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姑獲鳥(6)~大きな銃が好き~

姑獲鳥は目を開けたまま呆然としていた。



突如、自分の子供を襲った爆風と手榴弾の破片。

彼女はそれを黙って見ていただけだった。



「おっ、こいつまだ生きてるぞ」


大男が姑獲鳥の子の首根っこを掴み、軽々と持ち上げる。


生きているとはいえ、それは目に見えて分かるくらい重傷だった。



子は持ち上げられる時に羽をばたつかせて反抗を試みたが、傷だらけの体では無駄な足掻きだった。


「じゃあそれを実験台として使わしてもらいましょう」



色白の少年は鞄から古びたSAAを取り出した。


「何じゃそりゃ?」


「新商品ですよ。

まあ、黙って見ててください」



再び羽をばたつかせた姑獲鳥の子に一瞥をくれ、少年は大空に銃口を向けた。

後の2人もその動作を不思議そうに眺める。



そして、発砲音。


弾は姑獲鳥の子に着弾した。



大男は苦しむ姑獲鳥の子を見て目を丸くし、再び色白の少年の銃を見た。


銃口は天を仰いだままである。



姑獲鳥の子は一しきり苦しんだ後に砂とも塵とも思えぬような粒子になり、消えた。

これが妖怪の核を破壊したサインだ。



「一体どうやって!?」


驚きを隠せないままグロックを持った少年は色白の少年に尋ねる。




色白の少年はその質問を待っていたとばかりに新商品Fake sixの説明を嬉々として始めた。


説明中にもSAAは5回、火を噴いた。



その度に弾丸は大男が先ほど言っていた5匹の隠れている何かがいるであろう場所に吸い込まれていった。



















高校生3人が声を大にして話しながら帰って行くのを見届けた姑獲鳥は変わり果てた6匹の我が子の残骸を拾い集める作業に入った。



銀の翼の上に小さな塵の山が出来る。



しばらくそれを眺めていた姑獲鳥だったが、一陣の風が我が子達を攫って行ったのを契機に、崩れ落ち、堰を切ったように咽び泣き始めた。























「お前たちは1度ならず、2度までも我が子を!!」



姑獲鳥は憤慨し、翔良の右足を自身の両足で掴む。


しかし、翔良の足を掴んだのはほんの一瞬ですぐに姑獲鳥の右足が根元から吹き飛んだ。



「当たったらごめんね!」


流華はそう言って舌を出す。



「さらっと怖い事を言うな!」


翔良は流華に撃ち殺されては堪らないと、素早く姑獲鳥から離れた。


姑獲鳥は右足が再生しない内に翔良を追いかけるために、羽を広げた。



しかし、またもや流華の放った弾丸によって姑獲鳥は翼を撃ち抜かれ倒れ込んだ。



「おい、吸血鬼!!」


倒れ込んだままで姑獲鳥は呼びかける。



「んー?何?命乞い?」


「お前は私達と同類だろ!?

何故私を撃つ!?

撃つならあの男だろ!?」



流華は少し考えてから答えた。


「何であなたを撃つかって?

