吸血鬼(3)~友だち~
翌日、龍樹は体育館で校長による昨日の事件のあらましをぼおっと聞いていた。
七人ミサキの時は学校内での事件ではなかったからそんなには騒がれなかったが、今回はその校内で事件が起きてしまったので、全校集会が開かれた。
昨日の被害者の女子生徒は発見が早かったことも幸いし、一命を取り留めたらしいが、学校でも今後の方針を決めるからだからなのか今日は現在行われている全校集会と学活だけで終了である。
「と、いうわけでこの度はこのような不幸な事件が起きてしまい、今日から3日間は臨時休校といたします」
校長がそう締めくくり、生徒達は歓喜し、教師達は落胆した。
龍樹が帰りの準備をしていた時であった。
「鎌田くーん」
期待を含んだ声で龍樹は自分の名前を呼ばれた。
龍樹は振り返り、少し驚きながらも返した。
「どうした鬼頭?」
「流華でいいよ」
「分かった。で、どうした?」
流華は少し怒ったような声で返した。
「ひどいよ!昨日字教えてくれるって言ったじゃん」
ちなみに龍樹は今日も教えるといった覚えはない。
だが、このまま帰るのも悪く思ったので素直に教えてやることにした。
「分かった分かった。良いから場所移すぞ」
龍樹はクラスメイトの視線を感じながらも歩き始めた。
ーーー飯島市立図書館ーーー
2人は飯島市の西に位置する図書館に来ていた。
この図書館は利用者がほとんど居らず、全部で12個設置されている内のテーブルは10個も空席である。
かといって本を選んでいる人影もあまり見受けられない。
蔵書数も少なくはなく、内装も綺麗、近くに大きな図書館があるというわけでもないのに人気が無い。
それが飯島市立図書館である。
「だからとめはきちっと止めろ。はらいも雑にするな」
「うう・・・・・・難しい」
流華は龍樹のスパルタ教育によってしごかれているところだった。
「鎌田くーん、お腹空いた」
「紙食え」
「山羊じゃないんだからさ・・・・・・」
「字を書いた紙を噛まずに飲み込むと字が上手くなるんだぞ」
「・・・・・・本当?」
流華は僅かな人目をはばかりながらもクシャクシャに丸めたノートの切れ端を飲み込んだ。
ちょっと流華に字を教えるのが楽しくなってきた。
「じゃあ、ここからここまで全部覚えとけよ。学校始まったらテストするから」
が、答えは返ってこない。
夕日で染まった図書館内は流華の周りだけまるでモノクロ映画のような暗さを備えている。
龍樹の帰り際に流華は一言「燃え尽きたぜ・・・・・・」と、呟いた。
図書館を出るとすぐに携帯が鳴った。
「もしもし」
「やはり男の声というものは・・・・・・」
電話の相手は珍しく零冶であった。
「お前から電話かけてくるなんて珍しいな」
「ああ、吐きそうだ。早く切りたいから用件だけ言うぞ」
「どうぞ」
「委員長命令で明日は一日中犯人捜し。おそらく明後日もだ。以上」
「今日は何も無いのか?」
「今日のことは僕は一言も言ってない。分からないのか?無知なのか?だから男は」
「ああ、はいはい分かりました。バイバイ女好きの零冶くん」
零冶の続く言葉を言わせないうちに龍樹は電話を切った。
切るとほぼ同時にタイミング良くメールが来た。
どうせ委員長だろうと思って確認してみると全く違った人物であった。
ーーー鎌田くん!!女の子を置いて1人で帰るってひどくない?---
語尾には怒った顔の絵文字。
そして、一行空いてーーー明日も字教えてよーーーという一文。
言うまでもなく流華からである。
龍樹は
ーーー分かった。明日は夜になるけどいいか?来れるなら9時くらいにどこかで待ち合わせしようーーー
と、返した。
少し遅れて龍樹が寮に着いたら
ーーー私は良い友達を持てて幸せだよ!じゃあ図書館の近くのファミレスでねーーー
と、いった文面が返ってきていた。
「・・・・・・俺の新しい友達は1年ぶりくらいか?」
龍樹はついつい友達という単語に口を緩めてしまった。