6話「パーティでの初依頼」
1日1〜2話を目標に執筆できればと考えています。
朝の光が窓を抜けて、カーテンの隙間から細く差し込んでいた。
まぶしさに目を細めながら、私は大きく伸びをする。
肩や腕のあたりがまだ重い。昨日の訓練の疲れが少し残っているみたいだ。
「おはようございます、リーネさん」
セリアの声がして振り向くと、彼女は既に身支度を整えていた。
薄い外套の裾を直し、魔導書を抱える姿がいつもよりきりっとしている。
「おはよう、セリアさん。昨日の疲れ、取れた?」
「ええ、だいぶ。……リーネさんは?」
「うん、腕はちょっと重いけど、まだまだ元気!」
軽く拳を握って笑うと、セリアは少しだけ呆れたように笑った。
(今日はパーティでの初依頼。いよいよ、私たち“リメナス”の一歩目だ)
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朝のギルドは活気に満ちていた。
冒険者たちが依頼板の前に集まり、声を交わし、紙を手にしては仲間と相談している。
「おはようございます! リーネちゃん、セリアちゃん!」
受付のミリアが明るい声で迎えてくれる。
「おはようございます、ミリアさん!」
「昨日は訓練所で頑張ってたって聞きましたよ〜」
「えっ!? 誰に聞いたんですか!?」
「ふふ、みんな見てますからね!」
和やかな空気の中、リーネが依頼掲示板の前で足を止めた。
「さて、今日はどれにしようか……」
木の板に貼られた紙には、“採取”“護衛”“運搬”の文字がずらりと並んでいる。
「また森で薬草採るのもいいけど……」
「うーん……今回は街の中でできる依頼にしませんか?」セリアが提案する。
「“運搬”なら危険も少ないですし、リーネさんの力も役立つと思います」
「なるほど、確かに力仕事は任せて!」
ミリアが頷きながら、一枚の紙を取り出した。
「これなんてどうです? “市内商人の荷運び補助”。報酬は銀貨一枚です」
「いいですね。初依頼としてちょうどいいと思います」セリアが微笑む。
「じゃあ、それに決めよう!」
リーネが依頼書を受け取ると、背後から低い声が響いた。
「……依頼書は紛失するな。終わったら、署名をもらって報告だ」
記録員ハルドがいつの間にか立っていた。
「は、はいっ!」
「“リメナス”初仕事、記録しておく。……気を抜くな」
そのぶっきらぼうな声に、二人は思わず笑いをこぼした。
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向かった先は、サーブル南区にある果物商の店。
通りは朝から活気に満ち、荷車や馬車が行き交っている。
「おお、ギルドから来たのか。助かるよ!」と商人が手を振った。
店先には木箱が山積みされ、リンゴやナシの香りが漂っている。
「この荷を北門近くの倉庫まで運んでほしい。荷車はそっちの使ってくれ」
指差されたのは、ギルド備品の小型荷車。
リーネが手をかけると、思った以上に重い。
「おおっと……けっこうずっしり!」
「私がバランス見ますね」セリアが前に回り込み、地図を開いた。
「道は真っ直ぐ北に。人通りが多いから、スピードより安定重視で行きましょう」
「了解! いざ、運搬開始〜!」
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朝から昼にかけて、二人は何度も往復した。
南区の果物商から北門の倉庫を往復するのに半刻の距離。
リーネが荷車を押し、セリアが後方で荷崩れを見守る。
「リーネさん、段差です!」
「了解っ、っとと……よし!」
「ふふっ、だいぶ慣れてきましたね」
「セリアさんのナビが完璧だからね!」
冗談を言い合いながらも、腕と背中に汗がにじむ。
往復三度目には、道行く子どもたちが「がんばれー!」と手を振ってくれた。
セリアが小さく笑い、リーネも嬉しそうに手を振り返す。
「ラスト一本、いきますよ!」
「任せて! 荷車がもう相棒に見えてきた!」
そんな言葉に商人が吹き出す。
「嬢ちゃんたち、働き者だなぁ! 助かったよ!」
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四往復を終えたころ、日が傾き始めていた。
「これで最後の荷ですね」
「うん……やりきった〜!」
リーネが伸びをすると、腕から汗が滴り落ちた。
商人はにこにこと頷き、依頼書を受け取ると、そこにサインを記した。
「よし、これで完了だ。あとはギルドで報酬を受け取ってくれ」
「ありがとうございます!」
「また頼むよ!」
「はいっ!」
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夕方手前。ギルドの扉を押すと、木の香りと夕陽の光が迎えてくれた。
「おかえりなさーい!」ミリアが笑顔を見せる。
「依頼完了です! ちゃんとサインももらいました!」