強いて挙げるなら今回のボーナスでMP3プレイヤーを買う為かなー」



姑獲鳥は顔を紅潮させる。



「もういい、子供たち!この吸血鬼も殺せ!」



姑獲鳥の子たちは少し躊躇ったものの、一斉に流華へと飛んだ。


流華の目の前に銀の壁が出来た。

壁は急速に流華へと迫って行く。



しかし、それすなわち姑獲鳥の子達は体を寄せ合って突進してきていると言う事だ。



流華の下手な射撃の腕でも壁を壊す事は簡単であった。

何せろくに狙いもつけずに引き金を引いても6匹の姑獲鳥の子を撃ち落とせたのだから。


それには流華の怪力の前ではこの銃の強大な反動が意味を成さない事も関係している。

その為だけに翔良はこの銃のパーツを買い取り、組み立てたのだから。




しかし、それだけの姑獲鳥の子を殺してもまだ5匹の矢が残っていた。


流華はたった2丁の拳銃で壁の半分を壊したことになる。



残り半分にも引き金を引く。

が、弾が発射されない。



「ありゃ?弾切れ?」


姑獲鳥の子はそれぞれその隙を突いて流華の体の肉を制服ごと食いちぎっていった。



「痛っ!!」


流華は後ろに倒れ込んだ。


姑獲鳥の子たちの嘴には制服の切れ端、それに少しの血肉が付着していた。



流華の傷口はとっくに再生していたので次の姑獲鳥の子たちの攻撃に備える事は出来るが、如何せん反撃が出来ない。


慣れない手つきで流華が弾をカートリッジに装填している間に姑獲鳥の子達は方向転換し、流華へと再び襲い掛かる。



流華と姑獲鳥の子達の距離が徐々に狭まって行く。


流華のすぐ目の前に姑獲鳥の子達が到達したときに流華はようやく頭を下げた。




それは姑獲鳥の攻撃をかわす為ではない。


先述したとおり、姑獲鳥の攻撃を受けてもまた細胞組織は再生するのだから。




その理由は流れ弾に当たらないようにする為である。


銃弾は体内に残る為、細胞が回復してもふとした拍子に痛みが走る。

それは前に江本直哉に狙撃銃Kar98kで撃たれた時に残った8mmモーゼル弾で経験済みだった。




9mmパラベラム弾が姑獲鳥の子達の体を抉る。


ほんの数秒引き金を引いたままだったが、20発以上の薬莢が周囲には散らばっていた。



「大丈夫でしたか?」


江本直哉が流華を助ける為に引き金を引くとは皮肉な話である。



「大丈夫」


そう言って流華は親指を立てる。



しかし、やはりサブマシンガンでは妖怪を殺すには至らなかった。



姑獲鳥の子達は体に銃創を幾つも残したまま直哉の方へと飛んできた。


「ひっ!!」



狙撃手の直哉にとって妖怪との真っ向勝負は初めてのものだった。



狼狽え、恐怖し、ありもしない方向に弾丸をばら撒いた。



突然、姑獲鳥の子の先頭の1匹が肉塊に変化した。


直哉は流華に目をやる。



流華はまだM29と格闘していた。


「ちゃんと狙えよ、新入り」


直哉の背後の少し背の高いコンテナから重みのある声が聞こえた。



「すいません」


直哉は声の主、三島剛太に謝罪した。



「分かってくれれば良いさ、半分まかせるぞ」



残った4匹の姑獲鳥は剛太と直哉に2匹ずつ2手に分かれて襲い掛かってきた。




剛太はアンチマテリアルライフル、バレットM82のスコープを。


直哉はサブマシンガン、UZIを1度地面に落とし、肩に掛けてあった小銃、モーゼルKar98kのスコープを。



同時に覗き込み、ほぼ同時に姑獲鳥の子の内の1匹を撃墜した。


しかし、お互いまだ1匹ずつ残っている。



剛太の方は突進してきた残った1匹を素手で捕まえ、力任せにコンテナに叩きつけて、更にそれを踏み潰した。



直哉の方はと言えば姑獲鳥の子に首から右に数センチいった所を噛みつかれたがカウンターの要領で姑獲鳥の子の首根っこを掴んだ。


暴れる姑獲鳥に色々な所を引っ掻かれつつも、フリーになっている左手で手探りでUZIを掴み、姑獲鳥の子の体に流し込んだ。



暴れる力が弱まった所で姑獲鳥の子を地面に叩きつけ、続けざまに9mmパラベラム弾を撃ち込んだ。




「中々やるじゃねーの」


高さ7mはあったコンテナタワーの上から剛太は飛び降りて直哉を褒め称える。

平気な顔をしている剛太を見てぎょっとしながらも直哉は首肯して小さな声で感謝の言葉を述べた。


















一通り妖怪退治をちょうど終えたその時、剛太の携帯に着信があった。



「もしもし」


「久しぶりね~。剛太くん」


「いずみか!9か月振りくらいだな!!」



「もうそんなに経ってたかしら~?」


「時が過ぎるのは早いものだな。

そうそう、こっちは片付いたぞ」


「お疲れ様~。龍樹くんと佳奈ちゃんは来た~?」



「いや」


「2人とも遅くなるって言ってたから、心配しないでね~。

じゃあ2人と合流して戻ってきて」



「そう言えば、零治はどうした?」


「ずーっと私の看病」



「はは、あいつらしいな!じゃあまた後でな!」


「また~」



回線は切れた。


剛太が直哉に顔を合わせると彼はわなわな震えていた。



「どうしたんだよ、新入り」


「・・・・・・ません」


「あ?」



「翔良先輩と姑獲鳥が・・・・・・いません」

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