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異世界最弱御当地ヒーロー

作者: じぇにしす

一発ネタです



目が覚めた。


何時ものように、顔を洗い、用意された朝食を食べ、速攻で学校へ向かう。両親と妹が家族にいるが、まだ起きない。


外では夏の蝉が煩く、新聞配達をしている軽トラが自宅前をふと通り過ぎる。


そんなありふれた朝を迎えているのは、どこにでもいるちょっと都心に離れた田舎住まいの高校生男子。それが俺、重藤 司だ。


運動部のような大きなバッグに例のモノをしまい込んで、家を出る。


「いってきます」


そうして、俺は学校へ向かうのだった。


朝というのは清々しいものだ。特に今日一日の晴天を約束してくれる朝霧なんてものは最高に心地よい。霧の水滴が顔に当たり、次第にチャリを漕ぐ自分の意識もハッキリしていく。


自宅から高校までの距離は遠い。親が私立の有名進学校に行けというので合計1時間もかかる道のりを歩まねばならない。まぁチャリと電車だからあまり歩かないのだが。それならいっそ近所の高校にしておけば、なんて思う時も多々ある。


しかし、俺がこの高校へ進学して良かったと思うものがあった。

それがバッグに入れたアレな訳だが。



そうこうしているうちにチャリは比較的人の多い道に差し掛かる。駅だ。



TASMOを翳して駅のホームへ。朝早くなので案の定誰もいない。

こういう風景は、どことなく異世界情緒に似た何かを感じて、好きだ。

特に帰り時間帯の人の多さを知ってる分、それが顕著だ。

ベッドタウンにアクセスも近いだけあって、この界隈の駅は夜に人口密度がピークになるのだ。


「ふぁぁ………眠………」


なんだかんだ言ってまだ早朝。未だ慣れない体が惰眠を貪ろうとしてくる。朝霧?おかげで事故らずに来れたが、俺の睡魔は無敵だ。何度でも蘇る。特に朝は。


そしてやっと電車が来た。


人は乗ってない。


どこか覚束ない足で電車に乗り込み、すぐさま近くのシートに腰を下ろす。


人が居ねぇ。


そう思いつつ俺は寝る姿勢に入る。


扉が閉まる音を最後に、俺は夢の世界に旅立った。


まぁあと何駅もあるしいいよね、と。



















目が覚めた。


今は何駅かなと顔を上げる。するとそこには緑豊かな自然が目に映った。


「寝すぎたか………」


やれやれ、朝練には間に合わないな。と考えつつ伸びをしようとして気づく。


あれ?電車がない………それ以前にここはどこだ。


電車はおろか手持ちのバッグすらない。それより電車ないというのはいささか変だろう。ここは俺の方がどっかに来たという方が感覚的に合ってる。

タイムスリップや妖の国への誘いなんかは大概人がなるものだ。決して電車単体で起こるものではないだろう。


「いや、それよりここは………?」


どこなんだろう。木陰に隠れているが、日の光は燦々と照っていて、なんとなく昼頃だろうというのは理解した。


するとその疑問に答えてくれるかのように妙に婆口調な女性の声がした。


「へっへっへ。お前さん見ない顔だねぇ。服装だって見たこともない。それにその謎めいた霊力………なんだい、不思議そうな顔をするんじゃない。ちっとは返事くらいできんのかい?」


