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転々転生  作者: まつり
転生しました。

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13/20

幸せでない状況が続くこと

「虫唾が走る!」


急な大声にびっくりして、ビクッとしてしまった。

いつもと違う所での転生と、泣きじゃくるお爺さんのコンボに気後れして起きるタイミングを失って居ただけなのだ。


「おお、気が付いたか。

大丈夫だぞ、ここには君を傷付けるものは居ないのだから。」


ついさっき鬼の様な憤怒の形相を見ているから、優しい言葉で優しい顔をしているサシュマさんに違和感が凄いけど、こっちが本来のサシュマさんなんだろうなぁ。


「坊主、分かるか?

どうしてここに居るのか、覚えているか?」


覚えているも何も、ここで生まれ死んでしかいないから、ここ以外を知らないのよ。


「カルよ、不躾にそんな事を聞くな。

…さっき推察したであろう、この子の凄惨な過去を。

本当に虫唾が走る思いだが…二度と思い出す必要は無いのだから。」


おぉ、気を遣わせて申し訳ない。

全部理解しているんだけど、二人の認識との差がありすぎてなんて言っていいか分からないんだよ。


ん?

あれ?


うわぁあぁ!

めちゃくちゃ小さくなってる!

神様は少し若くするってだけ言ってたのに、7、8歳くらいになってる!


何これ!

任せるんじゃ無かった!

せめて高校生、いや、中学生くらいに留めるように釘を刺しておくべきだった!


自分の手を見て大きく動揺する僕を見て、二人は悲しい顔をしている。


違うよ?

悪魔とか関係ないからね?

どちらかというとそちらの敬愛する神様の仕業だから。


あ、介抱してくれていたんだから、お礼を言わないとね。

そういう所が大切なんだ人間関係は。

初対面だしね。


「あの、ありがと、たすけて、くれた。」


しかし僕の言語能力は知能ドーピングである程度の単語をぶち込んだとはいえ、こんなもん。

もう少しだけ馴染めばスムーズに話せるかもしれないけど、今はこれが精一杯だ。


「先生、この子…言葉が。」


「あぁ、もしかしたら、閉じ込められている中で人と話す機会が少なかったのかもしれない。


あぁ…。

だから悪魔憑きの間も言語の習得を試みていたのか…。」


すぐ悲劇にする!

状況証拠は悲劇だけど、僕に起きてるのは喜劇なのに…。

でもこれは幼くなって結果オーライだ。

7、8歳の見た目で言葉が辿々しいのはギリ許せるもの。


もしかしてこれが不幸の力なのか?

僕に不幸が起きる訳じゃなくて、状況が不幸になるのか?

あまりにふわっとした力だからどう作用しているのかさっぱり分からない。


あの神様の力で推測も出来ないのめちゃくちゃ怖いんだけど。


「私はサシュマという。

こっちの兵士はカルだ。

自分の名前は言えるかな?」


サシュマさんが優しくゆっくりと問いかけてくれる。

反射的にラルフと名乗りそうになったが、今回名無しとして過ごさなければならないのを思い出した。


「…ない。名前、ない。」


あぁ、悲劇が増えていく。

この人達の中では、今の僕は悪魔の儀式の生贄用に閉じ込められ、今回使われ、名前もないまま捨てられたあまりにも可哀想な少年だ。


さすがのカルさんもうっすら涙目になっている。


二人はアイコンタクトを取って何かを確認した様だ。

僕の処遇の話をしたいが、その事を聞かせたくないらしい。

人に気を遣える優しさを持っている人達だなぁ。


カルさんは口実を考えついた様で、教会から出て右手の奥にある崖を指差した。


「…おお、坊主、随分汚れてんな。

そこらに血や死肉が沢山落ちて居たのが倒れた時に付いてちまったか。


あそこ、分かるか?

洞窟の入り口があるだろう?

