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吸血鬼(1)~ベタな転校生~

今章はかなり長くなると思われます

「ふあーあ・・・・・・」


鎌田龍樹は思わず周りが目を向けるほどの大きな欠伸をした。



昨夜は遅くまで起きていた所為か、眠気がひどい。

理由は深夜に放送する映画を見ていたからという単純なものである。


「鎌田くん、先生のありがたいお話の途中に欠伸をするとは失礼にも程があるよ」

そう抗議するのは龍樹の目の前の席に座っているクラス委員である前野まえの良沢りょうたく



眼鏡を掛け、綺麗に揃えられた7:3分け姿はやはり生真面目な印象を受ける。

それに加えて誇らしげに胸につけてあるクラス委員のバッジが憎い。



「あー、はいはい。俺が悪うございました。申し訳ございません」


龍樹の適当な態度に腹を立てたのか良沢は更に強い口調で返す。

「君が僕に謝られても困る。先生に謝りたまえ」

「・・・・・・俺にとってはどうでもいいが、今お前の味方一人もいないぞ」


良沢が後ろを振り返ると、クラスの男子が全員良沢を冷たく見つめている。

女子は女子で鬱陶しそうな表情である。



普段ならクラスでも浮いている龍樹の味方をするのはとても珍しい事であり、原因は良沢が龍樹に抗議する直前の担任の一言の所為である。
















「転校生を紹介します」




その言葉で2-C生徒は男女問わず期待で胸が高鳴った。

その大事なタイミングで誰が好き好んでクラス委員の説教なぞ聞きたがるだろうか?

勿論そんな物好きは一人もいなかった。


「な・・・・・・いや、まあ今はいいでしょう」


良沢は周囲の視線に耐えきれずに席に着いた。

そこで担任の教師は気を取り直して廊下に立っているであろう転校生に声をかけた。

ガラリと戸が開く音がする。














教室内に入ってきたのは男子の期待に添えた女子であった。



背は高く、黒髪で髪型はポニーテール。

人懐っこそうな顔つきをしている。

少女は元気な声で自己紹介を始めた。


鬼頭きとう流華るかといいます。みんなよろしく!」



一瞬で男子全員の気を引き、女子全員にマークされるのはまさに神業であった。


「じゃあ鬼頭さんは鎌田くん・・・・・・あの一番後ろの子の隣に座ってください」



いつもは生徒を黙らすために拳銃の引き金を引く程の恐ろしい男性教師でもやはり転校生には優しい。


男子からの妬みの視線が龍樹に殺到する。

が、龍樹はそんな視線などどこ吹く風で受け流している。



美しい動きで流華は龍樹の隣の席まで歩き、座り、そして彼に話しかける。

「よろしくね、鎌田くん」



対する龍樹は不愛想に返事を返した。

「ああ、ヨロシク」


















流華の人気は朝のホームルームから、現在昼食の時間までの短時間で絶対普遍のものとなっていた。

流華のルックス、声、性格全てにおいて高得点であるのだから当然だろう。

最初は煙たがっていた女子ですら何人かは彼女の周りに集まっている。


そこから少し離れた場所で龍樹と耕治は購買で売っていた幕の内弁当をひっそりと食べていた。

「で、今度は何があったんだよ?」



龍樹が白米を箸で口に運びながら尋ねる。


「おいおい、まだ何かあったと決まったわけじゃないだろ?」

「お前が昼食を一緒に食べようって言う時は大抵厄介事を持ってくる時だろうが」

「うーん。確かに」



そこで耕治は一度、紅じゃけを咀嚼してから続けた。


千尾川ちおがわの河原でミイラ状態の女性の死体が発見された。体中に無数の刺し傷があったらしい」

千尾川とは飯島高校から北に3.4km行ったところを流れる川の事である。


「・・・・・・お前、どっからそんな情報仕入れてきてんだ?」

「企業秘密。言っとくが、かまいたちの時も情報源は俺だぞ」

「まあ、あのゆったりとした委員長がそんな事するイメージは無いしな」




今頃、いずみは盛大なくしゃみをしているだろうと考えると、龍樹には少し笑えてきた。


「しかし・・・・・・」



龍樹は楽しそうに談笑している流華を見遣った。

龍樹の視線には気付かず、彼女は構わず雑談を続けている。


「すごい人気だな」

「現在校内女子人気投票の結果第8位。俺はああいうタイプは嫌いなんだけどな。でも、これからも順位を上げ続けるだろうな」


またもや耕治の情報の仕入れルートが気になった龍樹だが、聞くだけ無駄だと判断し、追求を断念した。







少し間をおいてから、龍樹は思い出したように言った。


「ってか、千尾川ってことは飯島北も来るんじゃないのか?」

「そりゃそうでしょ。標的の正体が分かって無いから強いのを送ってくるのは間違い無いだろうな」





飯島市には全部で4つのNⅤを設置している高校がある。




飯島市の中心に位置する飯島高校。

そこから5km北に行ったところにある飯島北高校。

飯島高校から東に17km程行った所にある飯島東高校。

飯島北と飯島東を直線で結んだ時のちょうど中心に位置する私立海円かいえん高校。



その他にも小学校、中学校、市役所などにもNⅤが置かれており、妖怪を殺すことで貰える賞金で生計を立てている賞金稼ぎと呼ばれるNⅤも珍しくはない。


ちなみにNⅤというのは、妖怪と戦う者全てをひっくるめた呼称であり、学生のみに適用されるわけでは無い。
















「まあ、人が死んでるから小学校、中学校は動かないだろうし市役所の人員割くわけにもいかないから、やっぱり動くのは北の連城か井森だろうな」


「井森はやめてくれ」



龍樹は飯島北高校に知り合いの顔を思い浮かべ、苦々しくそう呟いた。



「賞金稼ぎは『サソリ』が近くにいるけど只今出張中。やっぱり北が本命だな」

「・・・・・・いつも思うんだがそのコードネームみたいなのは何なんだ?」

「本名出して妖怪殺す奴の方が少ないって。下手すりゃ公認されている俺らみたいな賞金稼ぎから邪魔物扱いされて報復攻撃受けるからね」


話し終えると耕治は割り箸を弁当の中に入れて、蓋を閉め、その上から輪ゴムをかけ、ゴミ箱にシュートした。


まだ半分以上残っていた弁当の中身を見ていた龍樹は小さく

「もったいない」

と呟いた。

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