演出
_バカみたいにはしゃぎあう『僕達』には、みんなみんな『僕達』を照らす道具でしかない。
「見て、蝉だ!」
「暑いね。水飲みたーい」
「早く早く。警察に追いつかれちゃうよっ」
………だから。
君が足を止めたのも、僕には、何も、感じれなかった。
靴を脱ぎ捨てて、砂浜を走っていた。夏時の、海水浴日和なのに誰も居なかった。
初めて見る海に僕達は、息を呑んだ。
どこまでも青くて、どこまでも広い。水平線が僕達を飲み込もうと待っているようにも見えた。陽射しがにこの輪郭を白く溶かしていた。
遊び疲れるまでにこと笑いあった。楽しくて愉しくて_。
「樹くん」
そう言って、君は足を止めた。
両手にナイフを持って、ただ僕を見つめるにこが目に入った。
「何して_」
「樹くんが今までそばにいたからここまでこれたんだ。だから、もういいよ」
ナイフを首に当てた君を、僕は見ていることしかできなかった。
「死ぬのは私一人でいいよ」
君は、首を切った。
スローモーションで落ちていく君の血と、君の笑顔が映画のワンシーンのようだ。白昼夢を見ているようだった。
_『僕達』の見ていた世界は美化されていただけだった。
君が首を切った後、誰かの悲鳴が聞こえた。シャッター音が聞こえた。嗤い声が聞こえた。サイレン音が聞こえた。
「警察なんだけど、名前教えてくれるかな?」
吐き気がする。
目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目。
「…あああぁぁぁぁぁああああ!!!」
掻き分けた『目』の奥に君は居なかった。ただ、血の跡があっただけだった。
その時、音を立てて僕の『夏』は終わった。




