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吸血鬼(7)~殺してくれとあいつは言った~

井森は地面に仰向けに寝転がっていた。



夜空を見る為というロマンチックな思考は勿論彼は持ち合わせていない。





痛みと疲れで立つことさえも困難な状況だから寝転がっているのである。



その手にG36は握られていない。


そして、体の何か所かに刻まれている銃創。



急所に弾が当たっていないのは不幸なのか幸福なのか、彼にとってはとてつもない不幸だった。







零治がG11を構えながらゆっくりと井森に歩み寄ってきた。



憎々しげに井森は呟いた。




「はあ・・・・・・くそっ、こんなゴミみたいな銃に負けるなんて」


「生憎だが、どんなに良い銃を持っていても使う人間の技量によってその銃は金にもゴミにもなる。

別に君の使い方が悪いわけじゃない。僕の使い方が君以上に良いというだけさ。

だが、これでG36対G11の決着はついたかな」



「・・・・・・ちっ!」





井森は寝転がったまま両腕を大きく広げた。



「ん?」


「殺せ。尋問に掛けられるよりはマシだ」



井森はこの時になってようやく自決用の武器の類を持ってこなかったことを思い出した。


というより彼は一度もそんな物持ってきたことがない。



ケントは恐らくあの拳銃を代用できるがあの性格だと自決なんてしないだろう。




だが、零治の答えは井森の予想とはかけ離れたものだった。



「嫌だ。僕は気の強い奴、男でも女でも良いがそいつが無様な姿になるのを見るのがとっても好きなんだ。

君にはもう少しそこをのように這いつくばっていてもらおうか」



言い終えると、零治は井森の両足を撃った。


井森は短く悲鳴を上げて零治の顔を見上げた。




彼はさも愉快であるかのように嘲笑していた。


誰の事かは言うまでもない。



こんな表情であろうと世間一般では彼の顔はイケメンの部類に入る。




零治は井森に背を向けて歩き出した。


零治の背中に怒気を含めた言葉が浴びせられた。




「井森宏明、お前を殺す男の事だ。覚えておけ」


「そうか。じゃあまた会おうか、宏明くん」
























龍樹と直哉の吸血鬼との遭遇はかなり突発的なものだった。



先頭を歩いていた龍樹のつま先に何かが当たった。





流華はぐっすりと眠っていた。


その表情だけ見るとやはり彼女が吸血鬼とは直哉にはどうしても思えなかった。



そう言えば、彼女は何故太陽が出ている昼間も活動できたのだろうか?


彼はふとそんな疑問を感じたが、これから彼女の息の根を止めるのにそんなことどうでもいいかと思い直して流華の頭にKar98kの銃口を突きつけた。



小声で直哉は龍樹に尋ねた。



「ターゲットですよね?」

「ああ。その通り、だ」



龍樹は言葉を途中で言葉を切り、直哉の頭をグロックで殴りつけた。




うっと短く直哉は唸ると、彼はパッタリと倒れこんだ。



直哉は何が起きたかも分からず混乱した頭のまま意識を失っていった。




「悪いな直哉。・・・・・・おい、起きろ」




龍樹は流華の頭を軽く蹴った。



流華はそれだけで飛び起き、龍樹から距離を取った。






彼女は自分の頭を蹴った者の正体を知ると、目を見開いた。



「鎌田くん?」


「おはよう流華。いや形式上ここは吸血鬼か」



流華は吸血鬼という単語に一瞬反応し、龍樹に飛びかかろうとしたが彼の右手のグロック17を見て、動きを止めた。



彼の銃は真っ直ぐ流華の心臓に狙いを定めている。





「No value。聞いたことあるだろう?」


「意外。鎌田くんみたいなのがメンバーなんて」




流華は服が汚れるのも構わずその場に座り込んだ。



龍樹もそれに倣って座り込む。


だが、銃口の向きはそのままだ。



背の高い草から垂れる朝露が龍樹の頬に落ちた。



お互い言葉を発さず周囲の虫の声がやけに大きく聞こえた。




流華が諦めたような口調で龍樹に話しかける。


「私を殺すんでしょ?」



「殺せるならお前を起こす前に殺してた。俺はお前に死んでほしくない」


「私が妖怪でも?」


「ああ」


「No Ⅴalueの上司が私のことを殺せって言っても?」


「ああ」


「私が今この瞬間に龍樹を殺そうとしても?」


「いいからここから逃げてほしい」


「私の質問に答えてないじゃん」


「答えの出ない問題ってのはあるものだ」



「何それ、馬鹿みたい」




流華は声を上げて笑った。


龍樹は小馬鹿にされたようで腹が立ったが、子供のように無邪気に笑い声を上げる流華を見てそんな気持ちは消えた。




ひとしきり笑い終えた流華は龍樹に尋ねた。



「どうして?私は化け物だよ?それを殺すのが仕事じゃないの?」




「他のメンバーだったらそうしてただろうな。

自慢じゃないが俺はあのメンバーの中で一番情に脆い」


「嘘つき」



「嘘なんかつかねえよ。

俺のことも何もかも忘れて別の地で幸せに暮らせ」


「鎌田くんが私を幸せにしてくれるって約束したじゃない。お前を幸せにしてやるって言ったじゃない」



「お前の方が嘘つきだ」





流華は押し黙り、品定めするかのような視線を龍樹に向ける。



10秒、もしかしたらもっと短かったのかもしれない。




流華は静かに龍樹に尋ねた。





「私は今回の事件には関わってない。・・・・・・って、言ったら信じてくれる?」



「信じてやる」


「私、犯人に心当たりがある。あの女生徒の傷からして多分今回の吸血鬼の犯人は・・・・・・」


























それはまるで壊れた人形のようだった。



拷問を受けて必要な情報は全て引き出されたケントにはもう敵への抵抗の色すら見えない。




佳奈はあまりに残酷ないずみの拷問の残骸を見たくなかった為、あらぬ方向を向いたままいずみの報告を聞いていた。



「どうやら敵はあの子も含めて3人。内1人はほとんど衛生兵みたいなもので戦闘能力は皆無。

携帯が使えないのはこの子の使ってる妨害装置が原因みたいね」



「もう1人は井森のこと?」



「でしょうね~。まあ、零治くんの勝利は確実だから井森からの不意打ちは無いものと考えて良いわね」




いずみがそう言い終えた時だった。



ケントのものと思われる叫び声がすぐ近くから聞こえた。


いずみと佳奈はすぐにケントの方を振り向いた。





ケントは口をパクパクさせながら体を痙攣させている。



その体がみるみるやせ細っていくのである。


彼の体はいまや骨と皮がほとんど触れあっており、ショックで対の目玉が飛び出し、地面に不快な音をまき散らす。



その様子はまるで生きながら体内をピラニアに食い荒らされているようであった。




彼の体には大量の針のような物が突き刺さっている。



それはチューブのようになっているようでケントの体から血液や臓器を吸い取っているようであった。




その証拠に針のような物の中を何かが流れている様子が外側から見てもありありと分かった。





「どうやら吸血鬼って言ってもヴァンパイアではないみたいね~」



いずみはゆっくりと抜刀し、刀を構えた。

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