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かまいたち(1)~一陣の風~

かまいたち編スタート

某月某日 PM9:00




男の店の営業時間は午後9時まで。男は店先に掛けてある札をOPENからCLOSEに裏返した。

これで男の本日の仕事は終わりである。



「はあ、今日も疲れたなあ。年には勝てん」



まるで中年のような台詞を呟いているが男はまだ三十路を迎えてすらいない。


まだまだ男が経営するこの人形店『三月堂』の青の制服姿を見ても不自然には感じられない。

といっても三月堂の店員は店長兼店員のこの男とその妻だけなのだが。







ふと、とてつもない強風が吹いた。

店の看板が音を立てて落下する。

「うわ・・・・・・凄い風だな」


そう呟きながら男は落ちた看板を一旦別の場所に置いておこうと考えた。

明日にでももう一度直しておけばいいだろうという考えだった。

「ったく・・・・・・ん?」



男は違和感を覚えた。



看板を持ちあげるには当然両腕を使う。


だが、右腕の感覚が妙である。

男は右肩から右手に掛けて左の人差し指をゆっくりと滑らせる。




違和感の正体は肘から下の部位の消失だった。



「あ」


また強風が吹いた。


男の首は宙を舞い、堅いコンクリートの上に落下した。




彼が最後に呼ぼうとしたのは店の名か妻の名かはたまた娘の名か。

今となっては誰にもわからない。




















龍樹は自らの愛銃であるグロック17を入念に手入れしていた。

その表情はまさに喜色満面であり、鼻歌でも口ずさみ始めそうである。


「相変わらず古いの好きだね。リューちゃんは」



ニヤニヤしながら龍樹の手元を覗き込むのはやはり耕治だった。

龍樹の表情が一瞬で曇る。


「何の用だ?」

「っと、ごめんごめん。忘れてないって銃の手入れ中は話しかけるなってのは。でも、あちらの方が用があるみたいでさ」



龍樹が耕治の指さす方に目を向けると横開きのドアに翔良がもたれかかっていた。


翔良は龍樹の視線に気づくと手招きした。

「今井もNⅤなのか?ガンアクション出来るようには見えねえけど」

「まあ、翔良は基本武器の発明が仕事だからな」


龍樹はそう返して翔良の元へと歩き始めた。

だが耕治は龍樹の後にピッタリと着いてくる。


「着いてくるな」

「ふふふ。何で着いてくるか知りたいか?」

「いや、遠慮しとく」

「それはな」

「聞いちゃいねえ」


耕治はポケットから1枚のA4サイズの折りたたまれた紙を取り出し、龍樹の前でそれを広げた。


「何だこれ?・・・・・・って、これNⅤの認証状じゃねえか!」



人目を気にして龍樹は小さい声で突っ込んだ。

それに反応した翔良も教室に入ってきた。


翔良はその紙を見て呟いた。

「ああ、補充要員か」


「その通りだよ。今井君」




怪人〇十面相を思わせる口ぶりで耕治はそう言う。



だが龍樹は補充要員が良く分かってないらしい。


耕治は龍樹の気持ちを察し、鼻高々に説明を始めた。


「おや、分かってないようだねリューちゃんは。補充要員はその名の通りNⅤの補欠と銘打っているがその実態は主に情報収集を担当し、いわば戦闘面のサポートを行うのだよ。わかったかね、リューちゃん」


「分かったがその喋り方は何だ?」

「昨日江〇川乱歩を何冊か。ハマっちゃって徹夜した」

「勉強しろよ」


「ついでに言えば補充要員は一般生徒でも親の承諾すらあれば入れるのだよ、龍樹君」

翔良も同じ口調で補足した。



2人の〇十面相は見つめ合い、ふふふっと笑い合った。



















ーーー放課後・飯島高校生徒玄関ーーー



「で、結局用件は何だったんだ?」


龍樹が下駄箱の靴と上履きを履き替えながら翔良に尋ねる。


「えーと、好きな推理作家は誰かって話か?」

「それはお前と耕治の馬鹿話の内容だろ」


二人は靴に履き替え、校門を出て帰路に着く。


「ああ、分かってるさ。何、まだ確証は無いんだが昨日の夜男が1人殺されてな」


龍樹は適当に相槌を打ち、空を見上げた。

日が傾き始めている。

後ろからはサッカー部や陸上部の元気な掛け声が聞こえてくる。


「で、その死体が妙なんだ。首と右腕がすっぱり切られててな」


翔良が左手で自分の首と右腕を切るような動作を見せる。


「ただの猟奇殺人じゃねえのか?」

「この世の中で妖怪と猟奇殺人鬼どっちが多いよ」


龍樹はふっと笑い、沈黙した。



しばらく歩いてから龍樹はまた尋ねた。

「正体は分かっているのか?」

「さあ。だから新しい補充要員採用したんだろ」


翔良はいつの間に取りだした何かの設計図と睨めっこしながらそんなことどうでもいいといった口調で返す。


「今度は何作ってるんだ?」

「コーナーショット。大昔に滅んだらしいが是非復活させたい」

「そんな物需要あるのか?」

「多分無いかな」



ふと強い風がこちらに向かって吹いて2人は動きを止めた。



一瞬、龍樹は顔をしかめて足を止めるもまた構わず歩き始めた。



「・・・・・・何も起きなきゃいいが」


龍樹は誰に言う訳でもなく不安げにそう呟いた。










その日の深夜、パチンコ『ラッキー7』飯島店で左足を切断された男性会社員の遺体が発見された。

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