神よ
「…私は神に会った。」
真剣に、そして静かに涙するサシュマさん。
は?と言う顔をされるかと思っていたけど、カルさんもサンドラちゃんもすぐに受け入れていた。
だって若返ってんだもん。
神の奇跡を体現しちゃってんだもん、そりゃ信じるって。
それでも何と言って良いか分からず、この場で困惑しているのは僕とカルさん。
なんで僕まで困惑しているかって?
そりゃあ、サンドラちゃんがさめざめと泣いてるからだよ。
「私…女の子に戻ってる…。
魔女の呪いなんてそうそう消える事は無いのに……。」
女だったんかい!って話よ。
神様に呪いが解けたってきいたけど、普通にひげが無くなるだけかと思っていたら、男の象徴も消えたらしい。
元の呪いがどういう流れで受けたのかは分からないけれど、ひげが生える呪いではなく、男にされる呪いだったようだ。
「えぇ?ラルフ、俺もなんか変わったか?
逆にそのままなの不安なんだけど。
角とか生えてる?」
カルさんは当然何も変わってない。
だって呪われていなければ天界にも行ってないんだから変わりようがない。
強いて言えば常識が壊れたぐらいだろうか。
僕がこの世界に来てまだ数日。
この世界に、というだけならまだ1日もいないのに滅茶苦茶じゃないか。
「ラルフよ、お前は神の遣いなのか?」
当然の質問でしょうね。
神様はそう自称しても構わないと言っていた。
古今東西、神の遣いを自称する輩なんて山程存在するから誰も気にしないと。
その中でも僕はぶっちぎりで本当に神の遣いと言える経歴をもっている。
だから。
「違うよ。
お父さんが神様と会えたのは、お父さんの、これまでが、認められただけ。」
誰が自称するか!
顔だけでも面倒な事になりかけてるのに、そんなもん自称したらこれからの人生がぶち壊れるわ。
サシュマさん、お父さんの人生が善性に溢れていたから起きた奇跡。
それで良いじゃないか。
「そう、か。
私は間違っていなかったのか。」
そうだよ、多分ね。
そうでもなきゃあの神様は天界に呼ばないし、挨拶なんてしないで放り出してるよ。
なんとなくそう思う。
「なるほどな。
ならばラルフは神の子という事か!
私が若返ったのは、お前を無事に育てる為!
そういう事か!」
え?
「我が身に起きた奇跡…!
神が私に言いたいのはそういう事だろう。
ラルフが神の遣いでなければ、もう!神の子!一択!」
えぇ?
「思えばお告げで悪魔を祓わせたのも神!
地上で学ばせようと泣く泣く降臨させた我が子が悪魔に囚われたのを解放せよと、そういう事だったのだ!
全て理解できた!
私は!ラルフのこの世の父として責任を果たしますぞ!
神よ!」
…違うよ。
あ、ダメだ。
キマりにキマりきってる。
目が。
狂信者の目だ。
見た事ないけど、多分これがそう。
神よ神よと叫び続ける我が新たなる父。
先行きが不安でしかない。
「ラルフちゃん、ありがと、呪いを解いてくれて。」
…サンドラちゃん。
なんか、普通に溌溂そうなお姉さんだね。
確かにこっちの方がしっくり来る。
けどね、今はそれどころじゃないの。
良いよね、サンドラちゃんは呪いが解けただけだから。
言い訳があるもの。
見てよあの狂信者。
若返っちゃってるもの。
不可逆である老化に、信仰で逆らっちゃったもの。
不可能を可能にするのが奇跡なんだもの!
「さあ、神の子様!いや、我が子になるのだ。
ラルフと呼んだ方がいいかな?
どちらがよろしいか。」
いや、ラルフ以外で呼ばないでよ?
外で神の子なんていったら絶交だからね!
広まったら絶対面倒な事になるんだから。
ねぇ、お父さん、奇跡起きたけど、大丈夫そ?
聖職者としても、人としても、学園長としても面倒な事が起きない?
「勿論大丈夫だ!神の意思をこの身に受けたなど、感無量、比類なく光栄な事だ!うはは!」
僕を掲げたまま、くるくる回るような浮かれた人の証言は当てにならない。
僕は唯一冷静っぽいカルさんに目配せをしたが逸らされてしまった。
俺を巻き込むな。
その目はそう言っていた。
役にたたねぇな!
代わりに問いかけてくれたのは少し落ち着いたサンドラちゃんだった。
「先生、聖人認定されちゃうんじゃない?
奇跡を起こした聖職者が聖人なんでしょ?
でもそれだとラルフちゃんの存在も表沙汰にしなければならなくなるわね。
先生はラルフちゃんが自分で立てるようになるまで、なるべく隠すって言っていたのに、すっごい目立っちゃうけど大丈夫なの?」
サンドラちゃん。
信じていたよサンドラちゃん。
自分の身の変化も大変なのに、気を遣えるなんて凄いや!
そうだよ、絶対起きる面倒事の内容を知りたかったんだ。
ありがとう。
「…大丈夫だとも。」
嘘だね。
頭の中が信仰で汚染されてよく分からなくなっていたけど、今現実に帰って来てちょっと考えたでしょ。
どうしようかなって。
「うむ、うむ。
まずは時間を稼ぐ。
信じてもらえるかは分からんが、家族と陛下には話をするとしてだ。
若返ってしまったのは良い。
神の思召しなのだから、是非も無い。
だが根回しに時間が居る。
なので私はサシュマの息子、ジェマという事にして動く。
私は65歳の爺さんだ、酸いも甘いも、多少の隠し事もあるだろう。
戦争も挟んでいるから生き別れという事にしても良いか。
実はな、ラルフを養子に迎える為の面倒な書類関係は、ある程度もう済ませているのだが、私の身を偽装するならついでにジェマの実子にしてしまおう。
幸い長く生きて、伝手もコネも権力もあるからな。
不可能ではない、問題なし!
心配するな。
しばらく表には出せないかもしれんが…我が家には家族もいるし、その内絶対に何とかしてやるから。」
犯罪っぽい事を2つ3つ挟んだ気もするけど、書類上はなんとかなるから、お前ら黙ってろって事か。
本当に知っておくべき人以外に伝えず、サシュマの息子として生きる。
若返った事を公表すると、何故、何が起きてそうなったとなる。
そんな中、神様激似の僕を養子にした事が分かると、アイツが原因ですやんとなるだろう。
不老、若返りなんて人類の永遠のテーマだ。
どんな手を使っても若返りたい有象無象に僕は狙われる事になっちゃう。
「改めて、これから、よろしくね、お父さん。」
選択肢は多くない。
だけどこの人の子供になるのに不安はないかな。
「うむ、お前が幸せになる事を願っている。」
はは、神様と同じこと言ってるよ。
「俺もたまに剣とか教えに来るからな。
あ、でもここにはルーベンスも居るのか…まぁ、遊びにくるよ。」
うん。
そうだったね、お父さんには同居してる弟子、家族が居るんだった。
その人たちと仲良く出来たら良いなぁ。
「私も遊びに来るからね。
そもそもララとは仲良くて、ちょくちょく来てたのよ。」
あ、だからここに居たんだね。
そうかぁ、これからもこの人たちとの縁は続くのか。
神様とはもう死ぬまで会えないかもしれないけど、僕は僕の新しい人生を生きていく事にしよう。
『貴方のことですから、どうせすぐに会えますよ。』
そんな空耳が聞こえた気がした。
やめてよ。




