異世界FX ~皆がゴードル/円をロングしていた日~
アーンスガルド。
地球の人間たちによって発見された異世界であり、国の名前でもある。流通している通貨はゴードル。
新しい国と新しい通貨。
この二つが見つかったら何が起こるか?
そう。FXに新たな通貨ペア、ゴードル/円が誕生したのである。
「ゴードル/円に全力ロングだ!」
この日、FXトレーダーたちはお祭りに参加するような気分でパソコンモニターやスマホ画面を見ていた。
何しろ、もうすぐ勇者が魔王を討つという一大イベントが発生するのだ。
雇用統計など目じゃないくらいの期待感が、FXトレーダーたちの中にあふれていた。
期待感につれてひたすらに買いが積み上がる。まさにロンガー大量発生の時であった。
同時刻。
ところかわって、ここはアーンスガルドの魔王城……。
その玉座の前で、いよいよ勇者が魔王と最後の決着をつけようとしていた。
「魔王よ。覚悟しろ!」
気合の叫びとともに剣を抜いて、切っ先を魔王に突き付ける勇者。
そんな勇者に、魔王は玉座にすわったまま慌てず騒がず、ふところからあるモノを取り出した。
「勇者よ。これを見ろ」
魔王が見せた魔法石板には、赤と青のローソクのような棒が多数描かれたグラフが表示されていた。いわゆるチャートである。
魔王の行動の意味が分からずとまどう勇者を見据えながら、魔王は言葉を続ける。
「勇者のお前が快進撃を続けるのに伴い、お祭り気分で買いが大量発生。つまりロンガーが多いということだ。皆、お前が余を討つことを期待している。……だが、もし逆にお前が余に敗れるようなことがあったら、どうなると思う?」
「……だ、大暴落が発生するということか?」
「その通りだ。そして余は魔王軍の全資金で、ゴードル/円を大量に売り注文……つまりショートする準備がある」
「……!?」
「お前が余の軍門に下ればたちまち他の世界にまで伝わる大ニュースとなり、ゴードル/円は大暴落……ショーターである余は天文学的な大金を得るというわけだ……」
魔王は一旦言葉を切り、勇者の反応をうかがった。
自分が話した計画を完全に理解したらしいことを確認すると、ふたたび口を開ける。
「さて、ものは相談だが……その金をお前と余、二人で山分けしないか?」
「し、しかし……」
突然の申し出を聞いてしぶる勇者に、魔王はさらに言い募る。
「100ゴードル程度の資金しか与えてくれない王に義理立てする必要がどこにある?」
「……!!」
「しかもそれ以降、王はお前に対して一切の援助をしていないであろう?」
「そ、それは……」
「お前が今身に着けている剣と鎧は、お前が自力で手に入れたものだ。違うか?」
「う、ううう……!」
「世の中金だ。金なんだ!」
ついに魔王は玉座から立ち上がり、勇者に向かって一歩を踏み出した。
「さあ、余の手を取れ」
差し出される魔王の手。
勇者はしばらくそれを見つめていたものの……。
やがて、剣をゆっくりと鞘におさめ、魔王と同じように右手を差し出したのであった。
勇者、魔王の軍門に下る!
このニュースはたちまち世界中を駆け抜け……。
「クソがああああああああああああああああ!!」
この日、ロンガーたちの悲鳴があちこちで響き渡るのであった。
~おしまい~
FXはやめとけ(血涙)




