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吸血鬼(10)~大きすぎて目に付かないもの~

おどろおどろにはもう自我は残っていない。





最初に目覚めた時はあの社についていた神の言いつけ通りに動いた。



神を粗末に扱った者たちへの復讐。


当初の目的こそそうであったが、血の味を覚えてしまったおどろおどろはもはや自らの食欲の為だけにその髪を血管に突き立てる。




そして、今日はまだその食欲は満たされてない。



「おい」



突然、呼ばれておどろおどろは振り返った。




その時には眉間にM870が突きつけられていた。



吹き飛ぶ体。





そして、飛んでいくおどろおどろに龍樹は容赦なくグロック17による追撃を続ける。



おどろおどろはようやく自分が撃たれたということに気付き、龍樹に向かってその髪を放つ。




龍樹はその攻撃をかわしながらゆっくりと歩を進める。




時折、一応グロックによる銃撃も混ぜるが、あの硬い皮膚に銃弾が通っていないことは承知済みだった。




龍樹はあくまでグロックは牽制として使い、おどろおどろとの距離を上手く測って左手のM870の引き金を引く。



盛大なマズルフラッシュと共におどろおどろは何度も後ろに大きく吹き飛ばされた。




おどろおどろの体には何度も風穴が開いたが、勿論すぐに再生する。




「あと300だ!」



龍樹は髪の毛をかわし、M870のスライドを引きながらまたおどろおどろへと突っ込む。



だが、ついに龍樹の右腕に髪が突き刺さった。




すぐに髪を抜くが、乱暴な抜き方だった為かどこか他の部位を傷つけたらしく龍樹の右腕から鮮血が流れ出した。



「悪い、零治こっからは頼んだ」



龍樹は出血する右腕を抑えながらその場に座り込む。




佳奈がすぐに包帯を持って龍樹に駆け寄る。






零治が龍樹たちのすぐ後ろから現れ、G11による援護射撃を行う。



龍樹は佳奈の頭を下げ、自分も流れ弾から身を守るため頭を低くする。




すぐ頭上を33ケースレス弾が通過し、佳奈が小さく悲鳴を上げる。




零治は弾切れになってもすぐにリロードをして、弾幕を張り続けた。



おどろおどろは連続した銃撃に少しずつ後ずさりを始めた。



龍樹と零治の銃撃だけでおどろおどろは随分と後ろに押された。




すぐ後ろは坂道になっており、もうおどろおどろに逃げ場はない。




「今です、いずみさん!!その坂は100もありません」



綺麗なよく通る声で零治がそう言うといずみは近くの茂みから出てきた。



すぐにおどろおどろの体に刀を突き刺すと、そのままおどろおどろを坂道に落とした。



いずみ自身も刀を持ったまま坂道を下りる。




彼女の心に後退の文字はもうない。
























「えー、まずは現状の戦力確認。

9mmパラベラム弾が32発、12ゲージ弾が11発、ケースレス弾が今セットされている分も含めて弾倉が7つ、日本刀1振り、で流華」



「何かその中に組み込まれると腹立つんだけど」




「お前は人じゃないからな。で、後は・・・・・・」




龍樹はどこかに電話をかけ始める。



いずみがいつもの調子で龍樹に尋ねる。



「どこに電話を~?」



「後輩ですよ。

・・・・・・おお、起きてたか。とりあえず、早く山の入り口を狙撃できるポイントを探せ。

・・・・・・吸血鬼?流華は関係ねえよ、とにかく化け物が入り口から出てくるからそれを撃てよ。

5分以内にな、じゃあよろしく」



電話口から何か抗議するような声が聞こえていたが、龍樹は構わず通話を終わらせた。




「ああ、直哉くんね~。彼なら弾も豊富だし確かに戦力にはなるわね~」




「そういうことですよ」



「で、結局流華ちゃんはどういう役回りなの~?」



流華が顔をしかめる。




流華ちゃんという呼び方が気に入らなかったのだろう。



流華はいずみに抗議の視線を投げかけるが、気付いていないのかわざと気付いていない振りをしているのかいずみはニコニコ笑ったままだ。



「あいつがフィニッシュですよ。吸血鬼の能力と言えば吸血に怪力、ここまで言えば分りますよね?」




しかし、そこで零治が異議を唱えた。




「まさか、吸血鬼とはいえ女性に白兵戦をやらせる気か?

