まごうことなき神の遣い
今回は教会からスタートだ。
もしかしたら神様の気遣いで、発生の瞬間なんて生物として一番逸脱したところを見せない様にしてくれているのかもしれない。
生えて来てるとしたら気持ち悪すぎるし、パッと光って出て来たなら神々しさが過ぎる。
どちらにせよ人にあらぬ誤解を招くだろうからね。
今回、目的ははっきりと決まっている。
サシュマさんを慰める事だ。
それに対する効果的な力は思いつかなかったけれど、初めて異世界の街へ行くという事で、待望の異世界サービスパックの一つである、アレを貰うことにした。
目で見た物の正体を詳しく知ることの出来る能力。
つまりは鑑定だ!
やっと異世界らしい能力を貰ったよ。
早速使ってみようかな。
いつものベンチなんてちょうど良さそうだ。
はっ!鑑定!
おぉ…ベンチに半透明に重なる様に文字が。
めちゃくちゃ転生感あるわ。
なになに?
『えー、それは、うん、樫の木で出来た硬いベンチですね。あー、えー、丈夫そうだし、長持ちしそうですね。』
…なんか、違う。
なんか、思ってた鑑定と違った。
っていうか、鑑定さん。
貴方…神様ですよね。
なにやってんすか。
『え?いや、鑑定ってなんなんですか?
どこから情報を引っ張り出すんでしょうか。
神様さっぱり分かりませんでした。
貴方の頭を読んだ結果、鑑定とはその世界の制作者が、その物や者に込めた思いを読み取る力、と認識は出来たのですが…。
全てのものを解説する文章を考える暇も手間も非常に馬鹿らしいので、知りたいものを私が直接教えてあげることにしたんですよ。』
確かに、この世界の制作者からのメッセージだから、なにも間違えちゃいないかもしれない。
でもこれは多分鑑定じゃなくって、教えて神様だ。
ゴッド知恵袋だ。
しかも神様、アドリブに強くないみたいで、ベンチの解説はグッダグダだったよ。
鑑定のテキストが下手すぎる。
口語をそのまま文字にしているせいで、目が滑って読みにくい。
そんなんじゃ読者は着いてこないよ。
それならもう喋ってよ。
お告げとかあるなら出来るんでしょ。
『そうします。
それにしても酷いこと言いますね。
我、神ぞ。』
はいはい。
声が聞けるこの方がしっくり来るよ。
慣れてるもの。
さてさて、さっさと街へ行こう。
モタモタしてたら死にかねないからね、僕なんて特に。
『あはは。』
笑うな!
坂道を下り、門への道を歩く。
僕以外の人の足跡が少ない道だったんだけど、なんか荒れてるなぁ。
『言ったでしょう。
ラルフは捜索されたんですよ。
門兵と兵士、サシュマの弟子と生徒の有志が失踪少年の捜索ボランティアに参加したんです。
荒れもしますよ。』
おぉ…そんなに大人数が。
そういえば教会前の地獄絵図も綺麗にされてた。
あれも掃除してくれたってことか。
大迷惑掛けてるじゃないか。
『あんまり人に迷惑かけちゃダメですよ。』
…色々言いたいことはあるけど、僕も飲み込むからさ、神様も鑑定発動するまでちょっと静かにしてて。
街へ入る門には人が並んでいて、列は住人、商人、観光や住人の客の列、のように滞在理由別に分かれている。
暇そうな門兵しか見ていなかったけど、平時は出入りする人で忙しそうだ。
僕は…客の列だね。
サシュマさんを訪ねて来たって言えば入れるだろうか。
身分証もなにも持ってないんだけれど。
列に並ぶ僕をチラチラと見る大人が殆どで、中には話しかけて来て飴ちゃんをくれる人までいた。
手の大きさ的に7歳か8歳あたりの小さい少年が一人でここに並んでいるのは相当目立つのだろう。
なんか恥ずかしい。
『列に並ぶ中に、神職者が居ますね。
貴方を見て顎が外れそうなほど驚いてましたよ。』
神様そっくりなんだっけ、僕の見た目。
それにしてもなんでそんな容姿にしたのさ。
名前ですらダメだったんだから、見た目が似てたらもっとヤバそうだって想像つくでしょ。
『参考となる人間が自分しか居なくって。
想像で作ったらなんか…気持ち悪くなっちゃったんですよねぇ。
人らしくないというか。』
不気味の谷ってやつだね。
じゃあ良かったよ、谷に落ちた容姿に産まれなくて。
神様に似てるってことはカッコいいんでしょ。
『あら、私はカッコいいですか?照れますねぇ。
あ、来ましたね。輩が。』
僕が並んでいるのを特に見ていた、輩と呼ぶには身なりの良いおじさん。
もうあだ名がおじ様なんじゃないかというカイゼル髭と優しそうな顔で話しかけて来た。
「ボク?一人でこんな所でどうしたんだい?
