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三題噺  作者: 葉月梓
3/3


「なーにやってんのー?」


そう声をかけられるが、俺を顔を上げない。いや正しくは上げられない。

だって俺は今とあるDSのゲームのでオンライン対戦をしているのだ。あいつと言葉を交わす余裕は無い。


「ねー聞いてるー?」


何でまた声をかけてくるんだ。無視してるんだから、察してさっさとどっかいけよ。

なんて言ったらこいつは怒るだろうから言わない。

何も言わない。

これが一番いいだろう。


とにかく、俺は今こいつを倒すことだけに集中せねば。一瞬の気の迷いが命取りだ。



俺は今、とある携帯ゲーム機の格闘ゲームをやっている。そのゲームというのは個性あるキャラクターたちから一人選び、トーナメントを勝ち上がっていく、というものだ。インターネットにつなげることで全国にいるユーザーとの対戦もできるし、場合によっては共闘することもできる。とは言っても、基本的には他のユーザーの闘いをに手を出すやつはいないから名前だけの機能になってるんだけどな。


「ねえってばー?」

「今ようやくボスみたいなのと闘ってるんだ。ちょっと黙っててくれ。」


思わず怒気をはらんだ声が出る。

いやしょーがないだろ。だってここまで来るのに何時間かかってると思ってるんだ。

もしここで負けたら最初からやり直し。つまり2時間はかかる。これまでだって何度も挑戦して、ようやくここまで来たんだ。勝つしかない。



…あぁ、視線がうるさい。

そんなに見られても顔なんてあげないからな。




相手は素早い。攻撃の波が短く、少しでも目を離したら一気に相手の攻撃に飲まれるだろう。

HPはまだ余裕があるのだが、相手の技を、攻撃力を考えたら、当たり前のことだができるだけ当てられたくはない。大丈夫、まだ相手の間合いにも俺の間合いにも入っていない。スタミナだってまだ残っている。…ここらで仕掛けるか。


そう思った瞬間相手との間合いをつめる。右ストレートを放つ。相手はそれに合わせて少し左によけつつ、カウンターを放ってくる。それをしゃがんでかわして、足払い。しかし、それも軽く飛んで避けられた。すると飛び上がったその勢いのまま踵落としが落ちてくる。左手にころがって起き上がり、すぐさま体勢を整える。すると、相手は右足を一歩引き、右肘を高くあげ、指はこちらに向いている。


…まずいっ


これは技に入るときの構えだ。

しかも、先ほど俺が転がって体勢を整えるまでの間に技を放つときに必要な溜め《・・》は終えている。

これで奴が足を踏み出した瞬間、打撃のコンボが叩き込まれるだろう。たとえ喰らってもHPは残るだろうが、戦況は一気に厳しくなる。



…仕方ない、こっちも技で応戦するか。


Lボタンを押し続けながら、右手でコマンドを入力していく。

ABBAXYYB 

鍛え上げられている俺の指は手元を見なくても、自動的に、そして正確に打ち込んで行く。しかし、技の発動は一歩遅いだろう。予想通り打撃が打ち込まれる。しかし、技はキャンセルされずに続いている。

もう少し、もう少し耐えればこちらの技が発動する。

両手足から順に繰り出された打撃の後、ようやく、こちらの技が始まった。


攻守交代だっ


そう思った瞬間、俺の相棒の足が相手の顎をとらえる。そして少し浮かびあがった相手に蹴り上げたときの勢いそのまま今度はボディブローをかける。少し相手が吹っ飛ぶがそこを再び掴み直し、地面へと打ち付ける。

よし、このままいけばいい感じにHPを消せるっ

技のフィニッシュとばかりに相手が埋まっている地面に向かってまっすぐに落ちて行く。



しかし、俺の攻撃があたることはなかった。いや正確に言えば当ったのだろう、しかし相手のHPが赤く、今にも消えそうなのに、残っている。技が決まらなかったことで崩れた体勢を直す間もなく、次々と敵に攻撃を打ち込まれて行く。

何が起きたんだ?回避された?いや、あの土に埋まった状態から立ち上がり、移動する暇はなかったはずだ。つまり、防御されたはず。でもただの防御ならこちらの体勢が崩されることもない。

だとすると————…いなされた?


そんな、まさか。いや、でも。

今までこのコンボを躱されたことなんてなかっただけに軽いパニックになる。でも負ける訳にはいかない、だって、ようやく50人斬りができるんだ。この連勝を止めてたまるか! 

そう意気込んだのは良い物の、先ほどの動きを見せてから途端にスピードがあがったかのようだった。後少しこちらの攻撃が当りさえすれば勝てるのに、時間ばかりが過ぎて行き、むしろこちらのHPが削られていく…

あと少しだっていうのに…!スキルを放つタイミングを見計らいつつ、対峙する。



…そこに見たことのないエフェクトが流れる。

なんだこれ? と疑問を浮かべつつ画面を眺めていると、ステータスバーが1つ増えている。

…いやいやいやいや!名前ばかりの機能だったろう!誰がこんなところに乱入してきてんだ!?

そんなことを思っているうちに、対戦相手も乱入者に戸惑っていたのだろう。そんな相手を刈り取るかのようにスキルを放つ乱入者。

「対戦相手Aが戦闘不能になりました」

そんなテロップが流れて唖然している俺をよそに

「対戦相手Bが棄権しました」

「勝利」

そんな2文が続けて流れた。


「なんっっっだこれえええええええええ」

信じられるか!ネットでもほとんどお飾りの機能といわれていたものを使って乱入したあげく、1人を倒したら用済みと言わんばかりにさっさと棄権しやがった!

気ままに表れて場を荒らしたら気ままに帰って行く、なんて、なんてやつだ!

DSを持ちながらぶるぶる震えている俺に能天気な声がかかる。


「ねー、もう終わった?早くあっち行こーよ!」

「うるせえ!今起こってるんだ俺は!!」

「負けたの?」

「…っ!負けてねえ!」

「ふーん?もう終わったならいいでしょ?ずっと待ってたんだからさ!」

「いや俺はあいつにリベンジしなきゃいけな…「はいはーい今はおばさんに呼ばれてるから行こうねー」



夢中になってる俺がそばに何をやってても気づかないってことをこいつは知っていた。

だから俺は気づかなかった。俺を待っている間、こいつが何をしていたのかを。

俺に声をかけるほんの少し前、自分の機器をそっと隠して漫画を手にしていたなんて。

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