天にまします我らが
魔力を…薄く…布の様に…。
これがまた難しいんだ。
基本的にはぼんやりとした球状の魔力の形を変えようとしても、あんな薄いヴェールの様にはならなかった。
いく頑張っても板みたいに固く分厚くなってしまう。
人体と相性が良く馴染むという聖属性魔法だとしても、大きな塊だと身体に入っていってはくれない様だ。
「焦らずともいい、ゆっくりとやってみなさい。
そもそも診察に限らず治療に関する魔法は全般、人体への知識も作用するのだ。
身体の何処に何があり、それがどう働いて人が生きているのか。
それを知ると診察の精度も上がれば、治癒の深さも変わる。
まだ子供なのだから、難しくて当然。
これから頑張れば良いのだ。」
ほえー。
それは大きな勘違いをしていたなぁ。
魔法は、もっとなんでも出来る技術だと想像していたけれど、地球と一緒なのか。
自分が蓄えた知識を有効に利用するための道具なのか、魔法も科学と同じく。
知識ねぇ…。
人体の。
それは「俺」の専門だった。
まぁ、子供ばかりを診ていたが、プロだったんだ。
小児科は特に、幅広く診察が必要だからな。
皮膚に関しても詳しいぞ、そこそこな。
意識の変化が魔法に現れたのか、「僕」の使う魔法にも変化が現れた。
サシュマさんは薄い布、ヴェールの様に使っていた魔力。
しかしどうしても前世に引っ張られて、人の身体を調べるのと繋がらなかった。
粒の集まりを身体に通した方が、ぽい。
その方が見知った検査器具に近い感覚で使えるのが分かった瞬間、サンドラちゃんの状態が手に取るように理解出来始めた。
「ひげの傷、だけじゃない。
肩に…あざ?ぶつけた傷。
腕にも、ある?」
サシュマさんが言わなかった怪我はこれかもしれない。
左腕に集中しているので、多分訓練か何かで模造刀でも打ち込まれたのだろう。
「…おぉ、天!才!だ!」
…あざます。
両手を挙げて褒め称えるサシュマさん。
ちょっと恥ずかしいな…。
「凄いぞ!
カル!サンドラ!この子はこの歳で見事に診察を使いこなしたんだ!
なぁ!凄いなぁ。」
落ち着いている、大人らしい大人だと思っていたサシュマさんのテンション感に置いてかれているのは僕だけじゃない。
カルさんもサンドラちゃんも苦笑いだ。
そういえばカルさんが、サシュマさんを子供好きだって言っていたっけ。
子供が何かする度にこんな感じなのかな。
診察が使いこなせたなら、その異変のある部分の魔力を強化させて治癒へと繋げるそうで、試してみるとサンドラちゃんの首の傷、肩と腕のアザはすぐに消えた。
「大!天!才!だ!
この子は天に愛されちょる!
治癒も良しとなればいよいよ天賦がある。
素晴らしい才能だ、ラルフ。
では次だ。
この私の身体も見てみよ。
ジジイだから、きっとサンドラよりも難しいぞ?
出来るかな?」
僕はもう一度集中し直して、サシュマさんへと診察の魔法を掛ける。
さっき掴んだ感覚も再現性がありそうだ。
多分この、サシュマさんが天才と感じる成長性は神様の力だからだけではなく、僕の、いや、俺の前世の経験も活きているのかもしれない。
サシュマさんの身体。
外傷はなし。
虫歯が一本。
少し高めの血圧は気になるが、治療が必要なほどでは無い。
しかし…これは…。
胃に明らかな病変がある。
詳しい病理検査は出来ないが、魔法の感知力は中々侮れない。
100%ではないが、かなりの確率で悪性だろう。
「最近、痩せたりとか、ある?」
「まぁ、食も細くなったしなぁ。」
あぁ…。
俺は子供を治す仕事をしていた。
多くは無いが、子供にも起きうる病だ。
手の施しようのない、ベッドに横たわるだけの子供のあの目。
生まれ変わっても忘れられない。
転生してすぐのこのタイミングで、親切にしてくれたお爺さんの身体でまた出会うとは。
呪いの様な物だと、そう感じた。
「傷とか、は、ないと思う。
でも、お腹がいたんでる。」
診察の魔法から、治癒魔法へと切り替える。
胃の病変へ当てるが、変化を感じない、
治癒ってなんだ?
