ぶらつく神の遣い
カルさんと連れ立って、サシュマさんの所へと向かう。
初めて足を踏み入れた異世界の感想は、異世界なんだなぁ、である。
いや、アホみたいだけど、そうとしか言いようがないんだって。
建物だけで言っても、地球じゃなかなか見ない長細く塔の様な住宅が多い。
『ラルフのいた地球では魔法が無かったですが、ここは魔法の世界ですので。』
こういう時こそ鑑定だ!と使用してみたはいいものの、ちょっと鑑定の機能に深刻なバグが生じて説明不足だ。
魔法の世界だと、建物が伸びる…?
因果関係が分からない。
自力で考えようと、キョロキョロ建物を見ている僕を見て、こちらをよそ者の世間知らずだときっちり理解しているカルさんが解決の糸口をくれた。
「高い建物が珍しいのか?
ここは王都だから人が多いだろ?
だから土地代、えーと、分かるかな、地面のここからここまでって範囲を買ったら家を建てられるんだけど…。
……子供に説明すんのって難しいな。
とにかく、ほら、建物はどこも土魔法で建てるだろ?
だから広くしても高くしても対して値段は変わらねぇんだけど、建てる場所が足りないから上に伸ばしてんだ。
分かるか?」
おぉ、繋がった。
なるほどなぁ。
確かに魔法で土の壁やら何やらが出せるなら、それで建築した方が楽だろうね。
水やら火も魔法で出せちゃうから、配管やらや何やらの整備も必要ないならなおの事。
建物自体は魔法使いを雇う値段だけで、材料なんて要らないから安価。
だけど、都会で人口密度が高いから、限りのある土地が高価になっていると。
「分かる。」
「マジで?分かった?
お前は賢いんだなぁ。」
いや、カルさんこそ神様の100倍は分かりやすかったよ。
今まで力を貰い続けているから、あんまり文句は言いたくないけれども。
『え、分かりにくかったですか?』
うん。
神様は神様過ぎて頭が良いのかもしれないけど、僕でも分かる様にしてくれないと。
この世界の知識は本当に赤子と変わらないんだから。
もしかしたらここまでの神様の力の暴走というか、扱いにくさは、神様がこの世界の30歳前後の知識を持つ人に与えていたなら上手に使えていたのかもしれないなぁ。
僕のいた世界との違いがあり過ぎて、神様的に、そうはせんやろって事を僕がやっているのかも。
好意的に受け取るならだけど。
『善処します。』
それは覚えてたらそうするけどあんまり期待すんなよっていう意味だよね?
「なぁ、もうすぐ着くぜ。
…あんまりお前とか呼ぶのは気が引けるからよ、早く保護されて名前貰えるといいな。」
…あー、名前ない事にしてたんだっけ。
どうしよう、普通に伝えちゃっていいのかな?
また命名の悲劇起こってほしくないんだけど。
『思い出した事にしたらいいんじゃないですか?』
まぁ良いか。
言語が不自由な子供の言う事をそんなに気にしないだろうし。
「カルさん、ぼく、ラルフ。」
「ん?名前か?
おぉ、そうか、ラルフ、ラルフな。
おぉ、なんだよ、思い出したのか?
それとも自分でつけたのか?
どちらにせよ良い名前だ、よろしくな、ラルフ。」
カルさんは少し驚くもすぐに受け入れてくれた。
この世界の文化レベルをまだ測りかねているけど、存在するのかも分からない戸籍云々は、これから保護されて社会に受け入れて貰ってからの話だから気にしないで良いか。
「見えるか?あれがサシュマ様の屋敷だ。
デケェよなぁ。」
カルさんの目線の先にはこの世界には珍しく大きな平屋の建物と、広場の様な広い庭、そして庭の中央に鎮座する黒い石碑があった。
『ここは昔は戦地ど真ん中でしてね、サシュマはその戦争の慰撫をしながら暮らすと、わざわざ戦争の褒賞にこの血生臭い土地を選んだそうです。』
聖人の所業じゃん。
じゃあ超事故物件って事?
いや、ちゃんと心を込めて供養されているならそんな、幽霊とかは出ないか。
今だってほら、石碑には女の子が祈りを捧げている。
…なんだ?あの石碑…少し変な感じが…。
鑑定してみようかな。
『あっ、ダメです!』
なにが?
あっ…。
………
………………
……………………
「ダメって言いましたよ、私は。」
何がって言いましたよ、僕も。
…っていうか、そうか、また死んだのか。
見覚えのありまくる白い空間だ。
「何を考えているんですか、あんなものを鑑定するなんて。」
へ?石碑が少し嫌な感じがしたから鑑定したんだけど、不味かった?
「石碑?あぁ、あれも良くはありませんがらそっちは何の問題もありませんよ。
あ、聞いておきます?石碑の説明。
えー、黒い黒曜石で出来た戦争の慰霊碑、刻まれた文字は戦死者とその家族の悲しみを遺している。
とまぁ、ただの慰霊碑ですね。
霊魂がこびりついた油汚れの様にしつこく残っていますが。」
あ、そう。
慰霊碑。
嫌な感じがしたのは霊魂だかなんだかのせいかな。
「予感が何に働いたのかは分かりませんが、私に言わせれば本当にヤバかったのは横にいた女です。
あの子は神の一種ですね。
半端に人に未練のある神。
神を人の身で見つめたら死ぬに決まってるでは無いですか。」
そうなの?
神様とは普通に話せているじゃんか。
姿も見えるし。
今日もイケメンですね。
「えぇ、どうも。
あのね、私は別なんですよ。
ほら、前に言ったでしょう?
私と貴方は途轍もなく相性がいいと。
普通は神を見たら目が潰れて死にますよ。
そういうものです。
理、ルール、雨が降ったら地面が濡れる様に、そういう摂理なんです。
ま、もう心配は要らないでしょうが。」
ルールね…なら覚えておくよ。
なんで心配は無いの?めちゃくちゃ怖いんだけど。
恐らく僕はあそこに住む事になるし、見たら死ぬ存在がウロウロしているのは怖すぎるんですけど。
怪談にしても難易度高いって。
見たら死ぬ絵を玄関に飾ってる様なもんじゃん。
「普通神なんか見えません。
今回は私と貴方の目を繋げていたから起こった事故の様なものです。
だから気にしなくて良いのでは。
あ、早く生き返らないと不味いですよ。
人が集まって来てます。」
そう言われてキルカメラを見ると、僕を抱えるカルさんと、その騒ぎを聞きつけて屋敷から飛び出てきたサシュマさん、そして知らない女の人が僕を囲んでいる。
おいおい、このままだとトラウマをもう一つ増やすだけじゃないの?
「その通りです。
とっとと力を選んで生き返って下さい。」
いやいや、急いでるから力は要らないよ。
どうせサシュマさんの心の負担を減らしたらまた勝手に死ぬんだし。
「ダメです。
絶対に力は選んで下さい。」
えぇ!?なんでさ。
えー、えー、じゃあ、えー、回復魔法的なやつ!
「聖属性魔法ですね、分かりました。
じゃあそのまま身体に戻しますね、では、幸多からんことを〜。」
バタつくくらいなら力は保留にしてくれたらいいのに…。
じゃあ、行って来ます。




