終電に間に合うなら その3
仕事が終わり駅に向かう。
ゆっくり風呂に浸かりたいけれど、帰り着いたらもう日付が変わる手前だ。
お年寄りばかりのアパートだから朝はいくら早くても問題ないが、夜中に水音は響く。
僕は駅から引き返し、スーパー銭湯へ進路を定めた。
どうせだから仮眠して始発で帰ろうか、と脱衣所で服を脱ぎながら考えているとズボンからひらりと紙が落ちる。
朝のペーパーナプキンだった。
何ともないふりをして拾い上げる。
「………」
インクが滲んだ数字の羅列を、僕はもうすっかり暗記していることに胸が痛い。
片手でペーパーナプキンを握り潰し、ごみ箱に投げ捨てた。
浴場に入り、シャワーで身体を洗ってからサウナに向かう。
サウナの中には強面の太った男が真ん中を陣取っていた。
僕をちらりと見たが興味無さそうにすぐに目を閉じる。
男の視界に入らない位置に僕は座り、ガラスの向こうにあるテレビをぼんやりと観るともなしに観ていた。
僕が全く興味のないスポーツニュースだった。
熱い空気を鼻から吸い、口から吐く。
こうすれば汗の出が違う。
幾度か繰り返し、少し休んで普通に呼吸する。
身体が芯から熱くなり、サウナの温度で乾こうとする肌から逆らうような汗が染み出る。
呼吸が辛くなってくる。
壁の時計を確認すると十分ほどしか経っていなかった。
疲労がたまっているのか限界を感じた。
僕は立ち上がりサウナを出る。
扉を閉じる際、男が目を閉じたままにんまりとしたのを僕は見逃さなかった。
水風呂に入り身体を落ち着かせる。
いつもはもうちょっと長く居られるのに。
水風呂を出てシャワーで髪ともう一度身体も洗い大浴場でゆっくりと温まる。
脱衣所で下着姿のまま髪を乾かす。
鏡ごしの時計を見るとまだ終電に間に合う時間だった。