と思ったら説教されてる。


「誰だ?………いや、何だ?」


「ほっほっほ。成る程ねぇ、『何だ?』と来たかい。こっちとしちゃあお前さんの方にその質問してやりたいとこなんだけどねぇ」


「………質問にはちゃんと答えを言うもんだぜ。子供でもやってくれるぞそんなの」


「………アンタ面白いねぇ。いいさね。答えてやんよ。私はこの辺を縄張りに持つ土蜘蛛の







………アヤメって言うんだ」







「っ!!!」



咄嗟に振り………向けなかった。何故なら鋭利な爪のようなものが首筋に当てられていたからだ。かつ、濃密な殺気。殺気と分かったのは死の危機をバシバシ感じているからだ。


「んー?なんだい、その霊力は飾りかい?サイカが人の姿になって出たのかと冷や冷やしたよ」


と言って、さっきまでの殺気と鋭利な爪を引っ込めた。


「………なんだい、その目は。まるで妖怪に初めて出くわしたときの幼子のような目じゃないかい。………ひょっとして、私が怖いんだろう?」


当たり前だ。寝起きかつ意味わからない状況であんな殺気ぶつけられたら誰だってキャパオーバーだ。


「あぁ、さっきのはすまないね。さっきも言ったが、お前さんをサイカの化身だと思って警戒してたのさ。まっ、全くの別物なのが分かったがね」


ようやっとその声の主が明らかになった。身長は150位の14歳くらいの少女だ。はっきり言ってツッコミどころが多すぎる。


「なんか失礼なこと考えとりゃせんかね?………まぁいい。お前さんは一体何なんだい?」


「………重藤 司。高校生。血液型は不明。強いて言うならABではない。誰よりも一般人してると自負してる。最近始めたバイトは御当地ヒーローのレッド役。子供達が無邪気に笑ってくれるところを見るとより演技に熱が入るようになる。中学の頃は筋金入りの病気にかかり、現在それは完治しつつある………こんなとこだな」


「7割要らない情報だったよ」


「人が懇切丁寧に説明したんだから俺からも質問していいよな?」


「まぁいいさね」


「質問は全部で5つだ。どれも簡単なものばかりだぜ。

1つ、ここはどこ。

2つ、俺の持ち物を見てないか。

3つ、土蜘蛛とか縄張りってどういうことだ。

4つ、霊力って何だ。

5つ、サイカって何だ。

………さぁ答えてくれ」


「………1つ目、ここはジューフェンの南東部にある、リーフェンさね。

2つ目、私が見たのはアンタだけや。

3つ目、土蜘蛛は妖怪の種族の1つ。所謂上位種なんて呼ばれちょる。

4つ目、霊力とは、妖怪で言う妖力、魔法使いや魔族で言う魔力の、人間バージョンみたいな力や。

5つ目、サイカってのは各地に出現する魔物や悪霊、害を為す妖怪なんかがそう呼ばれる。見つけたら抹殺対象や」



成る程わからん。

ほら、答えたで、と言わんばかりの土蜘蛛少女はほっとこう。


しかし、1つの結論は出たな。









ここは紛れもなく異世界だ、と。















異世界へ来たものの、帰り方が分からない。バッグに入れた御当地ヒーローのスーツ一式ごと消えたし、何よりあてがない。まさか自分が小説の題材になり得そうな展開を経験しててちょっと嬉しい反面、先のこと考えると笑えない。



と、言うことで何の因果か、あの日から数週間経った今、俺はアヤメと旅をしている。

どうしてこうなった。


曰く、気に入った。とのことだが、俺にはその神経は理解できない。


縄張りは?と言ったら、娘たちに任せる。と言っていた。


年齢詐欺は確定なので、知らんぷりして普通に接することに徹している。


道中魔物が出現したりするが、その度にアヤメに手伝って貰っている。


曰く、熟練度が足りないんだそう。


まぁここのところは本当の雑魚程度なら何とかなってきたが、未だに弱いのが浮き彫りだ。


曰く、実力者の私と比べるんじゃない。とのこと。



ジューフェンは気候が日本や台湾、中国の南部、東南アジアに近く、とくに首都のジューフェンは温泉業が盛んで、その夜景は一見の価値ありだとか。


そのジューフェンへの道のりへは、各地の宿、ギルドを転々として三週間かかる。中々に遠いね。















そして道中、靴が壊れて使い物にならなくなったり、アヤメが俺の料理に味を占めて以来ずっと俺が飯番だったり、アヤメ霊力の訓練を受けても一向に使える気配もなかったりなど、色々あった。









「おお、賑わってるな」


「ま、アンタはしばらく異世界情緒を満喫してるといいさね」


「アヤメ、どっか行くのか?」


「ちょっと用事があってね」


「まぁ俺は適当に彷徨いてるから」


そしてジューフェンにやってきた。温泉業が盛んなだけあり、くるっと見渡すだけでも温泉の煙がそこかしこに上がっている。しかしジューフェンは首都なだけあり、巨大な山岳都市になっている。

さながら万里の長城のような城壁がジューフェンへ入る時に横にずっと伸びていた。

そして中へ入るとそこはそこで凄い。さっそく目に映るのは商店街と言うべきか、縁日と言うべきか、屋台通りとでも言うべきか。様々な屋台や出店、おもちゃ屋に居酒屋など、どの店も異様に活気付いていて、この地が観光と商業の中心地であることをまざまざと感じた。



「虹わたあめか。1つください」


「あいよっ!」


先ほどアヤメと別れてから早速俺の意識を引いたのは、極彩色のわたあめだった。元の世界にいた頃なら着色料だなんだと毛嫌いしただろうが、これは自然な色だったので食べることにした。


