力こそパワー
…慣れたはずのこのベンチが小さく感じる。
いや、納得はいくよ。
力を、我に力をと願ったら、そりゃあ身体自体もデカくなるよね。
おぉ、すごい腹筋と二の腕だ。
服がちっちゃいのはすごく気になるけど、筋肉は最高のおしゃれっていうしね。
街に入れたら買い直せば良いだけ、気にしないよ。
…お金とかは持って…無いな。
まぁ、でもこれだけのマッチョメンなら、働き口はあるだろう。
工事現場とか。
文化的にあるのかは分からないけれど、力仕事はどこにでもいくらでもあるよね。
本当に何にも、一つも知らないんだなぁ、僕は。
この世界の事。
人生4周目なのに、こんなに世界を理解してないとかあり得るの?
さて、今度こそ街へ繰り出そう。
そう思って教会のドアを軽く押し開けようとした時、異変が起きた。
メシャ。
本当に軽く、普通に出ようと思って押したドアは彼方へすっ飛んで行き、ドア枠の上の部分は、僕の頭突きで粉々になってしまった。
…どっちに驚けば良いんだ…?
力が有り余るにも程があるのは、頼んだんだから仕方ない。
コントロールはこれから覚えたらいい。
身長…これってどんくらいあるんだ。
さっきまでは前世の身体のままか、それを模してくれていた感じだったので、170cmそこそこだったと思う。
その時はこんな風にドア枠の上を気にした事も無かった。
それでも頭をぶつけるなんて事は無かったから、上にもデカくなっているらしい。
とはいえ、教会のデカいドア枠に頭をぶつけるなんて…。
ちょっとデカいねぇで済む身長じゃ無いんじゃないだろうか。
違和感が凄いな。
だけど願った通りと言えばその通り。
まだ神様を疑うのは早いよね。
人差し指と親指で石を挟んだら砂に出来るほどの力なのは気になるけども。
デカくなろうが外の世界はいつも通り。
少し先の広い所の地面が陥没して、その辺りが赤黒くなっているのと、道に焦げ跡があって、木に肉片がこびりついているだけだ。
ここが地獄かな?
今更そんな事は気にしてられないのでズンズンと道を進む。
このズンズンは副詞のズンズンじゃなくて、足音のズンズンだ。
木が揺れ、小鳥が飛び立つのが見える。
ごめんよ朝早くから。
ゆっくりしていただろうに。
これじゃあ悲しきモンスターじゃないか。
でもまだ分からない。
この世界の平均身長も知らないんだから。
前世の170cmがめちゃくちゃ小さい可能性もまだ…無いけど、ドアの大きさ的に絶対ないけど、デカい人がいる世界かもしれないから。
丘と街を繋ぐ坂道を下り、いつも眠そうにしている門番さんのいる門が見えて来た。
そうか、ここに人が居ないのは、すぐ側にあるとはいえ、街の外だったのか。
そりゃあ早朝に来る人なんて居ないわ。
あれ、今回は眠そうにしてないな。
なんか…警戒してる?
何かがあったのかもしれない。
念の為、こっちは人ですよって教えるために声を掛けた方が良いかもしれない。
おーーーい!
おーーーい!
人間ですよ!
ラルフと申します!
なんかびっくりしてる。
そうだよね、夜明けすぐに外から人がやってくるなんて珍しいもんね。
…なんだ?
門の上の人が弓を構えているぞ?
もしかして!僕の後ろに魔物がいるのか!?
遠過ぎて聞き取れないけど、門番さんも何か叫んでる。
多分早く街に入れって言っているんだな?
危険が迫っている事を教えてくれるなんて良い人だ!
僕は門に向かって駆け出した。
おーい!
今から僕もこの世界の一員になるからね!
風を切る音がすごい。
筋肉がそれを可能にしているのか。
飛ぶように駆けられる!
僕は、風になった!
「…お帰りなさい、風。」
あ、ただいま、神様。
…んー?
流石におかしいよ。
今回は死ぬ要素なんてなかったよ。
もしかして後ろから追う魔物に追いつかれた?
「後ろから追う魔物…?
そんなものはいませんでしたよ。」
え、じゃあなんで門番さん達はあんな厳戒態勢だったの?
物々しかったよ。
これから争いが始まりますって顔をしてたもの。
「そんなラルフ君に今回神様、プレゼントがあります。
なんせ今世は7分も時間があったので、発明をしました。」
嫌味か。
京都かイギリスが出身地だったりします?
真っ白な空間にブォンと現れたのはモニター。
そのモニターから見慣れたコントローラーが直接飛び出ている。
「じゃーん!貴方が死んだ前後の映像が見られるのです。
そのコントローラーを使えば巻き戻しや一時停止まで出来ちゃう優れもの!
凄いでしょ?」
とんだスナッフフィルム上映機じゃない。
これから人が死ぬ所が流れるんでしょ?
異世界に転生して一番初めに見る魔法らしい魔法がキルカメラってどうなの。
ロマンなんて何も無い。
すっごい嫌。
「さ、確認してみてください。
リプレイ検証ってやつですよ!」
なんでちょっとハイになってんの。
スポーツのリプレイは見たくなるけど、自分の死因のリプレイは見たく無いんだけど。
でも知らないと、今後の力選びの参考にもならない無駄な周になってしまうからね。
見るよ、見るけどさ。
ボタンを押すと門番さんの驚く顔がアップになって写っていた。
右スティックでグリッと視点を回すと、遠くに米粒のような人影が、手を振るのが見える。
あれが僕か。
すぐに門番さんは仲間へと指示を出している様子だ。
…あれ、言葉が分からないぞ。
何語、これ。
「共通語ですね。
この世界では広く普及している言語です。」
え、知らないよ。
日本語じゃないの?
「なんで日本が無いのに日本語を喋っていると思っていたんですか?
文化も歴史も違うのにそんな訳ないでしょうに。」
たしかに。
じゃあ、門番さん達はなんで言ってるの?
「えー、ふむふむ。
化け物が走って来たぞ!
総員!警戒!
サシュマ様が来てくれる!
門番の意地で耐えてみせろ!
ですって。」
へぇ。
演技上手いね神様。
声優とか向いてんじゃない?
あれか、僕の後ろから追って来てる化け物ね。
サシュマ様ってのは偉い人なのかな?
コントローラーをグリッと回してもう一度自分がいる方へ向ける。
…うわ…!
さっきより距離が近づいた事で、自分の姿を初めて客観的に見る事が出来た。
でっっか!
ムッキムキ!
こっわ!
なんcmあんのさ!あの巨体!
「315cmですね。
最高の肉体という事だったので、最高と315を掛けてみました。」
人の身体で大喜利しないで。
今回の神の力
力
僕が最高の肉体を!と願った結果、神様がそれに掛けて315cmのマッスルボディを与えた。
それに前世、成人しているにも関わらずお酒を買う時に身分証の提示が必要だった程の僕の顔が載っている。
キショい。
神様は別にふざけて大きくした訳ではなく、筋肉の搭載量は身長に比例するので、最高、つまりこの世で1番の力を与えるためには必要な身長だった。
神様はこの身体に身体強化の魔法を重ねて使うだろう事を想像していたらしい。
危ない。
本人も、周りも危ない。




