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残念な彼ら  作者: 名瀬ほのか
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第五話 デートだ!

 期末テストが終了し、テストの返却もなく、勉強からも解放される土日。そんな日は朝遅く起きて、ゆっくりとした時間を過ごす人は多いだろう。しかし、朝から部活に精を出したり、友達と遊ぶため早起きをする、という人もいる。

 では、太陽と競争するように朝早く起き、家の自室でテレビに向かって必死に頭を使っている彼は何をしているのだろうか。手にはコントローラー、右にはあまり役に立たない攻略本、左には現実と自分をつなぐスマートフォンを。


『あ、あのさ、今度の日曜日一緒にどこか遊びに行かないか?』


 はねっ毛の黒髪男が遠慮がちにこちらに向かって尋ねる。

 弘樹は今「空との恋」の人気キャラクター、クール×天然の月島藍を攻略を試みている。先に言っておくが、弘樹は通常シナリオのキャラクター攻略はイベント時の条件になる時が多いため、東雲遼以外のキャラクターを選択してもいいというルールを持っている。


『うん、行きたい! 実は私もその日月島君を誘おうと思ってたの』

『そうか、それは良かった』


 月島は安心したように微笑む。

 弘樹も無事ラブルートを進めたことにほっとした。ルートには通常二種類ある。それがラブルートとスウィートルートだ。二つのルートの違いはシナリオ中の選択肢によって生まれる。いい選択肢を選ぶとラブルートに進む可能性が高くなる。反対に良くない選択肢を選んでしまうとスウィートルートに進む可能性が上がってしまう。

 シナリオは全十五話、ルート分岐点までには十話あり、各話に一度ずつ会話を選択をする場面が現れる。そこでラブルートに進むには特定の選択肢を五回以上選ばなくてはならない。各キャラクターにはルート選択後からNGワードが存在し、そのワードを選択肢から選んでしまった時点でゲームオーバー、となりストーリーが強制終了してしまう。簡単に言えば振られるのだ。ちなみに両ルートをENDした場合、新たにシークレットルートが選択できるようになる。


「長かった……よーし、見てろよ月島藍! 今度こそ俺の虜にさせてやる!」


 弘樹が月島藍に挑戦するのはこれで八回目である。七回もNGワードを選択してしまい振られているのだ。


『ヒロキが行きたいところってあるか?』


 少し確認したいことはこれは乙女ゲーム、ということだ。弘樹がプレーヤーの名前まで本名を使っているため、どこかBLチックになってしまっているだけであって、決してBLゲームではない。


『じゃあ……

 ①海

 ②映画館

 ③テーマパーク』


 弘樹は悩んだ。この選択肢は難関だ。さすが十二話。


「こいつはクールだし、寡黙だから映画がいいだろ」


 弘樹は②を選択し、決定ボタンを押す。


『本当に②でいいですか?』


 画面に表示されたいつもの台詞。これはプレーヤーのミスタッチを防ぐためのものだが弘樹にはそう思えない。いつもこの確認画面で手を止めてしまうのだ。

 本当にいいか、と尋ねられると、安易な考えで選んだ②を本当に答えにしてしまっていいのか、という自問が始まる。弘樹は戻るのボタンを押してもう一度考えることにした。

 月島藍は物静かなで自分から相手をひっぱていく、ということはあまりせず、相手に合わせる、というタイプだ。そしてこのプレーヤーも控えめで、自分からあまり物事を決めるタイプではないし、思っていても行動に移せない。そのためテーマパークのようにその場で乗り物を決めて動かなくてはならないようなところは不向きだろう。

 次に海。海は確かにいい。夏だし。そしてなんて言ったって水着姿を見ることができる。しかし東雲遼にも見せたことのない水着姿を月島などに見せるわけにはいかない。よって海は絶対に選べない。

 そして最後に残るのが映画。映画を見た後はどこかでご飯を食べて、買い物をしたりすることが出来る。


(あ、そこでお揃いのキーホルダーとか買っちゃったりするんだよな~。で、スマフォにつけたり、あとプリクラとかか! 何か月突破! とか書いて……)


 そこで弘樹は気づく。


「俺、今回の月島藍と出会って二時間だ……なんて軽い男なんだよ俺! しかも彼氏がいるのに別の男と! 会ってたかが数時間で映画見て買い物って、軽すぎる!運営もどうかしてるぞ!」