「おお、こりゃいい」


口の中で様々な天候が七変化していく。赤は炎天下か。口の中が熱くなってくる。橙は夕焼けか。どことなく懐かしい味がした。黄色は雷雲か。酸味と同時にわたあめがパチパチする。緑はオーロラか。珍味だが、甘みがある。青は海か。味に深みが増している。紫は夜空か。何故かわたあめを食べているだけなのに神秘的な気分になる。


店主に聞いたところ、何でもこれは龍が通った後にできる「龍紋雲」の一部と、年に一度しか咲かない「悪種草」の花から抽出した砂糖でできているとか。


どうりで高いと思ったわけだ。


その値段はビール(のような何か。名称が違うだけだと思うのでビールとここでは呼ぶ)の3倍はする。


あ、酒は飲みません。












「ん?なんだこりゃ」


突如として空から黒い羽がたくさん降ってきた。サイカか?


虹わたあめ、神速海老フライ、地龍のホルモン焼きと、巡り巡って4件目の朝露ミルクの屋台から、道へ出る。


すると………










「諸君、今からこの地は、私の支配下とする!意義のあるものは惨殺死刑!





我の名は、ヤマト=オロチ也!」








瞬間





あんなに賑わっていた筈のジューフェン一帯は、その形を潜めた。




そして爆発する。



各地で怒号や悲鳴が飛び交い、出入り口の門へ逃げ惑う人々で溢れた。





「うわっ、ちょっ」


人混みに押されて道の脇に押しのけられてしまう。


「ぐわあああああ!!!」


羽と思っていたものはどうやら妖力の塊らしい。迂闊に触らないほうがいいとアヤメに聞かされているので決して触らない。人々を押しのけてった名も知らぬ他人に合掌。







………俺に出来ることは1つしかない。







それには他者の治癒なんかは入ってない。

ジューフェンへ来る前に一度だけ発現したその能力は、あまりにもシビアだったのを覚えている。

そして、アヤメに言われた高い霊力の原因がようやっと分かった。





「うぇぇぇぇぇん、おとっちゃぁぁん、かぁちゃぁぁぁん」



直ぐ隣で親とはぐれたであろう子供が泣いていた。


可哀想に。


あの時もちょうど、こんな感じに。頭を撫でていた。




「ふぇ?な、なんだよぅ、にいちゃん」


戸惑いを隠せない目でこちらを見る。泣き腫らした目は、とても痛々しい。


「泣くな。男だろ。男ならな、こんな時、どっしり構えてるもんだぜ」


「う、うっ、にいちゃんあいつの怖さを分かってない!だ、大の大人がみんな尻尾巻いて逃げちまうくらい怖いんだぞ!そ、そそ、それにオロチって………とおちゃんを……うっ、えぐっ」


「………分かったよ。でもそんな悪い奴、早々生きてられないさ。正義のヒーローが現れて、退治してくれるさ」


「な、なにいって」





そこへ、何かが近くへ迫る気配がした。





「ほう?聞かせて欲しいものだな、その続きを。正義のヒーローが一体全体誰をどうしてくれるって?」


「あ、あああ!!!」


「………」


件のヤマト=オロチだ。体調は2メートルちょっと上、推定妖力ランクSS。名の知れた凶悪な妖怪で、おめでたいことに世界征服を企てていて、現在計画進行中。元となったのは蛇の妖怪らしい。そんな彼はこちらを上から見下ろしている。その目は養豚場から豚を屠殺場に運ぶトラックの運転手が豚をふと見た時にするような目をしている。




「どうした童。失神でもしたか?」


「チビって死にそうだ。全く、子供の前だから恥はかけねぇよな」


「に、にいちゃん………」


「おいおいおいおい、さっきの話の続きを、




………してくれないのか?」



殺気だ。



朝が弱い体質より先に殺気に当てられるほうが慣れるとは、いやはや。


「うるさい蛇モドキ。うるさいからどっか行ってくれないか?目障りだ。さっさと失せ………



……ぐふっ」


相当頭にきたのか、すぐさま飛んできて腹を貫かれた。とても痛い。


「今、何と言った?このオロチに向かって何と?言ったのだ?」


「に、にいちゃあああああん!!!!」


「喧しいガキだ。こいつの死体諸共、吹き飛ばしてくれるわ!」


「あ、ああ…………」









そう、だいたいこんな展開。













「そこまでだ!悪妖ヤマト=オロチ!」


「何?誰だ貴様」


「悪いが自己紹介してる暇は無いのでな、あと24秒で貴様を討つ!!」




少年の危機に現れたのは謎の男。

1番印象的なのはその色だ。

紅蓮の炎を見に纏ったかのように、

正義の心を持って悪を打ち砕くその燃え盛るような熱い意志を体現するかのように、

紅い、真っ赤なスーツを見に纏っている。


「フフン、いいだろう。ちょうどムカッ腹が立っていた頃だ。貴様を殺して晴らしてくれるわ」


オロチが構える。武器を持った気配は無いが、妖怪はその体そのものが武器のようなものだ。

アヤメ曰く「そういう風に『進化』してるのさ」らしい。






まぁ関係無いんですけどね。





「爆速一式!神速のォォォォォォォォォ!!!!!!!







