野球、政治、それと
なんで、サシュマさんは急にキレ散らかしたのだろうか。
いくら知能が高くなろうとも、他国どころか異世界の文化に無教養な僕は、どこがこの世界の人の逆鱗に触れるかなんて前提知識がなくて分からなかった。
気をつけなきゃとも思うけど、知らないと避けようがないよね。
やっぱり知能は、知識という剣を持ってやっと武器になるもんなんだなと実感したよ。
でも…今世は大成功と言っていい。
神様から貰った力自体は失っても体験や記憶を失う訳ではないから、高い知能で得た経験、言語の習得は大きく進んだ。
そして何より!
今回の滞在時間は遂に1時間の大台を突破しました。
ありがとう、ありがとう。
まぁ、とはいえ言葉はまだカタコトだし、セミとかカゲロウ以下のスパンで人生を繰り返しているのは変わらないんだけども。
そう考えると、何かを習得しなければいけない事が今後あった場合、それに大きく有利に働くであろう知能という力を選べなくなったのは痛い。
力を貰う時は大きい括り…例えば魔法、とかでは無くって、火属性魔法みたいに細かく刻んだ方が良いのかもしれない。
二度同じのは選べないらしいし。
なんでそんなルールがあるのかは分からないけど。
「いや、周回前提で考えないで下さいよ。」
確かに。
死に慣れすぎて、次の事とか考え始めていたよ。
本来なら本番一発勝負が人生だ。
それなら小分けして力を貰うとか考えない方がいいに決まってる。
ここに来て迷い始めたぞ、貰う力に。
そういえば、なんでサシュマさんはあんなにキレ散らかしたのか、神様分かる?
これを解決しないと、会う人会う人に怯えながら会話しなきゃいけなくなっちゃうんだけど。
ちょっと話して、とりあえず殺人光線撃ってみましたって世界ではないよね?
「さぁ…人の営みには疎い所がありますからねぇ。
タイミングとしては貴方が自己紹介をした瞬間、纏う空気が変わりましたね。
自己紹介としては間違ってない文章であったと思いましたが。
確かに発音は少しカタコトでしだが、それで人を殺すほど激昂するとは考え難いですよね。」
うん。
言葉が怪しいな、殺す!
そんな人に教育者やられたらマズいよ。
修羅の国まっしぐら。
でも僕は自己紹介ぐらいしかしてないんだよね。
その中に禁忌に触れる何かがあったって事は…。
あのさ、神様、本当にこの名前、一般的なの?
同じ名前の人、この世界にいる?
「ええ、前にも言った通り、花から取りましたからね。
しかしこの世界に同名さんはいない様です。
不思議ですね。」
…それは怪しいな。
その花ってどんな花?
「私への儀式や祭事で供えられる、真っ白な大きな花です。
貴方の記憶の中にあるものだど、百合が近いでしょうか。」
あかん。
多分それはダメな予感がビンビンする。
神聖な花ってやつなんじゃない?
しかもかなり大切にされて、深い意味なんかもあるような。
この世界が共通語っていう一つの言語で統一されているならば、宗教もそれに近くなっている可能性が高い。
言語と宗教は強く結びつきがちだからね。
…そうだ、意味。
もしかして、あの馬鹿みたいな寿限無ネームにも意味があるんじゃないかな。
僕が覚えた簡単な単語には出てこなかったけど、もしかしてありがたい言葉の羅列なんじゃない?
寿限無なんて正しくそういう話だったし。
主な部分はラルフィードって言ってたな。
じゃあ、スタルビニアってどういう意味なんだ?
教えて神様。
「スタルビニア、ですか?
そうどすね、あまり一般的に使われる事はありませんが、唯一なる偉大な、とかそういう意味ですかね。」
いや…それは。
一般的に使われないのは、神を形容する為の宗教上大切な言葉とかなんじゃないの?
意味的にもそんな気がする。
え、じゃあ、ラルフィードは?
「私の名前ですね。
そういえばそうでした。
あまり呼ぶ人がいないので忘れかけていましたよ、ははは。」
なんじゃそりゃ!
ふざけんな!何を転生者に自分の名前つけてんのさ!
えぇ!?
あまり呼ぶ人がいないって、口に出すにも憚られるほど神聖な単語ってことなんじゃないの?
そりゃあ怒り狂ってもおかしくないわ!
信心深そうなお爺ちゃんだったもの!
言語も怪しい、外は血や肉が飛び散っている破壊された教会で神を名乗る輩なんて悪魔かなんかだと思われても仕方ないじゃない!
