天使か勇者かはたまた聖人か
「お疲れ様でした。
意外にもあの二人に名無しと認知されただけで、命名の神威は驚く程下がりました。
サシュマの信仰心が高い事と徳の高さが影響しましたね。
なにより、二人の心に貴方の事がとても強く残ったので、それも良かった。
これで名前を変えられます。」
あぁ、うん。
「どうしました?
せっかく希望通りの名前をつけられるし、新しい姿にもなって心機一転、もう少し明るい気持ちになったらいかがです。」
あー、ごめんね。
結構落ち込んでてさ。
僕はこれまで何回も何回も死んできたから、自分の死を何とも思っていなかったんだけど…。
…要は傷つけたって事でしょ?
同情して優しくしてくれた二人の心を深く。
強く心に残るってそういう事だよね。
参ったな。
これまで僕の世界は一人で完結していたから、気にした事は無かったけれど、僕が死んで悲しむ人がいるのがこんなに心苦しい事だったなんて。
…「俺」が前世で死んだ時も、やっぱりそうだったんかな。
覚えてねぇから分からねーが。
「モニターで、二人の様子を見てみますか?
意外と立ち直っているかもしれませんよ。」
そうだね。
こっちが勝手に傷つけてしまったなって思い過ぎてるだけの可能性もあるもの。
えーと、カルさんは…ん?戦ってる?
戦闘中かと思ってびっくりしたけど、相手は吹っ飛んで倒れたカルを前に追撃をしない。
これは訓練なのか。
凄く激しくやるんだなぁ、この世界の訓練って。
向かいに立つお爺さんがカルさんのお師匠さんだろうか。
長い髪を括って、立ち姿が様になるというか、雰囲気が鋭い人。
この人自体が剣って感じだ。
「ほら、立ち上がりなさいカル。
寝ている暇はないでしょう。
未熟さを叩き直して欲しいって言って来たのは貴方ですよ。」
そうか、カルさんは僕の死の痛みを、鍛え直す為の燃料に変えて動き出しているのか。
そうだよね、いつまでも悼んでいられない。
人は感情が動いた分、自分も動かなければおかしくなってしまうもの。
カルさんにはいいお師匠さんがいるのなら心配なさそうだ。
良かった。
忘れてられても構わないから、カルさんには元気にやってて欲しいもんだよ。
さてさて、僕のもう一人の恩人、サシュマさんは…?
…うっ。
この人…こんなに痩けてたっけ。
威厳のあるお爺さんって感じだったのに…幽鬼か何かかと思わされる様な負のオーラを撒き散らしている。
それでも性格が変わっている訳ではないから、慕われているのは変わりなさそうだけど、同時に心配されまくっている。
「先生、しばらく休んだ方がいいですよ。
顔色が土気色を越えて、死体みたいですもん。」
この独特な心配をする女の人はララさんだな。
鳥を召喚していた、眼鏡をかけた優しそうな女の人だ。
「あぁ…。だが…動いていると気が紛れるのだ。
気にしないでくれ、時間が経てば整理が付く。」
…おぉ、目に見えて参っているなぁ。
死体慣れしている専門家の僕から言わせて貰うと、死にたての死体の方が顔色が良い。
どうもララさんの様子を見る感じ、弟子の人達には何があったか話したのかもしれない。
「サシュマとカルロスは洞窟内に貴方の死体が無かったことで、もしかしたら吹き飛ばされて生きているのではないかと思い、あの後弟子や同僚達と貴方の捜索を行いました。
しかし基本的に貴方の死体は私が回収していますので見つかりっこありません。」
はぁ。
神様が僕の死体を回収していたのか。
不思議だったんだよね、ぺしゃんこに潰れたとしても身体はあるだろうと思ってたのに、陥没した穴には血が入ってただけだから。
肉片とかは見つけたけど、細かいのは面倒で回収していないんだろうなぁ。
この神様、結構そういうところあるから。
分かるよ、もう流石に。
人生6周分も一緒にいるんだから。
時間としてはたいした事ないけど、こういうとめちゃくちゃ長く一緒にいる感じになるな。
「なので、一縷の希望を信じて今でもサシュマは散歩と称して教会近くの捜索を一人続けています。
こんな事は言いたくありませんが、こんな雰囲気の人間が夜な夜な森を徘徊しているので、心霊現象の目撃談が続々と寄せられているとか。
あはは。」
いやぁ、笑い事じゃないでしょ。
あんなに威厳に溢れた優しいお爺さんがやつれて心配されてさ、幽霊扱いされるなんて可哀想にも程があるって。
「そうですね。
流石の私も同情します。
貴方に与えた不幸の力は、特に周りを不幸にする訳では無かったのですが、善良な人々は他人の不幸でも心を痛めてしまうものなんですねぇ。」
ねぇ、じゃないよ。
アンタも少しは心を痛めなさいよ。
いやぁ、サシュマさんは僕に対して、誤解と無駄な深読みと斜め上の発想を駆使して、器用に同情を深めてはいたけど、それも全て、サシュマさんがただ優しかったからってだけ。
そんな人が弱っていく様を傍観しているのはちょっとね。
色々考えて、何日か天界に留まってしまったけれど、今回僕はサシュマさんの心の負担を軽くする為に転生するよ。
「そうですね。
善良な民の心の救いは神の職務です。
しかし私は様々な影響が大きいので直接は何も出来ません。
しかし、貴方を遣わせて間接的になら救える。
ラルフ、これは私からのお願いにもなります。
善良な私の世界の住人サシュマの心を救って下さい。」
珍しく神様が真面目にそう言うと、僕の身体が輝き出した。
いつもの転生とは違う様子の光。
「あ。」
あ?
あって…それはダメだよ神様。
歯医者と神の、あ、は許されません。
不安でたまらなくなっちゃう。
…僕に何が起きたの?
「あぁ、魂に名を与え、役割を与える。
それがつまりどう言うことか分かりますか?」
分かんない。
分かんないけど、そう言う場面って大体…相手が天使か勇者かはたまた聖人か…。
「ははは。
自称しても良いですよ。
自称じゃないですね、本当なんですから。」
あはは。
確かに。
ふっざけんなよ!
普通に生きていこうと思うって言ってるだろ!
「ちなみに、ですが天使というものは、役割を終えると天界に帰っちゃうんですよねぇ。」
じゃあ何?
任務達成!即!死!ってこと?
「ええ、まぁ。」
萎えるわぁ。