 そうではない。これは弘樹の誇大妄想と一般と大きくずれた弘樹の考え方に原因がある。


「これ答えないんじゃ……もしかして、極秘ルート!!?」


 そうでもない。

 その時、左に置いていたスマートフォンが鳴った。


「なんだよ、こんな朝早くから……」


 コントローラーを右手で持ち、スマートフォンの表示を見る。同じクラスで仲のいい男友達の酒井だ。遊びの用だと理由を考えることが面倒くさいため、出来れば出たくないが、呼び出し音は鳴りやまない。そこで渋々電話に応じた。


『もしもしー? やっと出た。遊ぶぞ!』

「あ、ごめん。俺今からデートあるんだわ」


 間違ってはいない。今から月島藍とデートなのだ。


『え、マジかよ! お前彼女いたの!? 聞いてねーわ』

「ちょっとな、今日だけ特別に」

『おいおい遊びか? どこ行くんだよ?』

「それがさー」


 この際酒井にも相談に乗ってもらおうとデートの場所についてどこがいいか尋ねた。


『え、そりゃ……家とか、うん、普通に』

「だよな、俺も正直なところ家でいい……って、違う!」


 今選択肢に家は出てきていないし、なにより「空との恋」はR15にしか引っかかっていないほぼ健全な乙女ゲームだ。そんな選択肢が出てきたら間違いなくNGワードだ。


『ねえ、高梨くん来ないのー?』

『いや、来る! 来るからちょっと待って』

「え、女の子もいるの?」


 電話の向こうから二人くらいの女の子の声が聞こえる。そうか、こういうのは直接女の子に聞いたほうがいい。


「酒井、ちょっと変わって」

『え、なんでだよ……まあいいけど』

『高梨くん! ど、どうしたの?』

「デートって、どこ行きたい?」


 理由を話すと長くなるので弘樹は単刀直入に聞いた。名前を聞いてないので一体誰に尋ねたのか分からなかったが、女だったら誰でもよかったため気にしなかった。


『え、えっと……映画かな、最初だし』

「だよな! 俺もそう思ってたんだ! じゃあそれにする」


 その女の子と意見が合ったことで、弘樹は最初の自分の答えに自信を持った。そして再びでてきた確認画面にも悩むことなく決定ボタンを押した。電話の向こうで女の子が少し興奮したような声で何かしゃべっているようだがどうでもいい。

 中断されていたストーリーが続いていく。


『映画か、そうだな。いいかも』


 よし! 思わず弘樹はガッツポーズをした。月島藍の反応がいい。ラブルートの難解な選択肢を突破出来たようだ。喜んでいるこちらをよそに電話の向こうで弘樹を呼ぶ酒井の声がうるさい。


「なんだよ」

『お前なんだかんだで付き合いいいじゃん、じゃあ、楠木モールの映画館の西出口に集合な。何時に来れそう?』

「え?」


 弘樹は焦った。どうしてそんなことになっているんだ。今日は一日「空との恋」に時間をあてるつもりだ。返事をしないからって勝手に決めるなんてなんて奴だ。


(いや待て……)


 先ほどの自分の会話を思い出して深く後悔した。そうか、あれだ。だがあれだけで勘違いする女も女だ。


『ありがとな、小峰もいるから。あと平石』


 小峰も平石も同じクラスの女の子だ。そして平石は酒井が少し気になっている女の子だ。


「デートしたいなら二人で行けよ」

『そう言うなよ、な?』


 これは弘樹が作ってしまった誤解だし、電話の向こうでは女の子二人が弘樹が来ると聞いて喜んでいる。ここで行かないなんてさすがに言えない。弘樹は時計を見た。朝の九時七分。


「じゃあ、十時半にそっちに着くように行くから」


 楠木モールは学校よりも近くて徒歩20分で着く。準備する時間と月島藍をクリアする時間を考えると妥当な時間だ。

 予想外の外出で気分が乗らなかったが、最近克穂以外と遊ぶということも、女の子と遊ぶということもしていなかったため、自分を納得させるためにもうなずいた。


「よし、月島、一気に惚れさせてやるからな!」

最後まで読んでくださってありがとうございます!

いかがでしたか?

次のお話ではこのお話の続きを書いていきます。克穂もいないので、弘樹くんの変な部分以外をお見せできたらなと思っています^^


もしよければ感想、評価、ブクマなどよろしくお願いいたします。

では、次の回でもお待ちしております。

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