あ、悪魔だと思われたのか。
攻撃理由に納得。
納得、じゃないよ!
ダメダメダメダメ!
そんな名前荷が重すぎるっていうか、やっていけないって。
事あるごとに、神の名を騙るイカれた奴って目で見られ続けるって事でしょ?
怖ぁ。
逆に今わかって良かったよ。
チェンジで。
この名前、せっかく貰ったけど…チェンジ!で!
「出来ませんよ、簡単には。」
は?なんでさ。
「神が命名したものを簡単に変更できると思わないで頂きたいですね。」
おぉう、急にめちゃくちゃ神じゃん。
いや、分かるよ。
神様がせっかく付けてくれたんだから、あんなイカれた寿限無ネームでも略せばいいかなって変えずにいたんだもの。
だけど、この世界の人達には大切な名前なんでしょ?
文化的にも宗教的にもさ。
神様が慕われてる証で、彼らと神様の絆みたいなものなんだから、ポッと出の僕が名乗るわけには、やっぱりいかないんじゃないかな。
「そう、ですね。
神様ったら、人と関わらなさ過ぎて考え足らずでした。
確かに貴方の言う通り、彼らとの絆…いい表現です。
ならば変えるのを許可しましょう。
しかし、簡単には変更が利かないのが神の決定です。
2回同じ力を与えられない事にも繋がるのですが、この世界において私が一度決めた事というのは、それ程重いのですよ。
覚悟はありますね?」
急に覚悟とか…。
怖いってば。
だけど…そうだね、この世界の人達が大切にしているものを汚す訳にはいかないから、リスクがあるとしても変えて欲しいかな。
「分かりました。
神が命名したものを捨てるというのは、本当に大変です。
人から昇華して信仰されて神に近い存在になるか、逆に大罪を犯して神からも見放されるか。」
難易度やっばぁ。
前者は無理じゃない?
神の名を背負いながら善行、しかも神と崇められる程の功と徳を積み重ねるのなんて、難易度インフェルノ過ぎる。
だって名前が不敬なんだもの。
この悪魔めパート2が始まるだけだよ。
…後者の大罪ってどれぐらいの罪?
万引きとかでいいなら涙を飲んで一回だけやる覚悟はあるけど…。
「後世に名を残せない程の大罪です。
世界の破壊とかになるんでしょうか。
普通なら神罰待ったなしですが、私の責任も少しあるので、今回は見逃しちゃいましょう。」
…重い…!
あ、そのレベル?
じゃあ無理だよ。
無理無理、見逃しちゃダメだよそんなの。
まさに悪魔そのものじゃない。
パート3の始まりだ。
「貴方は私と相性がいいですからね、ちょっとした罪じゃ見捨てられません。
こうして仲良くなったのもありますし。」
…神様!
僕をそんな風に…じゃないんだよ。
ちょっと嬉しかったけど、どっちも無理じゃない?
現状さぁ。
他には無いの?方法。
「世界に名前がないと刷り込む事ですね。
人に名前がないと認識させ、強く心に残れば名前の神威は下がる事でしょう。」
それなら可能なんじゃないかな。
元々この世界に生まれ落ちた人であれば、どうあれ繋がりがあるから難しいだろけど、幸いにも僕にはそれがない。
少人数に名前がない事を伝えて死ねば、その通りになれるんじゃない?
心にも残るでしょ。
人が死んでるんだから。
「そうですね。
ならば見た目も変えてしまった方が良いでしょうか。
前世の姿にこだわりはありますか?」
いや、ないよ。
この世界で生きやすい様に変えてくれた方が僕も助かる。
普通の見た目にしてくれればそれで良いよ。
「分かりました。
それではそれは私の方で、普通の人の身体を差し上げましょう。
歳格好も、現在の貴方と離してしまう為に、少しだけ若くしようかね。
貴方自身も前世の馴染みある姿より、新しい身体の方が違和感なく別人になれそうですし、命名の神威を下げるという今回の趣旨により合致しそうですしね。
難しいのは、名前がないまま記憶に刻み込むという所でしょうが、そこは私に考えがありますので、力は私に選ばせて下さい。」
お願いします。
色々考えてくれてありがとう。
じゃあ、そろそろ僕は行こうかな。
今回はすぐ死ぬ前提だから、また会えるね。
この転生する時の光にも慣れてきたなぁ、本当に。
あ、そうだ、聞き忘れてたよ。
今回の力って何?
人の心に刻み込むとか、あんまり想像がつかないや。
「今回の力は、不幸です。」
え、不穏!
早まったかも!
別の方法を探すべきだったかも!




