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二人だけの旅

 君_雨宮にこ_はそう言うと俯いた。

「殺したのは隣の席の、いつも虐めてくる長谷川さん。…もう嫌になって、階段で肩を突き飛ばしたら打ち所が悪くて」

「………」

 にこを虐めている長谷川花波のことは中学では有名だった。隣のクラスだった僕も、彼女のことは知っていた。いつもにこのことを取り巻きと囲んで絡んできたり、機嫌が悪いと髪を引っ張ってた。でも、そんな長谷川のことを教師は見て見ぬふりをしていた。それはクラスメイトも、そして僕も_。

 「もうここには居られないと思うし、どっか遠いとこで死んでくるよ」

その言葉が雨の中で小さくこだました。

にこはふっと息をつくと何も言わずに目を閉じた。濡れた髪から落ちた雫が、彼女の顔の輪郭を伝って下に落ちた。

「ばいばい」

静かな声だった。背を向けて彼女は歩き出した。


 「それじゃ僕も連れてって」


彼女の細い腕を掴んだ。

口から出た声はあっさりした声だった。

「え」

足を止めた彼女が驚いた顔で振り返った。

「僕もこんな世界から逃げたいんだ」

にこの目に小さな光が戻ってきたように見えた。

 にこを家に入れて、僕は自分の部屋に飛び込んだ。

ハンガーラックに掛けてあったカバンを無造作に開け、財布と携帯ゲームを詰め込む。

「こんなものもういらないか」

小さな本棚にあった日記と勉強机に置いた中学の中学式の写真をゴミ箱に投げ込む。写真立てが割れる音がしたけど、今となっちゃどうでもいい。思い出なんて、もういらない。

最後にキッチンで折りたたみ式のナイフを取って、カバンに入れた。

「にこ、行こう」

ドライヤーで乾かした髪を弄っていたにこが「うん」と頷いた。

 外に出ると雨はさっきよりも酷くなっていた。二人で一つの傘を使って、最寄りの駅に歩いた。

「どこ行くの?」

「遠い遠い誰もいない場所」

にこが買ってきた切符を持って電車の端っこに並んで座った。周りには休日なのに仕事に行く会社員や家族旅行に行こうとする見知らなぬ家族。

「…みんな人殺しだ」

「?」

「だって、誰しも心のなかで人を殺してるから」

「なにそれ」

くすくすと笑う君が死にに行こうなんて見えなかった。

「だから、君は何も悪くないよ」

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