あの中には水が湧いててな、神聖な泉なんだ。

パッと流してこいよ。

きっと気持ちがいいぞ。」


「あぁ、聖なる力があるから長く浸かってはいけないが、死肉が付いているよりはマシだろう。

病を運ぶ恐れもあるから、落としておいで。」


この場から少し離す為の方便での提案だとしても、確かに砂とか血とか色々付いている。

サシュマさんのいう通り、病気になりそうで気持ち悪いので早く洗い流したいのは確かだ。


僕は頷き、指差した方向に慣れない小さな身体で歩き出すと、カルさんが追いかけて来た。


「やべやべ、魔法使えねぇんだもんな。

これ持ってけ、火を点けてやるから。」


カルさんは腰のランタンを取り外し、指から放った小さな火を移してから渡してくれた。


「暗いから気をつけてな。」


助かるよ。

ありがとう。

二人と接していると、この世界への希望が湧くね。

こんな人達ばかりなら、ここはいい世界だ。



とてとてと小さな身体で歩いていく少年の後ろ姿を見送る。

私はあの子に幸せになって欲しいと思った。

これまで人の一生分程の不幸をあの小さな身に背負って生きて来たのだ。

これからは幸せな事しか起こらなくては、バランスが取れないでは無いか。


「先生、あの子、兵舎で預かりますよ。

俺が兄貴みたいになって、剣とか教えてあげます。」


カルも同感らしく、そう提案してくれる。

兵舎には殉職した兵士の子や戦争孤児を預かって剣と勉強を教えている施設がある。


そこに預けるのは確かにいい考えだろう。

だがあの子の背負う不幸はもう一つある。

その為に、素直にそれが良いとは言えない面があるのだ。


「あの子は私が引き取ろう。

なんなら養子として引き取らねばとも思う。」


入れ込みすぎじゃないですかとカルは言う。

確かにそれもあるが、それだけでは無いのだ。

そうしなければいけない理由がある。


「お前のの考えはとても良いと思う。

私の学校にも寮があるから、そこへ預けて学んでもらうのも良かろう。


しかし、あの子はそう出来ない理由があるのだ。」


容姿。

美しい、銀髪に豊かなまつ毛。

整ったその顔貌はまさしく神の生まれ変わり。

その本来歓迎されるべき整った容姿が、これからのあの子の人生をより難しいものにしている。

いや、もしかしたら過去の凄惨な出来事もあの容姿が呼び込んだものなのかもしれない。


「神に似ているからなんだってんですか。

俺からみたら、将来イケメンになりそうだなってだけですよ。」


カルは不満そうだが、私には現実に起こるであろう懸念がある。


神職である私から見ると、あの姿は神そのもの、神の生まれ変わりだと信じる者が出るだろう。


そのぐらい似ている。


神の姿を持つ子を手中に収め、傀儡として信仰を集めるのは容易だ。

それを私利私欲の為に利用しようとするだろう輩も確実に存在する。


そうなれば、また悪魔憑きの儀式の生贄として捕らえられていたのと、大して変わらない人生を送らざる得ない可能性もある。

少なくない確率で。


そうはさせない。

させてたまるものか。


「そういう訳でな、立場と力があるものが後見人になる以外ないのだ。

今の所…それを出来るのは私しか…。


幸い実子もおらん身だし、遺産だなんだと揉める事もない。

この歳まで独り身でいた事に運命すら感じるな。

ははは。」


サシュマは笑っているが、カルは知っている。

彼が戦争で妻を失い、それから再婚を拒んでいることを。

その彼がそこまでの覚悟で引き取るのなら、それがあの子とサシュマ、二人にとって一番良いのではないかと思った。


そもそもこの爺さんは子供好きで有名だ。

なんの心配も無い。


「そうですね、事情も事情だし、それが良いかもしれないですね。

…俺もたまに剣を教えに行きますよ。」


「うむ。」


二人はあの子の未来を想像して、少しだけ心が晴れて笑い合った。

丁度、洞窟へ屈んで入っていく後ろ姿。

可愛らしいものだ。

きっと仲のいい親子になるだろう。

カルは口にはしなかったが、そう思った。


不幸とは、幸せでは無い状態である。


ドン!と音がする。


二人が見つめていた洞窟の入り口から爆風が吹き出す。

呆然とする二人の足元に、カランとカルのランタンの欠片が転がって来た。


不幸とは。

幸せでは無い状況が続く事である。

空腹や、乾き。

理不尽や不運。


それが続く事。


不運と言えば。

聖なる泉の特殊性は、薄い塩酸であった。

皮膚の表面をうっすらと溶かすが、人体に問題はない程度。

肌がツルツルになり美しくなると評判で、それも神の御加護のおかげだと、そう言われていた。


薄い塩酸に金属が落ちると、気体が発生する。

水素である。


普段金属を漬ける者などおらず、漬けたとしてもアクセサリーなどの小さいものなので大した量を発生させはしなかったが、偶然にもここ最近、大きな金属が入り込んだ。


教会のドアである。

彼がとんでもない力を得た時に壊したドア。

避難場所として使われる為、木製に見えるドアの内部には鉄板が打たれていた。


湧き出る塩酸と金属製のドアが反応した水素は、洞窟内に充満。

そこへ火種を持つ彼が入るとどうなるか。


カルとサシュマが彼を気遣い火を渡し、距離を取った。

善意と偶然、神の奇跡が絡み合い、不運にも爆発は起きた。


不幸とは、幸せでは無い状態が続く事。

例えば、罪悪感を背負い続ける事。


何故、どちらかだけでもついて行かなかったのか。

何故、悪魔の罠が水場である泉に残っている可能性を考えなかったのか。

何故、何故、何故……。


善良な二人は、たった今不幸になった。


今回の神の力


不幸


僕の名前を失う条件。

人の心に深く刻まれ、存在が曖昧なまま、尚且つ名前がないと認識されたままで居ることを達成する為に神様が選んだ能力。


巻き込まれた二人の脳内には僕のことは深く刻み込まれた。

それが彼の不幸に依る物だとしても。


しかし不幸とは、一人でなれるものではないのだ。



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