4話「休息と出会い」
1日1〜2話を目標に執筆できればと考えています。
気づけば、窓の外に淡い朝の光が差し込んでいた。
「……ふぁぁ、よく寝たぁ」
昨日の疲れがすっかり取れて、体が軽い。
柔らかい寝台の上で体を伸ばすと、筋肉が軽く鳴った。
初めての依頼をやり遂げた充実感が、胸の中に静かに残っている。
窓を開けると、街のざわめきが流れ込んできた。
馬車の音、パン屋の鐘、通りを行き交う人々の話し声。
サーブルの朝は、いつも明るくてどこか穏やかだ。
「よし、ギルドに行こっ」
昨日ギルドに預けた魔獣の素材。
その買取査定がどうなったか、確認しに行く時間だ。
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サーブル冒険者ギルド。
街の中心に建つ石造りの二階建て。
重厚な木の扉を押して中に入ると、朝の光が窓から差し込み、木の床に柔らかく反射していた。
冒険者たちが依頼板の前に集まり、受付ではミリアがいつもの笑顔で対応している。
「リーネちゃん! おはようございます!」
「おはようございます、ミリアさん!」
「昨日の素材の査定ですね? えっと……」
書類をぱらぱらめくりながら、ミリアが申し訳なさそうに首を傾げた。
「すみません、もう少し時間がかかるみたいです。お昼ごろには報告できると思います!」
「大丈夫です! また来ますね!」
軽く手を振って、ギルドを後にした。
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外はすっかり朝の喧騒。
石畳の通りには、露店が並び、果物の甘い香りと、パンを焼く匂いが混じり合っていた。
屋根の上では猫が昼寝をし、行商人が声を張り上げる。
そんな中、ふと聞き覚えのある声がした。
「もしかして……昨日ぶつかった方、ですよね?」
振り向くと、金色の髪を揺らした少女が立っていた。
「えっ、昨日の……!」
「やっぱり。覚えていてくれたんですね」
その微笑みは、昨日の一瞬よりもずっと柔らかくて、目が離せなかった。
「もちろん! あの、ごめんなさい、昨日は急いでて……!」
「いえ、私のほうこそ。落とした紙を拾ってくださってありがとうございました」
彼女は少し頬を染めて笑った。
「……もしお時間あるなら、お礼も兼ねて、お茶でもどうですか?」
「え、いいんですか!?」
「はい。すぐ近くに、落ち着いた喫茶店があるんです」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて!」
自然と返事が出ていた。
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二人で歩く街路は、昼の光に包まれていた。
喫茶店「ルーメン」は、蔦が絡む白壁の建物。
扉を開けると、カランと鈴が鳴り、ハーブと焙煎豆の香りが広がる。
「いらっしゃいませー!」
木のテーブルに案内され、窓際の席に座った。
温かい紅茶を注文し、少しの静寂が訪れる。
陽光が差し込んで、彼女の金髪が透けるように輝いていた。
「……昨日からずっと、あなたのことが気になってたんです」
「えっ?」
「ギルドのカード、見えちゃって。私、冒険者の人を近くで見るの初めてで」
「そっか……。うん、私も登録したばかりなんですけどね!」
そう笑うと、彼女も微笑んだ。
少しして、彼女がカップを置いて言った。
「そういえば、私まだ名乗ってませんでしたね。セリアっていいます」
「リーネです! 改めてよろしくね!」
「リーネさん……。うん、いい名前」
「ありがとう。セリアさんも、素敵な響き」
二人で笑い合いながら、喫茶店の穏やかな時間が流れていった。
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話題はいつの間にか、冒険のことに移っていた。
「……私も、冒険者になってみたいなって思って」
「ほんと!? いいと思います!」
「でも、私、魔法がちょっと使えるくらいで……」
「それなら十分! きっと才能あります!」
「そ、そうかな……」
少し照れるセリアの姿がなんだか嬉しかった。
「それじゃあ、登録してみましょう!」
「えっ、いま!?」
「うん! ちょうどギルドに行く用事があるんです」
「そ、そんなに早く……でも、リーネさんが言うなら」
顔を見合わせて笑い、ふたりは喫茶店を出た。
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午後のサーブルの街は、穏やかな風が吹いていた。
ギルドの扉を押すと、ミリアが明るく顔を上げる。
「リーネちゃん、どうされました?」
「この子の登録をお願いしたいんです!」
「えっ、あ、はいっ!」
セリアが慌てて頭を下げた。
「はいはい、落ち着いて大丈夫ですよ!」
ミリアは笑顔で頷き、奥に声をかける。
「ハルドさーん! 新規登録お願いしまーす!」
記録員ハルドが、静かに姿を現した。
「新規登録か。……手を」
無口な声で、水晶球を机に置く。
セリアが両手を添えると、淡い光が水晶の奥に浮かんだ。
「判定完了。“アンブラメイジ”」
「アンブラメイジ……?」
ミリアが柔らかく説明する。
「影を操る魔法職ですね。支援も妨害も得意なんですよ」
「へぇ、すごい……!」
「リーネさんの“カースメーカー”と相性良さそうですね!」
「たしかに!」
ハルドは淡々と書類を書き、鉄製のギルドカードを差し出した。
「登録完了。Hランク。無理をするな」
「ありがとうございます!」
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ミリアが顔を上げて言った。
「お二人、せっかくですしパーティーを組まれては?」
「えっ、パーティー?」
「はい! 初心者同士なら助け合えると思います!」
「うーん……どうする?」
「リーネさんさえよければ……」
「もちろん! 一緒に!」
「じゃあ、登録の手続きを――」
そのとき、低い声が割り込んだ。
「――査定、出たぞ」
ハルドが無表情で書類を持って現れた。
ミリアが小声で「もう少し待ってくださいよぉ……」と苦笑する。
「魔獣素材一体、状態良好。報酬追加。銀貨一枚」
「ありがとうございます!」
「……パーティー登録は明朝にしろ。記録班が今は埋まっている」
言い残して去るハルドの背中を、ミリアがため息まじりに見送った。
「……ほんと、タイミングだけは完璧なんですよね」
「ふふっ、そうみたいですね」
二人で思わず笑い合う。
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ギルドを出ると、夕日が街を金色に染めていた。
通りの石畳が光を反射し、風が柔らかく吹く。
「じゃあ、明日の朝ギルド前で!」
「うん、また明日!」
セリアが手を振る。
その笑顔を見て、胸の奥が少し温かくなった。
(……これが、“誰かと歩く冒険”のはじまりかも)
明日の朝が待ち遠しくて、私は軽い足取りで街を歩いた。
誤字脱字はご容赦ください。
時間を見つけて訂正していこうと思います。




