七人ミサキ(3)~長い夜~
その日の夜、龍樹は裏山での仕事を終え、木陰で一息ついていたところだった。
「はあ、疲れた」
龍樹の仕事は裏山の人払い。
面倒そうな仕事に聞こえるが作業自体は至って簡単だ。
全部で9つの『熊が出たので今日から4日間山に入らないでください』と書かれた立て札を入口も含め人が入れそうな所に立てるだけの仕事である。
「あとは、中を適当に巡回すれば文句は言われないだろ」
そう呟き龍樹は自分で立てた立て札の文句を無視して山へと踏み込んでいった。
「あいつ、何してやがったんだ?」
高田は龍樹が山に入って行くのを陰から見届けた。
そのまま龍樹が先ほどまで休んでいた木陰に高田は近づいた。
「熊?こんな看板立てるだけのバイトあるのかよ」
高田は看板を蹴り倒し、一人でニヤけた。
「まあどうでもいい。俺に恥かかせたあいつだけは許せねえ。殺してやる」
高田は腰のM102Bに手を掛け、龍樹を追った。
龍樹は山道を通り巡回を始めた。
当然、一般人の被害を少しでも減らす為である。
前を懐中電灯で照らしながら歩いていると茂みに何かいるのが分かった。
龍樹はヒップホルスターからグロックを抜き、茂みに向かって3発撃った。
「ひゃあああああっ!!」
茂みから悲鳴を上げながら龍樹の良く見知った人物が飛び出してきた。
「何やってんだ?」
「あ・・・・・・鎌田くん」
恵子は龍樹に表情の固い笑みを見せた。
ため息をつき、龍樹は恵子に再度尋ねた。
「もう一度聞こう。何やってんだ?ここは今、立ち入り禁止だぞ」
「鎌田くんこそ何やってるの?」
「俺は・・・・・・バイトだ」
相変わらず嘘を吐くのが下手な男だ。
そう思い、龍樹は自嘲気味に笑った。
しかし、恵子はそれで信じてくれた。
「そっか。・・・・・・ごめん鎌田くん。見逃してくれない?」
「何でだ?こんなところに何の用がある?」
「そ、それは」
その時だった。
シャン シャン シャン
全部で七つの鈴の音が龍樹の背後から聞こえてきた。
「やばい。三沢、ちょっと隠れてろ」
「えっ何?何なのこの音」
「いいから向こう向け!」
しかし、恵子は何かに気付くと茫然とした表情で龍樹の背後のある一点を見つめている。
シャン シャン シャン
鈴の音はすぐ後ろに迫っていた。
龍樹はゆっくりと振り向き、音の方向を照らした。
シャン
そこには七人の山伏がいた。
いや、山伏の恰好をしたものたち(・・・・)がいた。
これが七人ミサキだということは例えその存在を知らぬ者でもわかるだろう。
服装は至って綺麗だったが顔は肉が爛れて骨が所々見えているのがほとんどである。
列の一番後ろの損傷が一番少ないミサキが声を上げた。
「ミサ・・・・・・ワー・・・・・・カ・・・・・・マ・・・・・・ター!!」
「高田!?何であいつが」
「ねえ、何なの鎌田くん。何で高田くんあんな恰好してるの?」
今にも泣きだしそうな声で恵子は龍樹に尋ねた。
その問いを無視して龍樹は学生カバンからショットガン、ソードオフのM870を出し、すぐそこまで迫っていた七人ミサキの行列の先頭のミサキに片手撃ちで一発。
ミサキの腹に風穴が開き、先頭のミサキは後ろに倒れ込んだ。
それによって後ろを歩いていたミサキを将棋倒しの要領で次々倒れた。
「逃げるぞ!!」
恵子の返事も待たずに龍樹は彼女の手を取り、その場を離れた。