七人ミサキ(2)~恵子の回想と裏山~
恵子は泣いていた。今は動かなくなった母の目の前で。
恵子は泣いていた。大勢のクラスメイトと親族の目の前で。
一人の少年が声を発した。
「たかが人が一人死んだ。何が悲しいんだ?」
恵子は睨んだ。少年の顔を。
恵子は怒りのあまり母の位牌を投げつけた。少年に向かって。
少年は頭から血を流しているというのに無表情だった。恵子はまた泣いた。
「山羊の頭、猿の脳、狐の尾・・・」
恵子は薄暗い部屋のテーブル一面に置いてある物の名称を復唱していった。
「あとは・・・」
恵子はパソコンの画面に目を移した。
「妖怪の肉だけ」
恵子は様々なおどろおどろしい物の前で泣き始めた。
「お母さん、待ってて。あとちょっとだから・・・あとちょっと」
三沢恵子は物心ついた時から父の顔を知らない。
母親一人に育てられてきた。
兄妹はおらず、母は恵子を目に入れても痛くない程可愛がった。
そうやって恵子はすくすく成長していった。
しかし、娘の成長に比例して母の苦労は増える一方だった。
その為、母は朝から晩まで休まず働いた。
いずれ体も心も壊れるのは誰の目から見ても明らかだった。
そして、母は恵子が高校1年生の6月、しとしとと雨の降る日に心不全で亡くなった。
ーーー放課後・帰り道ーーー
「で、恵子ちゃんにちゃんと教えてあげたか?色男」
そう言って佳奈は龍樹の頬を突いた。
だが、龍樹は何の反応も示さない。
後ろから耕治は声をかけた。
「多分教えてないだろうなー。こいつ硬派だから」
「教える必要が無い。大体、そんな危険な事教えるか」
少し気難しい声で龍樹は言った。
「大丈夫だよ。今この辺そんなにヤバいのいないし」
「っと」
耕治は慌てて耳を塞いだ。
その手の話は聞くなと龍樹に釘を刺されていたからである。
「それでもこいつみたいに俺らの事がバレると厄介だろ」
「耕治もNⅤ入ったら?」
耕治は大げさに首を横に振った。
「・・・・・・耳塞いだ意味ねえだろ」
「うっ・・・・・・さーて、じゃ、じゃあ俺はこの辺で。バイバーイ」
耕治は逃げるように10m先の路地を曲がって走って行った。
「耕治本当は入りたいんだろうね」
「そうだろうな・・・・・・と、メールだ」
龍樹は携帯を開き、メールの確認を始めた。
15秒もしないうちに佳奈の携帯にもメールが届いた。
「ふーん。今度は泥田坊だってさ」
「あの人のメールの早打ちは異常だな」
「何で?一斉送信したんじゃないの?」
「俺の方には裏山に厄介なのが出たから人払いをしろだと」
「厄介なのって?」
「ミサキ」
「あららら・・・・・・ドンマイ」
そんな話をしながら二人が辿り着いたのはNⅤ専用の寮。
裏・風紀委員の存在は政府から認定されてはいる。
だが、その支援は微々たるものである。
よって、部屋は1DKの簡素なものになっている。
寮の部屋は全部で8つ。
6つは使われていて残り2つは空き部屋である。
そして、使われている部屋の内の2つは佳奈と龍樹のものである。
佳奈と龍樹はそれぞれの部屋へと入って行った。