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かまいたち(5)~ピアノは弾けない~

佳奈は夢を見ていた。




「佳奈はピアノが上手ね」

「将来はピアニストかもな。ハハハ」


(嫌だ・・・・・・嫌だ)




「大丈夫ですか!?・・・・・・生存1!子供が1人!!」

「残念ですがもう右腕は・・・・・・」


「兄さんの娘?しかも右腕が無い?そんな子家で養えませんよ」

「--市で起きた津田夫婦惨殺事件は娘の津田佳奈ちゃん(9)の証言によると妖怪の仕業であるとされており・・・・・・」


(嫌だ嫌だ嫌だ)




「初めまして。私は委員長の根来いずみ。これからよろしくね」

「今井翔良だ。突然だがもう一度・・・・ピアノを弾きたくないか?」

「お前にピアノの道はもうない。翔良に上手く騙されたんだよ」


(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ)


「お前の右腕は妖怪を殺すためだけ(・・)のものだ」



















「いやああああああああ!!」


叫びながら佳奈は上体を起こした。

夢から覚めた今でも体に恐怖の色は刻まれており、現に心臓の鼓動はまだ早い。



「おっ、起きた起きた」


その声で佳奈はここが翔良の住む地下帝国のベッドの上であるということを悟った。

ちなみに翔良は寮にも自室があるのだがこっちの方が快適だからという理由でいつも自分の地下帝国で寝泊まりしている。










地下帝国。


その名の通り翔良は学校には無断で地下に自分だけの空間を作り上げた。

ここに広がっている通路を通ることで学校からエスケープすることも可能だ。

翔良の地下帝国への入り口は校内だけで44か所、校外にも7か所作られている。



しかし、これは翔良が把握しているだけの数でありいずみや龍樹からは校外どころか県外にもあるのではないかと疑われている。


「ほらココア飲め」



翔良は佳奈にココアを差し出したが、カップは佳奈の左手に阻まれて壁に激突して割れた。

ココアがカーペットに染みて行く。

「・・・・・・ったく、俺も嫌われたもんだ」

「佳奈はまだあなたのことを許してない」

「まあそりゃそうだろう。つまるところお前も含め飯島高校の裏・風紀は皆俺の実験動物モルモットだからな。・・・・・・じゃあ聞くが替えの腕は要らないのか?」


佳奈は黙って首を横に振った。


「そうだろ?じゃあこの『火車ーⅡプロトタイプ』の使い心地を試してくれ」



翔良は台車に掛けられていた布を取った。


台車にはどこからどう見ても人間の腕にしか見えない物が乗せられていた。


「麻酔打つからじっとしてろよ。それと起きたらカップ片付けてくれ」

「嫌だ」



翔良はその答えに不満一つ漏らさず黙って佳奈の左腕に注射針を突き刺した。


佳奈は目の前で笑う少年に憎悪の炎を燃やしながらもゆっくりと眠りについていった。



















少女はなくなった腕を求めて必死に助けを請うた。

そして見つけた1つの方法。


義手


彼女は騙されているとも知らずにその案を承諾した。

彼女はこれでまたピアノが弾ける。そう思った。

だが、その義手は妖怪を焼き殺す為だけの物だった。


それがNⅤ津田佳奈の誕生だった。









義手の中に簡易火炎放射機を無理やり埋め込んだ単純だが恐ろしい兵器。

それが今井翔良の発明品の中でもトップクラスの出来を誇る火車である。




















「つまり、ただのガソリン切れだったってことですか?」


佳奈は頷く。



佳奈の右腕の話を聞き終えた直哉の問いは実に単純なものだった。


彼女の腕の不思議についてである。



最初は言うのを渋っていた佳奈も直哉の誠意に負け、白状した。


それだけ彼は佳奈の右腕を心配していた。




佳奈は今日の学校は一応休み、部屋で寝ていた。


直哉は学校が終わるとすぐに佳奈に昨日の一件を聞きに来たのである。

「うん・・・・・・でも何とも思わないの?直哉くんは」

「何がですか?」

「右腕が・・・・・・義手ってことに」

「そんなの気にする訳無いじゃないですか。それより今夜どうですか?妖怪倒したから国からボーナスも出ましたし」


直哉はそう言って厚みのある茶封筒を佳奈に見せた。

その表情に嘘偽りは無い。



佳奈は自分の事を否定しない後輩に対して好意を抱いた。

恋愛感情とはまた別物だが。

と、同時に自分の新しい右腕に目をやった。



「これからもよろしくね。火車」

直哉に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で佳奈はそう呟いた。

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