ファースト・バーニアァァァァアアアアアア!!!!!!!」




紅蓮の炎がオロチを包んだ。

しかしそれは謎の男が通った後にできた、例えるなら飛行機雲程度の存在。

オロチはこの攻撃を認識することすら叶わなかった。



勝負は一瞬だった。



妖力ランクSS?関係ない。



半径2kmの人々の深層意識を支配する魔法?関係ない。



次元断層爆弾?関係ない。



宇宙を征服する最強宇宙人?関係ない。



破壊神?関係ない。



どうせ悪役なら倒される定めなのさ。



特に無名な御当地ヒーローみたいな雑なシナリオや設定なんかでは特にな。












「10.857秒か。名乗っても良かったかもしれないな」


「おいアンタ」


「呼んだ?」


「『呼んだ?』じゃないさね。全く、子供守ろうとして、この子供に爆炎ぶっかけたらどうするつもりだい?」


「アヤメか。悪いな、そいつ守ってくれてよ」


神速のファースト・バーニアを使う直前、蜘蛛の糸が少年の服を引っ掛けて遠くに避難させてくれていた。ちょっと気絶してたようだが。


「……ん、あ、誰?」


「ほら、起きたよ。正義のヒーロー、自己紹介してやんな」


「起きたか少年、俺の名前は爆速一号!!神速のイダテンレッドだ。あとの4人とははぐれちまってるが、俺らは全員揃って、






爆速戦隊 イダテンジャー!!!」






「イダテン……レッド………」


「お、30秒たったかね」


変身が解けた。元の姿になって、少年は多少なり困惑しているようだ。


「あれ!?にいちゃん!?イダテンレッドは!?」


「さぁな。しかしあいつは足がめちゃくちゃ速いから、またこの世界のどこかのサイカを叩き潰してるんだろう」


「そう………なんだ」


「まぁ、そう気を落とすこたぁないぜ。あいつの炎は、キミの胸の中に、ちゃーんとあるはずだ。見ただろ?あの紅蓮の炎」


「うん!」


「なら、大丈夫だ。よし、じゃあ母ちゃん探しに行くか」


「わかった!」











拝啓、幼少のオレへ。


日本の秘密結社に属してないし、地球の平和を守ってるわけじゃないけど


ヒーロー、やれてるよ。

[登場人物紹介


○重藤 司


異世界転生前に御当地ヒーローのバイトをしていた男子高校生。知恵と咄嗟の起点と策略に秀でている。

しかし異世界で生きるのに大凡必要な身体能力は持っておらず、殆ど一般人。能力のシビアさも相まって、大凡異世界転生してきたチート野郎とは真逆な存在。悪運が強く、しぶとい。土蜘蛛のアヤメ曰く「どうして旅を続けられるのか分からない存在」らしい。


☆スーパーヒーロータイム

→こいつの能力。曰く「使い勝手は世界一悪い」能力で、簡単に言えば「あらゆる条件を満たすと使えるチートパワー」である。

性能は主に三つで、

“物理法則&ステータスガン無視の身体能力”

“不死&超絶回復速度”

“解析不能な謎の爆発攻撃”


対価の条件は

「自分が死の危険」

「自分を心配してくれる人が半径100m以内に居る」

「敵がこちらに敵意を向けている」

「敵を無力化できる存在が半径10mに居ない時」

を全てクリアしなくてはならない。


効果持続時間は「1人の敵につき30秒のみ発動」。その仕様上、一度助けた人を2度と救えるかはわからないというギャンブル要素も交えている。そのため主人公は人が居ないときに備えてあの手この手と全力で根回しをすることになる。



○アヤメ


土蜘蛛の妖怪。地面の大穴の中に住んでいた。司が初めて会って最初に敵対した存在。司に興味を持ち、旅に同行することにした。色々秘密あり。



世界観設定を書くにはここの余白は狭すぎる

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