プロローグ
はじめまして。
はじめましてでない人はこんにちは。
ヘッドホン侍です。
どうしても勉強中は鬱憤が溜まりますよね。そんなときに妄想が爆発するのでちょっとかいてしまいました。
完全に自己満ですが、一緒に面白がっていただければ幸いと投稿することにします。
もう一作より更に趣味に走っておりますが、それでもという方は暇つぶしにどうぞ。
ではでは。
人間には三大欲求なるものがあるらしい。
睡眠欲、性欲、そして食欲。
あぁそうだ、食欲があるのだ。
うんうんと頷いた隆司は腹に手を添えた。そして鳴り響く轟音。
ぐるおえおるる……
首をもたげて溜め息を吐く。
「はあ……はらへった」
腹が減っては戦は出来ない。
戦をするつもりはさらさらないが、しかし生きるためには食事は絶対に必要なのだ。
だから隆司は小さい頃から食に重きを置いていた。結構な美食家だと自負している。
ああ、輝く銀シャリ。コシヒカリ。
ふわりと口に広がる素朴な甘味。僅かな歯ごたえ、柔らかさ。素晴らしい。
新米の素晴らしさは筆舌に尽くしがたい。日本人で良かったと思う瞬間ベスト10には入るだろう。
思い出していたら涎が出てきた。
危ない、この年でお口の締まりが悪いとは恰好が悪すぎるじゃないか。垂れかけた涎を根性で引っ込める。
しかし、新米と標記できるギリギリのラインで古米をミックスされた米を購入してしまったときの絶望感の何たるや。しかもそれが10キロだったときとか。
思わず膝を突いて首をもたげて床と見つめ合いたくなる。
想像してみてほしい。これから1週間もの間不味い米を食う羽目になるのだ。
そうだ、今の気持ちはあの時の絶望感に似ている。
米が悪いわけじゃない。古米のくせに新米とか抜かしやがった販売者に底知れぬ怒りが沸いてしまう。
そんなことを思っているうちにも、無情にも隆司の腹の虫は暴れまわる。
「はあ……はらへった」
さっきも同じような台詞を言ったような気もするが、それも当然と納得できる状況である。すでに10回目になる台詞である。
そう、隆司は薄暗い深い森にいた。
今の時代になんてこと、である。隆司は荒事は嫌いだ。アウトドアは無理だ、インドア派である。冒険なんてクソ食らえだ。
異世界で冒険なんて夢みた中2の夏。重要なことに気がついてしまったのだ。
森には虫がいる。
隆司は虫が嫌いだ。飛ぶ虫が嫌いだ。耳元で蚊の羽音なんて聞いた夏の夜には、耳栓なしでは寝られなくなる。
冒険なんて森に入って野営なんてした暁には虫の温床だろう。ファンタジーでは描写されないが、あれはどうなんだろう。結構重要だと思うのだが。
下らないことを考えながら、隆司は拳を握った。
いや、いいのだ。
虫なんて慣れれば気にならなくなるのかも知れない。この際それは二の次の問題にしてもいい。
――ファンタジーの冒険、森の夜営で、本格的な料理が食えるだろうか。いや食えねえ!
隆司にとっては何よりも重要なことだ。
そんな彼が好き好んで森に来るだろうか、答えは否。
エプロンに、右手には包丁。
そんな恰好で森に来る奴がいるだろうか。
特売品の鶏肉を買って、スキップでもしそうな勢いで帰ってきた隆司がエプロンを身につけ、包丁を手に、振り返った瞬間には森に居た。
混乱よりも、怒りが湧いた。
せっかくの鶏肉を食い逃してしまったのだ、怒りも沸く。
つまりだ。
彼は、俗に言う『異世界トリップ』をしてしまったらしい。
今度はいつになるのだろう。
ではでは☆