君は常識と言うものが欠如しているね。そんな奴は生きてる価値ないよ。早く死に」




いずみが零治の頭を刀の鞘で叩き、黙らせた。




「そもそも流華、お前喧嘩の経験は?」


「ゼロ」




「なら最初の策だな。安心しろ、狙撃手がしっかりしてれば死なない。

だが、重要な役どころだからな」























今のいずみの心は限りなく真っ白だ。



その心に他の考えが入り込む余地などない。


そもそも何も考えていないのだから。




いずみは自分におどろおどろの髪が刺さり、血を抜かれているのも気にせずに走り続ける。



下へ下へと山道を下って行く。




朝日の色が段々濃くなっていく。




夜明けだ。





いずみはついに山道を抜けた。



と、同時におどろおどろの体から一際多めに血が流れる。



直感で直哉の狙撃であるといずみは悟った。




すぐ近くに自分がいるのにおどろおどろにのみ的確に弾痕が刻まれていく。




いずみは直哉を採用して良かったと、心の底から思い、すぐに刀を引き抜き、狙撃の邪魔にならない場所によろけながら離れて行った。

















「では、問題だ。現在の状況で一番威力の高い武器は?」



佳奈が元気よく答える。




「龍樹のショットガン!!」



流華が佳奈に軽蔑の念を込めて、視線を向ける。



そして、わざと大きなため息をついて口を開く。




「この猿、馬鹿だね。ショットガンって言ってもソードオフタイプだから威力は半減してるじゃん。

相手が人間ならまだしも妖怪だよ?ソードオフってだけでかなり効き目は違うよ。恐らく狙撃銃じゃない?」



「誰が猿って?この、吸血鬼!

佳奈は人間様だぞ?」



「あらやる気?」




佳奈と流華は互いに睨み合っていたが、龍樹がすぐさま止めに入る。



「落ち着けって。どちらも不正解だ。

この中に『3つの凶器』ってミステリを読んだことがある人はいるか?」




全員、黙り込んでしまった。



龍樹が頭を掻きながら、口を開く。




「当然か。まあ、俺の場合もミステリ好きの翔良に薦められて嫌々読んだだけだからな。

ある男が死んだ。その男の死体は体中傷だらけでめちゃめちゃだった為、凶器の特定が困難だった。

凶器の候補に挙がったのはナイフ、ロープ、拳銃の3つ。

で、結局その男を殺した凶器ってのは・・・・・・」























流華は素早くおどろおどろに近づくと、おどろおどろの体を担ぎ上げ、真上に投げる。





空を飛ぶおどろおどろは心なしか狼狽しているようにも見えた。



最も表情の変化など見受けられなかったが。




おどろおどろの体は硬いコンクリートの道路におよそ7mの地点から落下した。




トマトが潰れた時のような生々しい音と共におどろおどろは悲鳴を上げた。




「効いてる!!」



「分かってる。まだ油断するな」



龍樹は空に向かって9mmパラベラム弾を3発続けて発射した。



この行動は直哉への狙撃中止の合図である。



龍樹は至近距離でおどろおどろに12ゲージ弾を浴びせた。




右腕に包帯が巻かれているからかスライドを引くのにも少し時間がかかる。



零治はG11の残弾で、佳奈は龍樹から投げ渡されたグロックでおどろおどろに攻撃を続ける。




「流華、もう一回頼む」



流華はさっきと同じ要領でおどろおどろを担ぎ上げた。



が、おどろおどろは生命の危機を感じたのか流華へと髪を突き立てた。




おどろおどろの髪に血液が流れ始める。



「残念でした。吸血はあたしの専売特許なんでーす」




流華は目を輝かせ、おどろおどろの体に齧り付く。



おどろおどろは目をカッと見開いた。




流華はおどろおどろの体の血液を全て吸い尽くすかのような勢いで血を吸い始めた。



このままでは先に血を抜かれ、殺されるのは自分だ、とおどろおどろは本能的に悟り、髪を流華の肌から引き抜く。




しかし、その隙を突いて流華はおどろおどろを真上へと投げた。



本日、2回目の不快な破裂音。






おどろおどろには最早戦意の欠片も残っておらず、その場に崩れ落ちた。



そこにも躊躇いなく銃弾を撃ち込む。




やがておどろおどろは痙攣を続けるだけの肉の塊になった。





しばらく静寂が流れたが、龍樹が一同にそっと告げた。



「弾残ってる奴、手挙げろ」




佳奈がそっと手を挙げた。



「ちょうど3発残ってる」




龍樹は佳奈にニヤリと笑いかける。



「じゃあ、とどめは本日の名狙撃手に頼むか」




佳奈もすぐにその意図を察し、空に向かって3発撃った。




その行動は狙撃再開の合図だった。

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