何故聖属性の魔力を強く当てると人体が治る?
人の身に異常に馴染む聖属性魔法が、身体の部位を模して定着するのか?
仮にそうだとして。
そういえば。
俺はもう一つの聖属性魔法を見ている。
いや、この身にくらっている。
あの火の様な、雷の様なあれも聖属性魔法だったはずだ。
浄化の炎だっけか。
アレで僕は焼き尽くされた。
聖属性が人体を透過するなら。
焼き尽くす火が作れるなら。
傷を即座に治癒出来るのなら。
治癒が、周囲の細胞を模して傷をなくす魔法なのであれば。
もしかして…。
「おとうさん、僕に治療をさせてほしい。」
治せるかもしれない。
隅々まで調べられる魔法と、体内のみを狙い撃てる火、すぐに治癒可能な魔法が組み合わされば。
「…お父さん…!
そう、呼んでくれるのか…!」
あっ、そっちに反応しちゃった?
しまったなぁ、医者のテンションになってた。
手術前、親身に接する為に患者さんをお父さんと呼ぶ系医師だった癖が…!
ヤバい!召される!
目の奥が光り始めてしまっている!
ジジイには刺激が強かったんだ!
天使としての任務、サシュマの心を救えの完了リザルトが近づいている!
あぁ!もう!仕方ない。
失敗したならしたで、リカバリー可能な能力を次に貰えば良いだけだ。
治す。
このギリギリのタイミングだけれど、俺が、治す。
命を燃やすつもりで魔法を使ってやる。
胃の中で魔力を燃やせ。
燃やすやり方は見ている。
燃やし尽くしたらすぐに癒せ!
ピンポイントで狙う技術なんて無いんだから、全てを癒すつもりで魔力を振り絞れ。
どうせもう必要がないんだから。
この後召されるからなぁ!
あっはっは!
…………
………………
………………………
「神の遣いラルフ。
天使としての役目、お疲れ様でした。」
うん。
サシュマさんは大丈夫かな。
「私は大丈夫だ、ラルフ。
自身の胃の不調は知っていたが、あんな治療方法があるとはな。
乱暴と言えば乱暴だが、素晴らしい。
…所でそちらの方は…。」
……………………………………?
なーんで天界にサシュマさんが居るの!?
「さぁ。
貴方の魔力を大量に受けながら、貴方が召されたからじゃないですか?」
んな無責任な…。
「ラルフや、もしやこの方は。」
「こんにちは我が子よ。
私は神、ラルフィード。」
後光バリバリの神様が挨拶をした瞬間、サシュマさんは気絶した。
ただでさえ天使が役目を果たせるぐらいの感情の動きがあった直後なのに、信仰している神様とあったからキャパオーバーだったんだろう。
僕の新しいお父さんは、マイケルジャクソンのライブで失神するギャルみたいな倒れ方をした。
あのさ、気のせいかもしれないけどさ、サシュマさん若返ってない?
ここがデパートの1階ぐらい白くて明るいから美肌効果があるだけ?
「若返ってますよ。
聖属性魔法というのは、活性化の魔法です。
多量に浴びれば若返りもしますよ。
神の力でもなければこんなに大きな変化はありませんが。
まぁ、一時的な効果ですがね。
普通なら。」
やっぱり。
65歳ぐらいの見た目だったのに、今は40手間ぐらいに見える。
凄いね魔法って。
戻るなら気にしないでいいか。
若くなっている内に脂っこい肉とか食べたらいいさ。
ん…普通なら?
「起きる頃には戻っているでしょう、と言いたい所なんですがねぇ…。
天界はこの世の基準になるので、ここから帰ってしまうと若いままかもしれませんねぇ。
あはは。
さ、早く次の力を選んで下さい。
とっとと生き返さないとまた変な事になりかねませんからね。」
確かに。
じゃないよ。
人が若返るって相当な奇跡だと思うんだけど。
「ちなみに余波でサンドラの呪いも解けたみたいですよ。」
あ、本当に呪われてたんだ。
あのおひげ。




