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逃げようよ

 「あ、充電切れた」

画面が真っ暗になって、自分の顔が写った。平凡な顔。特徴なんて一つもない顔だ。

「死んじゃったね」

にこが電柱から顔を出して言った。

「…だね」

 もうすぐ日が暮れそうだった。

僕は携帯ゲームから顔を上げた。ここは、結構栄えている村だと思う。田園の中に古びた家が沢山あって、近くには神社がある。

「ねえ、見て樹くん。お祭りだって」

にこが差した電柱のは赤色のポスターが貼られていた。

『夏祭り大会 本日開催 午後五時から』

そこには子供のイラストと黄色で『ようこそ』の文字が描かれていた。

「私、やりたいことがあるんだ」


 微かに太鼓の音が聞こえる。参道の石段では道に沿うように提灯がぶら下げられ、僕達を照らしていた。登りづらい石段を登り切ると、境内についた。境内は人で埋め尽くされ、楽しそうな声が響いていた。

「場違いだね、私達」

にこが言った言葉は僕には分からなかった。服装なのか、生きたい人たちに囲まれた死にたい人間だからなのか。

僕はにこに引かれるまま屋台を見て回った。リンゴ飴に射的、ヨーヨー釣りにかき氷。にこは一つ一つの光景を飲み込むように眺めていた。時折、足を止めて屋台で遊ぶ子供を見たり食べ物を作る動作を見ていた。

「何か欲しい?」

僕がそう聞くと、君は少しだけ首を傾げて考えるふりをした。

「ううん。見てるだけでいい」

「じゃあ、さ。花火見ない?」

「_ねえ、樹くん。このまま逃げちゃお」

君がそう言った瞬間、一発目の花火が夜空に咲いた。目をつぶってしまいそうな光ににこの横顔が一瞬だけ照らされる。

「もう怖いものなんてないでしょ?」

気づいたときには、君が僕の腕を掴んでいた。

「ちょ、ちょっと、どこ行くの!?」

「しー。早く、早く!」

にこは人混みを縫うように走り抜けた。でも、その姿が何処か楽しそうに見えて僕は足を止めることができなかった。

「ここだよ」

にこが足を止めた先にはクッキー缶があった。そこには数枚のお札と硬貨が入っていた。

「賽銭箱?」

「多分ね」

にこがそう言いながらクッキー缶に手を伸ばした。

その時だった。

「おい君たち!そこで何をしているんだ!」

振り返ると神主っぽい年配の男が怒鳴り声を上げていた。

「!」

「逃げよ、にこ!」

僕は構わずにこの手を取った。

「逃げるな!誰かアイツらを止めてくれ!」

 背後の声なんて気にしなかった。ただ走って、走って、いつの間にか声は聞こえなくなり、僕達の息遣いが静寂の中に溶けていく。

「なんか、楽しいね」

ふふっと笑いながらにこが草原に寝そべった。

「ねえ、にこ」

「ん?」

「_やっぱ、なんでもない」


 こんな日がずっと続けばいいのに。

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