい周りを気にして見渡すが、酔っ払ったサラリーマンがうなだれているだけだった。


軽く咳払いをして目の前の席に座る。


女性を支えた時、甘い匂いがした。

洗剤や香水なんかじゃない、体温の匂いが。


見た目より支えた感じが重かった。

その重みがずっと僕の手を包んで、女性の手の柔らかさも頭が勝手に反芻している。


どんな顔だったかよく思い出せなくて、ずっと思い出そうとしている。


あーあ、楽しかったな。


うなだれていたサラリーマンが突然赤ら顔を上げ、僕の方を向く。


もしかして声に出してしまっていたのだろうか。


「……あんた、なんちゅー顔してんだ、きしょくわる……」


サラリーマンは半分しか開いていない目で僕を見て言った。


「え……」


「にやにやにやにや……きしょくわる……」


そう言うと、サラリーマンはまたすぐうなだれるのであった。


「………」


きしょくわるい、か。


そうだよな。

あの女性とどうこうなんてありえないし。

楽しかった、それでいいじゃないか。

慌てたり、怖かったり、びっくりしたり、拍子抜けしたり忙しかったけど、楽しかった。

にやにやできたんだ。


ふと、向かいの窓に映った僕と目が合うと確かに笑っていて気持ち悪かったが、さっきより若く見えたことは間違いなかった。

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