「確認しまーす……はい、完了です!」
彼女は銀貨一枚を差し出し、目を細めた。
「初仕事にしては上出来ですよ。もう立派なパーティですね!」
リーネは銀貨を見つめ、にっこり笑った。
「うん、これが“リメナス”の一歩目だね!」
セリアも頷き、「少しずつでも、前に進めてる気がします」と呟いた。
窓の外では、夕焼けが街を赤く染めていた。
今日も一日が終わり――けれど、彼女たちの冒険はまだ始まったばかりだ。
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ギルドを出て、夕方の風を感じながら並んで歩く。
太陽は傾き、石畳の道に長い影を落としていた。
「……まだ少し、時間ありますね」
セリアが空を見上げて言う。
「うん。せっかくだし、もう少し練習していかない?」
「訓練、ですか?」
「うん。昨日行った訓練所、もう少し練習しておきたくて」
「……なるほど。私も、魔法の制御を少し試したいと思っていました」
セリアの目が、ほんの少しだけ輝いた。
「じゃあ決まりだね!」
リーネが笑顔で拳を握る。
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訓練所に着くと、夕陽の光が土の広場を朱に染めていた。
木人が並び、あちこちで冒険者たちが武器を振るっている。
リーネは槌を構え、軽く肩を回した。
「よーし、昨日よりも上手く打てるように!」
彼女の掛け声が響き、再び金属音が空に散った。
地面に突き立つ釘が、淡く光を返す。
一方、少し離れた場所でセリアは魔導書を開き、静かに詠唱を始めていた。
「――闇よ、形をなし、我が影をなぞれ」
淡い光が本から立ちのぼり、地面の影が揺れる。
「ふっ……はぁっ!」
リーネの槌が木人を叩く音が響く。
それぞれが自分の課題に向き合っていた。
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だが、その空気を壊すように――
「おい、なんだよこれは!」
怒鳴り声が響いた。
振り向くと、訓練所の中央でひときわ大きな男が立っていた。
灰色の短髪に筋骨隆々の腕。手には戦斧。
Eランクパーティ《ウルフバイン》のリーダー、ガルドだった。
彼の足元には、無惨に倒れた木人があった。
胴の部分が真っ二つに割れ、木片が散らばっている。
「お前ら、何してくれてんだ!」
「え……?」
リーネが目を瞬かせる。
「お前らが魔法だの槌だの振り回すから、衝撃で木人が倒れたんだろ!」
「えっ!? そ、そんなはずは……!」
セリアが慌てて否定しようとするが、ガルドは聞く耳を持たない。
「見りゃわかるだろ、木くずの飛び方がそっちからだ!」
リーネは一歩前に出て言い返した。
「待ってください! 私たちは離れた場所で練習してました!」
「口だけは立派だな。じゃあ証明してみろ」
ガルドが戦斧を肩に担ぎ、挑発的に笑う。
「模擬戦だ。俺を倒せたら信じてやる」
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「えっ……!?」
リーネとセリアは顔を見合わせた。
挑発に乗るのはまずい――そう頭ではわかっていた。
けれど、リーネは歯を食いしばる。
(……ここで引いたら、絶対にナメられる)
「わかりました。――受けます!」
「おいおい、本気か?」ガルドが笑う。
「後悔すんなよ!」
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リーネは槌を握り直し、セリアが魔導書を開く。
訓練所の空気が一気に張り詰めた。
「いきます!」
リーネが地面を蹴る。
槌を振り下ろし、ガルドの懐を狙う――だが、
「遅ぇ!」
ガルドが一歩で距離を詰め、戦斧の柄で弾き返した。
金属音が響き、リーネの体がよろめく。
「リーネさん!」
セリアが詠唱を重ねる。
「――影よ、絡み、彼の足を縛れ!」
黒い影が地面から伸びるが、ガルドは踏み込みでそれを断ち切った。
「小細工が効くかよ!」
斧が横に薙がれ、風圧だけで砂が舞う。
リーネは必死に槌で受け止めたが、腕がしびれ、膝が沈む。
「くっ……!」
力の差は歴然だった。
ガルドが笑う。
「どうした? それで終わりか!」
「まだ……!」
リーネが再び立ち上がろうとした、その瞬間――
「ガルド!!」
鋭い声が訓練場に響き渡った。
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振り返ると、槍を手にした女性が立っていた。
金髪を後ろで束ね、凛とした瞳がガルドを射抜く。
《ウルフバイン》のサブリーダー、ライナだった。
「なにやってるの。訓練所で新人に手を上げるなんて、恥を知りなさい!」
その一言で、場の空気が一瞬にして凍りついた。
誤字脱字はご容赦ください。
時間を見つけて訂正していこうと思います。




