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終電に間に合うなら その1
それからの一日はあっという間だった。
いつもの通りの仕事だったが、いつもの通り忙しかった。
「せんせー、いつにも増して毒気が抜けてんぞ。仙人にでもなるつもりか?ギャハハ!」
いつも通り金髪が眩しい生徒にからかわれる。
いつもと違うことは一つもない。
それからしばらく僕のあだ名が仙人になった。ありがたいことだ。
僕の仕事は子供達に勉強を教える仕事だ。
平たく言えば学習塾だが、塾長の方針で平日の午後からは不登校の子供を受け入れている。
昼は基礎的な学習、夜は進学の為の学習。
給料は安いが僕はもう学校の教師には戻れないし、今の勤め先が一番自分に合っていると思う。
学びたい意思を持った子供でないと扱いが難しいからだ。
何のために勉強するのかとよく昔の生徒から質問された。
僕は答えられなかった。
答えがないからではなく、人それぞれ違うからだ。
僕は教師になりたくて勉強した。
勉強に一生懸命な生徒の大半は進学したいからとか、いい就職先に採用されたいからとか、自分で定めた理由がある。
でも、そんなことに価値を見いだせない生徒は迷う。
どんどん難しくなる授業について行けなくなる。
僕は普通人間だから上手いことごまかしたり、発想の転換したりできず、ただとにかく勉強を教えることしかできなかった。




