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姑獲鳥(4)~情報収集の天才~

翔良の足はいつの間にか公園の方に向かっていた。


彼自身、もうこれ以上三月と話をしてはいけないという事を頭の片隅では自覚していた。

しかし、頭で理解しているだけで体は言う事を聞かなかった。



「やあ、三月ちゃん」


朗らかな声で翔良はベンチに座っている三月に声をかけた。

昨日と同じく服装は学校指定のジャージだった。



「・・・・・・気持ち悪っ」

「おいおい、折角来てやったんだ。そんな態度は無いだろ?」

「・・・・・・何だか昨日よりも親しげだね」

「お互いの名前を知っている、それだけで十分だろ?

さあ、俺の事を翔良お兄さんと呼んでみな!」

「絶対嫌」


短いやり取りを終えて翔良は三月の隣に座った。


そして、何をするでもなくお互い空を眺めた。

夕闇の中に一番星が輝いていた。

一番どころか他にも2つ3つ輝く星が確認できた。


お互い会ったは良いが、何をするか何について話すか等全く考えてはいなかった。


でも、これで良いのかもしれないと翔良は密かに思っていた。

翔良が自分がNⅤである事を暴露したら。

お互いの境遇について語り合い、慰め合ってしまったら自分はこの少女を常に手元に、もしかしたら引き取るという考えまで浮かんでしまうかもしれない。


翔良が危惧していたのは三月でもNⅤの仕事の精度でもなく、自分の身だった。

それ程までに翔良は依存の恐怖を知っていた。

だが、恐らくこれからも三月と会うのだろう。

こんな風に星を見て、思い出した事があればそれを口に出す。


「・・・・・・喉、乾かね?」

「少し」

「何が良い?」

「何でも」



翔良は立ち上がり、自販機に向かって歩き出した。


コーヒーとサイダーを買ってベンチに戻った。

三月は先ほど翔良が立ち上がった時の体勢から寸分狂わずそのままだった。


「ほら」



翔良は三月にコーヒーを手渡した。


「・・・・・・普通逆じゃない?」


「何が?」

「普通あたしにサイダーじゃない?」

「こっちが良かったならそう言えよ」



翔良は三月と飲み物を交換した。

翔良は既にサイダーに口を付けた後だったが、三月は特に気にせずサイダーを一口飲んだ。


「・・・・・・まずっ」


「そうか?普通だったと思うけどな」

「きっとお兄さんのエキスが付着してゲロまずくなったんだ、そうに違いない。

やっぱりコーヒーに替えて」


「全く・・・・・・親の顔が見てみたい」

「だから親はいないんだってば」



翔良は再び三月と飲み物を交換した。


三月はブラックのコーヒーを飲んで、顔をしかめた。

しかし、もう交換を頼むことはなかった。




翔良がそろそろ帰ろうかと立ち上がった時だった。


「待って」


三月は翔良の制服の裾を掴んだ。



「どうした?」

「お給料。あたしの暇を潰してくれたから」


そう言って三月はランドセルから出した物を半ば強引に翔良の手に握らせた。

翔良がお礼を言うのも待たずに三月は走り去っていった。





















翔良が夕方公園に出向く習慣が形成されて、5日が過ぎた。


だからといって彼のライフスタイルは一向に変わらない。



他のNⅤと同じように朝早くに起き、朝食を済ませ、梯子を伝って校内に出る。

しかも翔良の場合、他のNⅤより20分遅く起きても始業ベルが鳴るまでには教室に着く事が出来る。



授業を受け、昼休みと放課後には一度自分の地下帝国に潜って非合法な商売を行う。


その商売も顧客は主に学生(古い銃好きなマニアや一部の教師も今井銃器店のお得意先でもあるがその数は少ない)なので、遅くとも8時には切り上げる。


勤務時間の合間を縫って、銃の制作を行う事もあった。

その間は信のおける飯島高校の学生に金を握らせて店を任せていた。


その事は周知の事実だったので、その時間で翔良が三月に会いに行っても何ら不自然ではなかった。



しかし、どんな物事に対しても完全と言う言葉はいつだって不完全だ。


「今井さ、最近公園で何してんの?」


翔良はココアをかき混ぜる手を止めた。


質問の主は二宮耕治。独自の広大な情報網を持つと自負している少年だった。



実際、翔良も心の底ではいつかはバレるとは思っていた。

そして、一番最初に自分の秘密に気付くのは耕治だと思っていた。


目の前で漫画雑誌に目を通しながらも指で机を叩いてココアを催促する少年に翔良も最初はペテン師的な印象しか受けなかった。


しかし、耕治の情報網の片鱗を目の当たりにして考えを改めた。



「どこからそれを?」


「公園で飯島小学校の女子児童を連れ去ろうとしている不審者がいるって写メが届いてさ。後ろ姿がお前そっくりだったから」



どこに行っても翔良は誘拐犯としか見られないらしい。


「撮られてたのか」

「世の中には色んな天才がいる。

盗撮の天才とか気配を消す天才とか」



お前は情報収集の天才か。

と、翔良は心の中で呟いた。


翔良は耕治の前にココアを置いた。



耕治がココアを一口一口、味わって楽しんでいるのを尻目に翔良は1つの果実を切った。


綺麗にそれを皿に盛りつけ、机の上に皿を置く。



「何これ?」


「林檎」

「それは分かってるけど、どうしたの?」

「さっき言ってた幼女から貰ったんだよ。話し相手になるって仕事の給料だとよ」

「成程」



切り分けられた林檎の内の1つに爪楊枝を突き刺し、それを口に運ぶ。



林檎は全くパサパサしておらず、程よい硬さで咀嚼するとシャリシャリと気持ち良い音がした。


耕治は5分もしない内に林檎を食べ終えた。


翔良は耕治が最後の林檎の咀嚼を終えたのを見計らって尋ねた。



「で、結果は?」

「あまり大した情報は手に入らなかったかな」


耕治は何枚かの写真を翔良の目の前に差しだした。

翔良は全ての写真に目を通した。


どの写真もボケていたが鳥の姿が写されていた。


「もっと鮮明に写っているのはないのか?」



耕治は大袈裟に肩を窄めた。

だが、その行為に落胆の意は感じられなかった。

どちらかというとおどけた調子だった。


「ここらには写真の天才がいないもので。

これなんか結構マシだと思うけどなー」


耕治の指差した写真は木の上に止まっている鳥の写真だった。



しかし、やはりボケてしまっている。


「これだけでこの辺りに姑獲鳥がいるって事を証明できそうか?」

「難しいだろうね」


翔良はがっくりと項垂れた。


耕治の得意分野は情報収集であって、元からある情報を仕入れてくるのが得意なのだ。

それをまだあるかどうかも分からない姑獲鳥の情報を仕入れてこいというのは無理な話だ。



翔良は気分を入れ替えて、ソファから立ち上がった。


「どこ行くの?」

「例の小学生の所」



耕治は追いかけては来なかった。





















見つけた。見つけてやった。

今までどれだけ私は怒りを溜めてきただろう?

どれだけの恨み言を呟いてきただろう?

だが、ついにこのどうしようもない気持ちを発散できる。

あの日、子供たちをバラバラにした少年に復讐することで。


あの少年は子供たちをバラバラにし、その肉片を持ち帰った。

少年はあの時、あろうことか笑っていた。

遠目からでも良く分かった。

自分の作った手榴弾の威力に酔いしれ、歓喜していた。

どうしても許せなかった。


どうしてやろうか?

ただ普通に殺すだけじゃつまらない。

あいつの大切な物を奪ってやろう。

我が子を奪われた私と同じように




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