インテリジェンスクオリティ
「神様ね、流石に考えました。
5回もミンチになっているのに何の進展もない。
前にも言いましたが、命をなんだと思っているのですか。」
僕も前に言ったけど、神様の責任も多大にあると思うよ。
僕は特別な力がどんな力なのかを使ってみるまで知らないんだから。
説明不足もあるし、一回使い方を間違えたら自爆する様なピーキーさも、神様が設定してるんだから。
「そうですね。
正直、5回も転生してるのに、まだこの世界に30分も滞在しておりません。」
あ、そう。
まだアニメだと2話に入ってすぐぐらいの時間で5回死んでんの?
マジかよ。
「マジですよ。
オープニングテーマでも作って尺を稼ぎましょうか?
信じられないのはこっちもですよ、全く。
なので神様、今回はこちらから力の提案をしちゃおうと思います。
神様らしく、スタルビニアラルフィード・サシュマシャルルペペペぺ・チャチュムラッチャヌボンボ君を導いてあげちゃいましょう。」
その名前で呼ばないで。
意地でも覚えないから。
ラルフ、せめてラルフィードとして生きていくと決めたんだ、僕は。
しかし…この神様の提案か…期待より不安が勝つねぇ。
いや、良い神だとは思っているんだけど…ねえ?
ここまでの実績が信頼を生むには血生臭過ぎるんだよ。
「その期待に満ちた顔。
良いですよ、発表しちゃいましょう!」
いや、僕の心読めてるんだよね、多分。
懸念を無視するにはダイナミック過ぎるけど、まぁ、良いよ。
とりあえず聞くよ。
「その期待に満ちた!顔!」
はぁ、分かったよ。
おほん。
えぇ!神様が直々に僕に能力を!
何だろう!気になるなあ!
「次の力は、知能です。高い知能。
これである問題を解決できます。
そう、言語ですね。
それに知能は言語だけに使う物ではありません。
生きていく上で何をするにしても有利に働き、危険も少ない。
どうです?」
…まともな提案すぎてびっくりした。
不満は無いよ、確かに。
言葉を覚えるのに苦労しそうだし、働くのにも有利だろうから異論も無し。
凄いよ神様、今が一番神々しいよ。
「そうでしょう。
それでは貴方には高い知能を授けます。
次の人生で幸多からんことを…。」
そうして「私」は意識を沈めた。
……
…………
………………
目を開けると、いつもの教会の木のベンチ。
樫の木で出来た硬い感触にに身体を預けていた。
神への怒りと感謝、両方を感じるが、少なくとも親切であるのは間違いがない。
ここは教会で、祭事で使うであろう祭壇の前。
祭壇とは神との交信を目的に設置されている物。
神との相性がすこぶる良いと言うのであれば、私が祈れば神へと届くのではないだろうか。
私は、真摯に神へと祈り始めた。
神よ、神よ、聞こえているだろうか。
聞こえていたならば、この教会へ善良な人物を送り込んでくれ。
なにも目的が無く歩き始めるよりも、この人気も無く安全な教会内に人を呼び出して貰い、この世界の理解を深めることを優先するべきだ。
そしてその人物が善良であれば、記憶も言語も失った私を放っておきはしないはずである。
うまく運べば言語の習得に必須な教本も教師も手に入り、更に運が良ければ住処も見つかる可能性がある。
尚且つ、後ろ盾が有るのと無いのでは、これからの生活の安定性が大きく変わる。
記憶喪失で、いくら調べても過去の記録が存在しない私が、行政上でという意味でこの世界の人間になるには、身受け人は必須。
神が許可しているとはいえ、人の営みに関わることのない神の言うことは、こう言っては何だが戯言と変わらないのだから。
自分は神に選ばれたと吹聴して周ってしまえば、連れて行かれるのは保護先などでは無く、頭の病院に違いない。
神が応えてくれたのか、人の気配がして振り向くと一人の壮年の男性が立っていた。
この教会に人がいること自体に驚いたのか、足を踏み入れた所で様子を見ている。
「****。」
やはり何を言っているかは分からない。
だがこの場面で掛ける言葉は幾つかに絞られる。
そこで何をしている。
もしくは、何者だ、だろうか。
どちらにしても疑問文だろう。
もう何度か聞けば、疑問文に対応する単語や特徴を特定出来るのだろうが…。
そういえば、この男性には見覚えがあるな…。
そうだ、門の上で魔法を生成し放ったあの男性だ。
素晴らしい魔法使いであったと同時に、神の映像で翻訳されていた呼び名は、先生。
もしかしたら教育者の類なのかもしれない。
…なんと、傍に本を抱えているではないか!