私はソーハン。
教会に知り合いもいるからそこまで送ってあげよう。
危ないからね。」
はいはい。
鑑定鑑定。
『えー、名前はトナムですね。
奴隷商人ですが、モグリの非合法。
つまり犯罪者です。
話しかけて来た目的は、と。
確かに教会に知り合いは居るみたいですが、そっちも悪徳神父。
二人で共謀してラルフの、私似の優れた容姿を利用出来る輩に高額で売りつけるつもりの様です。
あはは、サシュマの言う通りになりましたね。
門に並んでほんの数分で。』
うわぁ。
犯罪者!犯罪者がいます!
…どうしようかな。
結局戦う力なんて貰ってないんだよね。
しかも身体はきっちりお子ちゃま状態。
ま、攫われそうになったら死ねばいいか。
別のところで生き返るだけだし。
『だからね、命を軽く考えないでください。
いざとなったらそうするしかないかもしれませんが。
でも、今回は大丈夫ですよ。』
「おい。」
なにやら話し続ける人攫いの言葉を遮る様に、声が掛かる。
声の主に不満げに振り向いた人攫いは顔を青くして、そそくさと人混みの中へと消えていった。
その人は門兵へハンドサインを送り、人攫いを追わせながらこちらへ歩いて来た。
堂々と職務を遂行するその姿は、隊長という肩書きに相応しく映った。
カルさんは不躾に僕の頭に手を置いて髪をぐしゃぐしゃに撫でる。
「お前な、無事ならとっとと会いに来いってんだよ。」
感動の再会ってやつだ。
僕からしたら直ぐの感覚だけど、爆発したあの日から7日は経っているからね。
こんなに喜んでくれるのは、僕も嬉しいよ。
「どこに居たんだ?お前。
怪我とかしてないか?
腹減ってんじゃないのか?
結構探したんだぞ、俺ら。」
天界に居たから見つかるはずは無いよ、と言いたいところだけど、そんなこと言ったら身体の心配より頭の心配が勝つだろう。
「おきたら、森にいた。
きのみとか、虫とか食べてた。」
こう言うしか無い。
森への足跡もあったからそこも捜索されているんだろうけど、偶然会えなかったで納得出来そうな所が森しかないからね。
「すげぇな。
ガキの頃さ、俺も一人でやっていくんだっつって家出して森で野宿した事もあるけどよ、まぁ、1日で音をあげたわ。
空を見上げた星があんまりに綺麗でさ、逆に心細くなったのをよく覚えているよ。」
『嘘ですけどね。』
そうなんだけどね。
自慢する為じゃなくて、話を整える為の嘘だから多目に見てよ。
『カルロスも隠し事があるからお互い様ですよ。
なんで貴族のご子息様が故郷を離れて兵士なんてやっているのでしょうね。』
…神様、あんまり人の秘密を言いふらさない方が良いよ。
人としてどうかと思う。
あ、人では無いのか。
この人でなし!




