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吸血鬼(5)~傑作小銃G36vs駄作小銃G11~  

朝日に照らしだされた山の入り口は妖しげな輝きを放っている。



ついこの間、七人ミサキが出没したあの裏山である。




耕治の謎の情報網によると最も流華が隠れた可能性が高いのはここだったのである。



NⅤの面々、いずみ、佳奈、直哉、零治、そして龍樹。





佳奈が無言で先陣を切って歩き始めた。


続いて零治、その後ろにいずみ、龍樹、直哉の順で山内へと踏み入っていった。






前を見たままでいずみが龍樹に尋ねる。



「龍樹くん?覚悟は出来たかしら?」



「正直・・・・・・まだあまりです」

「あれは妖怪なのよ?七人ミサキの時とは違って生まれた時から」



龍樹の脳裏に高田の顔が浮かぶ。




「仮に妖怪だとしても友だち(・・・)でしたから」


「そう。でも、その甘さがあなたの寿命を縮めることになるのよ」



「俺たちはもう死んでるようなものでしょ?精神的にも肉体的にも社会的にも」




いずみはその問いには答えずに妖しく笑っただけだった。






それから5分も経たない内に先頭の佳奈が歩みを止めた。




「誰かいる」



すぐに全員が臨戦態勢を整えた。




目の前には金の髪を立て、黒いサングラスに黒のベスト、迷彩柄のパンツ姿の高校生くらいの少年が笑みを浮かべながら立っていた。



「1,2,3・・・・・・5人か。案外少ないじゃねえか」



少年はそう呟いて不満そうに口を尖らせた。

だが、少年が龍樹の姿を見つけると嬉しそうに笑みを浮かべた。



「龍樹じゃねえか。元気ぃ?」

「相変わらず喜怒哀楽が激しい奴だ」




直哉が後ろから小声で尋ねた。



「この人誰ですか?」



「飯島北の自己中担当・・・・・・井森宏明」


「自己中担当とはひでえな。俺は」




そこでセリフを一度切り、背中にかけてあった小銃、H&KG36を手に取り、龍樹たちに向かって発砲してきた。



そして、撃ちながらセリフを続ける。



「特攻隊長だ!!」




龍樹たちは一斉にそれぞれの方向に散って行った。


ただ一人を除いて。



直哉のみは状況が飲み込めずにただそこに立ち尽くしていた。



「一匹もらいー!!」


井森が直哉にG36の銃口を向けた。



直哉は恐怖から両手を前に突き出した。




だが、彼に銃弾が着弾する前に射撃音が井森の左肩を抉った。



「ってえ!!」



井森は続く銃撃を避ける為、大木の背に寄り掛かった。





一度、銃声が止み零治の問いが井森に投げかけられる。



「その銃はG36だな?」



「・・・・・・ああそうだ」


「・・・・・・未だに謎だ。ドイツ軍は何故そんなごみを正式採用したのか。

確かにこいつはその銃に性能的には劣る。だが、見ろこのライン。究極の美じゃないか」



零治はうっとりとした表情で自分の愛銃G11を撫でた。


彼は自分のセンスが悪いなどとこれっぽちも思っていない。



もちろんそんなことは知らない井森は引き攣った表情で言葉を返した。



「だっせえ!!G11?そっちのがごみだろ!」




瞬間、零治の心のスイッチが入れ替わり、悪魔を髣髴させるような邪悪な笑みを浮かべた。


「出てこい、僕のセンスを否定するとはいい度胸だ。

顔くらい見せろ。死んだ後も2日は覚えていてやる」




井森は素直に木陰から出てきた。



「随分と腕の細い兄ちゃんだな。ドンパチできんのかよ?」





森中に銃声が響き渡り始めた。

















「始まったっポイね」



パジャマ姿の眼鏡をかけた白人の少女がハンバーガーを咀嚼しながら相棒に呼びかけた。

だが、相棒からの返事はない。



「行ってきなよケント。私はここでボーガイコーサクしてるから」



ケントと呼ばれた少年は拳銃、H&KP7M8を片手に振りかえった。



少年の体は小さく線は細い。

その体型には不釣り合いな獣のような目つき。



いや、彼には何故かその目つきは似合っている。




ケントはヒャッハーと奇声を上げながら走り去っていった。




少女はそれを見送ると次のハンバーガーに手を出した。

















直哉は龍樹に無理やり引っ張られ、銃撃戦地から100mは離れた場所に連れてこられた。



100m程度ではまだ狙撃される可能性があったので、2人は岩場に隠れた。




開口一番龍樹は直哉に文句をつける。





「何、ぼおっとしてんだ馬鹿。次は死ぬぞ?」


が、直哉も反論する。



「何でですか?

あの人は飯島北の人ですよね?一緒に仕事すれば早く」



「ああ、早く仕事は終わるさ。だが、俺たちはいつでも金欠だ。

向こうだって報酬は多い方が良いと思ってんだ」



「だからっていきなり銃撃戦するって・・・・・・殺す気ですか?」


「ああ、向こうは少なくとも殺す気だ」




直哉は面食らって何も言い返せなかった。




「いいか。前にも言ったように俺たちはもう死人同然なんだよ。

化け物に殺されようと人間に殺されようと誰も悲しまない。また新しい駒を買わなきゃくらいにしか思われねえ。

他のNⅤに出会った時点で、報酬の奪い合い・・・・・・即ち殺し合いは確定なんだよ」


「でも」

「でもも何もねえ。大体、さっきあのままだったらお前死んでたぞ」



「・・・・・・はい。分かりました」




直哉の心情はまだ龍樹に納得はしていなかったが、先ほどの事実もあったため肯定するしかなかった。












「いずみ先輩と佳奈先輩大丈夫ですかね・・・・・・」

「零治はいいのか?」


「何となくあの人は大丈夫な気がします」


「んなアバウトな・・・・・・」



龍樹はいずみ達と連絡しようと携帯を取り出した。



液晶画面を見て眉をひそめた。




「圏外か・・・・・・いや、それだけじゃないな。こりゃ」



直哉も龍樹の不審な態度を感じ取って自分も携帯を開く。





携帯の画面には不自然な乱れが生じている。



「妨害電波ですかね?」


「そんなとこだろうな。こんなに強い乱れとなるとかなり大掛かりな物を使っているんだろうな」




ため息をつき、龍樹は携帯を閉じた。



直哉も伝染したのか消沈しきった顔でため息をついた。




龍樹は直哉をたしなめるかのようにパンと手を叩き、歩き始めた。




「とりあえず、まずは吸血鬼を優先するぞ。あれさえ叩けば全て終わりだ」






出来れば吸血鬼に会わずにこのまま帰りたい。



そんな思いを振り切って直哉も龍樹の後を追った。

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