本。
文字の塊のそれがあれば、少なくとも文字は認識出来る。
是非見せて頂きたい所であるが…。
私は日本語で先生に話しかける。
少なくとも言語としての形が整った発声であれば、異なる言語だとは理解してもらえると考えたからだ。
そして、彼の持つ本を指差し貸して欲しいと問うてみた。
彼は怪訝な顔をしていたが、何とか伝わった様で、本を差し出してくれた。
幸運な事にそれは教育書の類らしく、日本語で言う五十音に当たるであろう表が書いてあった。
ページをめくると、林檎だろう果物や人間であろう図の下に、この世界の文字が書かれている。
これらの発音が分かり対応させていければ、単語だけなら話せる様になるだろう。
私は図を指差し、日本語で林檎、と言った。
彼は意図を察してくれた様で、この世界の言葉で林檎、と返答してくれた。
なんて気が利く人なんだ。
この世界に来て初めてかもしれんな、感動だ。
それを二人で繰り返し、文字を少しずつ理解していく。
そうしてようやく、この素晴らしい知識人に自己紹介が可能となった。
…おっと。
頭を使ったからか、クラクラする。
やはり神が与えた力だからか、人には過剰らしい。
私がどれ程の知力かはまだ理解できていないが、この短時間で知恵熱が出そうな程の脳疲労を感じる。
やはり不便な能力な可能性はあるな。
しかし、私にはこの方に伝えなければならない事がある。
わた、し、は、ラルフ、ラルフィード、で、す。
わたしは、スタルビニアラルフィード・サシュマシャルルペペペぺ・チャチュムラッチャヌボンボです。
よろしく、しなさい。
辿々しいが、初めての挨拶だ。
馬鹿らしい程長い名前も、今の知能なら暗記できる。
敬語的な文法の理解が浅く、少し横柄になってしまったが察してくれると助かるな。
彼は驚いたのか顔をしている。
どうやら伝わってくれたようだ。
もしも伝わっていなければ、驚愕の表情はおかしい。
どこに驚いて居るのかは分からないが、それでも伝わった事実が嬉しい。
「**を***するか。」
ふむ、リスニングはまだまだだな。
少し頭を整理したなら理解も出来るだろうが…。
いや、彼は私を理解し合おうと接してくれた。
ならば私も彼を理解しようとするべきだ。
唸れ!私の頭脳!
「貴様、神を愚弄するのかと聞いておるのだ。」
…え?
分かり合えてなどいなかった。
とても残念な事だが、それは誤解だ。
言い訳をしたいが、今覚えたばかりの他言語。
言葉を紡ぐには不完全と言わざるを得ない。
「…この…悪魔め!
貴様!先程現れた巨人を召喚した者だな!
外の惨状も貴様の仕業だろう…。
私が神に遣わされてここへやってきた理由を計りかねていたが…今、理解した!
貴様を滅ぼすべしと、神が私を遣わせたのだとな!」
とんだ見当違いだ。
外の惨状は、大部分が貴方の敬愛する神の仕業だと言いたい。
もしや私の辿々しい言語に不備があり、彼を怒らせてしまったのであろうか。
怒りの表情と言うには生ぬるい程の憤怒を感じる。
そんな彼の周りの景色が歪むほどの何かが、彼の周りに溢れ始めた。
これは…魔法か。
アイシャから感じた魔力と同質な物だ。
ならば逃走するしか方法は無いな。
高い知能で避ける方法を考えるにも、その元になる情報が皆無と言って良い。
今は逃げ、覚えた言語で知識を仕入れ、後に誤解を解くしか道は無い。
私は教会の扉へと走り出した。
幸いにも力を得た時に壊したままなので、扉を開けるロスは無い。
間に合え!
間に…。
「あらら。」
あららじゃないのよ。
僕、また死んだじゃない。




